938話 蜘蛛糸のような細い糸口
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
結局ルル様の強化フォーム以外は手に入らなかったが、あの空間に足を踏み入れた感覚だとそれ以上を望むのは今の俺では無理だということが分かった。
せめて今持っていない深淵細胞をあと一つくらい取り込むことが出来ればあのアナウンスの先くらいはみえそうなものだが……
あっ、そういえば居たな!
俺が認知していて深淵細胞を取り込んでいないレイドボス……【忍び寄る蜘蛛糸】!
忍者っぽい喋り方をするドでかい黒い蜘蛛である。
しかもこいつに関してはヒントを持っているやつが身近にいる。
だからこそノーヒントで探すよりはずっと難易度が低いだろう。
さっそく居場所を教えてもらいに行こうか!
「ふひひっ、嫌ですぅぅ……」
ダメだった。
同じクランメンバーじゃん!
ちょっとくらい教えてくれたっていいじゃんかよ!
俺は出会って早々に断られたのを根に持つようにして少し拗ねながら頬をぷくっと膨らませつつ、首を【骨笛ネクロマンサー】から背けた。
俺が知るなかで【忍び寄る蜘蛛糸】由来の深淵細胞である【Φ細胞】を唯一保有するプレイヤーが緑髪の根暗女……【骨笛ネクロマンサー】なのである!
何としてでもこいつから情報を引き出さねば……と思った俺は初手で拗ねてただをコネ始めたのだ!
なんとも大人げないが手段なんて選んでられないぞ!
「ふひひっ、いつにも増してしつこいですねぇぇ……
あてぃしと【ファイヌル】さんの出会いの経緯は秘密にしたいと前に言いましたよぉぉ……」
【骨笛ネクロマンサー】はダウナー気味で俺に反論してくるがそんなこと知ったこっちゃない。
それはそれ、これはこれだ!
必要な情報の手がかりが目の前にあるっていうのに、手をこまねいて見逃し続けるのは精神衛生的に非常に良くない。
「そんなこと言われても教えられないものは教えられないんですよぉぉ……
まだ達成してない条件があるのでぇぇ……」
おっ、ポロリと情報を漏らしたな?
今まで頑なに何も教えてくれなかったが、何やら条件というものがあるらしい。
情報共有に対して制約がかけられているユニーククエストでも受注しているんだろうか?
あー、いい、いい。
ここでそれ以上漏らしたらクエスト失敗になるんだろう?
俺の前で目が不自然なほど左右に泳ぎ始めた【骨笛ネクロマンサー】の様子を見て俺の推測が合っていたことを確信した。
顔が青ざめ、冷や汗で水溜まりができるほどの緊張感で俺と対峙しているんだから普段は相当慎重に情報を隠蔽していて、ミスが出てしまったのが致命的だと思い至ったのだろう。
だがもう遅い!
その条件とやらの達成を俺が手伝ってやろう!
「ふひひっ、そのお零れを掠めとるつもりですねぇぇ?
でもその条件ならついてきてもらってもいいかもしれませんねぇぇ……
【包丁戦士】さんなら深淵に理解が深いので、あてぃしの問題の助けになってもらえますかもぉぉ……?」
そう言いながら視線を宙に向けながら思案している【骨笛ネクロマンサー】。
俺を連れていくメリットとデメリットを天秤にのせているんだろうけど、考えるまでもなく何が起きるかは明白だろう。
メリットはこれまでの経験則から深淵に関する手がかりについて助言できる点だな。
深淵奈落やルル様、そして数々の深淵細胞や深淵スキルを使いこなしているのでその引き出しを活かせるかもしれないというのもある。
その一方でデメリットは、俺が報酬をかっさらう可能性や状況をメチャクチャにしてしまうことだろう。
自分で言うのも癪だが、これまでのレイドバトルやユニーククエストでも思わぬ方向に事態を動かした実績があるからな!
良くも悪くも……な。
「ふひひっ、そうですねぇぇ……
だから悩みますけどぉぉ……
せっかくなのでついてきてもらいましょうかぁぁ!」
やったぜ。
ようやく【ファイヌル】の手がかりにたどり着くことができたぞ!
【菜刀天子】討伐総力戦前に一度邂逅したっきりでその後はレイドアナウンスすら聞いたことがなかったが、これで何とかなりそうな雰囲気になってきた。
「ですけど、あてぃしに余計なことは聞かないで下さいねぇぇ……?
クエストの内容を話した時点で失敗になるらしいので黙ってついてきて欲しいですぅぅ……」
流石にクランメンバーのユニーククエストを失敗させることはしないから安心してくれ。
……ちなみに、他のモブプレイヤーたちのユニーククエストは何度か潰したことがあるのだがそれは秘密だ!
ファイヌルがどう動くか見物だのぅ。
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