944話 深淵細胞の代償
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
昨日はあれから【骨笛ネクロマンサー】の蜘蛛糸操作の特訓に付き合っていたがいまいち成果が上がらなかった。
基本的な蜘蛛糸を飛ばすことや、相手に巻き付けることについては問題ないようだったがそれ以上の応用をしようとするとパッとしないのである。
というわけでやって来ましたクラン【検証班】のたまり場……木々をくり貫いて作られた建物である【メッテルニヒ】!
ここに【検証班長】の意見を聞きに来たのだ!
「ふひひっ、実はここに入るの初めてなんですよねぇぇ……
あてぃしはソロプレイヤーだったので【コラテラルダメージ】以外の他のプレイヤーとの関わりがほとんどないんですよぉぉ……」
人望がない俺と引きこもりの【骨笛ネクロマンサー】という最悪の組み合わせで一階の受付を顔パスで素通りして二階へと上がっていく。
【検証班長】による厳戒態勢が解かれたので、再び我が物顔でこの【メッテルニヒ】を闊歩できるのはありがたい話だ!
そうして二階にたどり着くとそこには【検証班】のメンバーが集めてきた情報が記された書類に目を通している白衣にメガネの男……【検証班長】の姿があった。
その作業に没頭しており俺たちが来たことに気がついていない様子だな。
「あれ、【包丁戦士】さんいつの間に……?
全く気がついてなかったよ」
まあ今上がってきたばかりだし全く問題ない。
それよりお前に聞きたいことがあって来たんだけど。
「それは後ろにいる【骨笛ネクロマンサー】さん関係のことかな?
そんなに離れていないでもう少し近くに来てくれてもいいですよ」
俺の後ろに隠れながらおずおずと【検証班長】の様子を窺っていた【骨笛ネクロマンサー】だったが、その言葉で安心したのか俺の横に立ち位置を変えたようだ。
これで話を進められそうだな!
実は【骨笛ネクロマンサー】の【深淵顕現権限】について今調べていてな。
深淵細胞を取り込んだときに発生するデメリットについて聞きたかったんだ。
ボマードちゃんや【トランポリン守兵】お嬢様は意識が乗っ取られるデメリットを受けていたが、【骨笛ネクロマンサー】はその傾向がない。
【検証班長】も意識が乗っ取られている様子がないから似たようなデメリットの可能性があるって思って意見を貰いに来たんだ!
「……そういうことでしたか。
ボクも意識が無くなるデメリットを覚悟して深淵細胞を受け入れたんだけど全くなくて拍子抜けしちゃったんだよね。
でも、それに相当するデメリットは確かに受けているよ。
それは、落下ダメージで即死するようになったのと、【生命花】耐性がかなり低くなったことだね。
1メートルくらいの高さから落ちただけでも死んでしまうのは非常に不便だよ……」
わりと恒常的に不便なデメリットだな……
俺は普段からそれくらいの高さを飛び降りることが多いので、同じデメリットを受けてしまったら無意識に死んでしまうだろう。
それに、突き上げ攻撃を受けて軽く上に飛ばされ落ちたらその場で死ぬのも戦闘しにくさを助長させる要因となる。
それに俺が火属性に弱くなっているように【検証班長】も【生命花】の力に弱くなっているみたいだな。
意識を乗っ取られるよりはマシ……か?
いや、下手するとこっちの方がきついかもしれないな……
「ふひひっ、あてぃひもそういうデメリットを既に受けているんですかねぇぇ……
全く気づいてなかったんですけどぉぉ……」
「それは検証しがいがあるね!!!
是非ともボクに調査を手伝わせて欲しいですよ!!!」
ポロリと漏らした【骨笛ネクロマンサー】の発言に【検証班長】が食らいついていく。
ミチの情報を前にした【検証班長】は、餌を前にした獣のような獰猛さを剥き出しにして【骨笛ネクロマンサー】の手を両手で掴みとった。
その迫力に【骨笛ネクロマンサー】は思わず後退りしてしまい、顔をひきつらせている。
女子相手にその距離感は恐怖でしかないだろうから当然の反応だ!
【検証班長】はもう少し女付き合いをした方がいいぞ?
「ボクがよく話す女性プレイヤーといえば【ペグ忍者】と【包丁戦士】さんくらいしか居ないからついその癖が出ちゃうんだよね……
二人とも異質なのは分かってるけど距離感がバグってくるのは仕方ないです」
あん?
【ペグ忍者】はともかく俺を異質扱いするとはいい度胸じゃないか!?
……まぁ、否定はしないが。
劣化天子に否定できる材料などありませんからね……
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