941話 蜘蛛糸修行
「ふひひっ、あてぃしが【ファイヌル】さんのところに来たのはそろそろアレを譲り受けたいからですねぇぇ……」
アレ……?
何だろうか?
【骨笛ネクロマンサー】が意味ありげに問いに答えていたが俺には何を指しているのか分からなかった。
ユニーククエスト関係だから俺に分からないように意図的にそうしているんだろうが、聞いている方からするともどかしさを感じるばかりだ。
うーん、なんだろうな……
【ではまた修行を受けるということでいいのでござるな?】
「ふひひっ、問題ないですぅぅ……
【包丁戦士】さんは少し離れて見ていて下さいねぇぇ……」
どうやら【ファイヌル】の発したユニーククエストは修行らしい。
【骨笛ネクロマンサー】と修行……イメージが全く噛み合わないが今から始まるようだし言葉通り離れたところからじっくり見させてもらうとしよう。
【ではいざ尋常に……】
【3……2……1……0!】
【【儡蜘蛛糸】!】
その直後、全方位から【骨笛ネクロマンサー】に向かって蜘蛛糸で作られた槍が襲いかかってきた。
不味いっ、【骨笛ネクロマンサー】は機動力に長けているわけでも防御に長けているわけでもない……つまりあれで即死だろう。
……と思っていたが【骨笛ネクロマンサー】はなんと無傷でその場に立っていた。
だがその代わりに、周りには砕け散った骸骨が何十体分も転がっている。
これはability【粉骨再身】とスキル【堕音深笛】の合わせ技で生み出した骸骨兵たちを盾代わりに使ったのだろう。
「ふひひっ、【包丁戦士】から教わった戦術ですよぉぉ……
『肉壁は正義』……ですぅぅ!」
おぉ……っ!
俺の言葉をきちんと学習してるんだな!
ちょっと嬉しい。
【骨笛ネクロマンサー】はあの時居なかっただろうが、【ジェーライト=ミューン】討伐の時には肉壁戦術が最適解だった。
多物量は時に質を上回るからな!
クラン【コラテラルダメージ】の後発組……【骨笛ネクロマンサー】と【バットシーフ】後輩と【フランベルジェナイト】に戦闘指南を時々してやるんだが、その時に肉壁戦術のことを話したことがあるのでそれを念頭にこの防御を思いついたのだろう。
「ふひひっ、骨粒リソースが一気に無くなるのであまりやりたくないんですけどねぇぇ……
でも肉壁前提なら低品質でも問題ないので戦わせるよりは多く骸骨が出せますよぉぉ……」
そんなわけで蜘蛛糸の槍を防いだわけだが、これで修行は終わり……なわけなかった。
地面に散らかっていた骸骨たちが立ち上がり【骨笛ネクロマンサー】に襲いかかり始めたのだ!
おいおい、制御しきれていないのか……?
「ふひひっ、これは【ファイヌル】さんのスキル【儡蜘蛛糸】の能力ですぅぅ……」
【骨笛ネクロマンサー】の言葉でふと思い出した。
そういえばルル様が【菜刀天子】戦で【儡蜘蛛糸】を使ったときに、【菜刀天子】やボマードちゃんのスキルの制御を奪っていたな。
【ここまでは前と同じでござるな……】
【このままでは合格はあげられないでござるよ!】
【ファイヌル】は【骨笛ネクロマンサー】を叱咤しながら制御を奪った骸骨を差し向けていく。
「少しだけ違いますよぉぉ……
肉壁にした骸骨たちに武器を持たせませんでしたぁぁ……
これで攻撃力が落ちてくれますねぇぇ!」
この流れを前にもやったということで【骨笛ネクロマンサー】は骸骨たちに武器を持たせていなかったんだな!
単純だが有効な戦術だ。
疑似刀狩り……みたいなものだろう。
【これは考えたでござるな!
でも、甘い!】
【ファイヌル】に操られた骸骨たちが集結していき一体の巨大骸骨へと変化していった。
そして、その巨大骸骨が拳を握り締め【骨笛ネクロマンサー】に向けてパンチを放ってきたのだ!
その勢いは轟音を響かせるエンジンのように不気味なもので、これを正面から受けてしまえばひとたまりもないだろうな。
そして案の定【骨笛ネクロマンサー】はそのまま抵抗できずに押し潰されて光の粒子と化していった……
対策してきたとはなんだったのか……?
「ふひひっ、戻ってきましたよぉぉ……
まさかあんな風にあてぃしの骸骨を利用されるなんて思いませんでしたねぇぇ……」
まあ、確かにあれは予想できないよな。
骸骨をそのまま奪われるのはともかく、変形合体までさせてくるなんて予想できるやつは居ないだろう。
【【骨笛ネクロマンサー】殿は行動の手札が少なすぎるでござる。
もちろんスキルの数を闇雲に増やせばいいというわけではなく、その手札の活かし方がまだまだ甘いでござるよ!
拙者の【儡蜘蛛糸】だけでもこれだけ色々出来るのでござるから、多くのレイドボスたちの力を取り込んだプレイヤーである【骨笛ネクロマンサー】殿はもっと多くのことができるはず!】
こいつ、深淵種族なのにわりと真っ当なことを言うんだな!?
【Bottom Down-Online Now loading……】