934話 クロノドーム
迫り来る茨たちに備えミチなる力を尻尾に蓄積し、今解き放つ!
するとどうだろうか、そこから生み出されたのは【ジェーライト】が得意とする【侵略】の力を保有した毒球である。
俺の顔くらいの大きさの禍々しい色をした毒球が、極太レーザーを放っていない残りの四本の尻尾から放たれ茨に激突しようとしている!
この状況で役立ってくれるならなんでもいい!
いけぇぇぇぇぇぇ!!!!!
俺の叫びに呼応するかの如く毒球は勢いよく茨にぶつかった後、茨の表面に薄く広がっていった。
まるで毒沼のような……
そうか、これは【ジェーライト】が使っていた毒沼能力の亜種か!?
そして毒球によって腐食していった茨に極太レーザーが直撃し、爆音と共にそのまま茨を貫通し粉砕していった。
……これはもしやいけるのでは!?
二種類の【魚尾砲撃】の組み合わせに手応えを感じた俺は意気揚々と茨を掻い潜りこれまで移動すら不可能だったため進められなかった【深淵奈落ー深層 エルルイエ】の探索を開始することにした。
今現在も茨が追撃してくるのだが、都度毒球と極太レーザーの連携で撃墜させ続けているのでゆっくりであるが移動出来ているためである。
八本の尻尾のうち一本は逃走用に極太レーザーを逆噴射させており、今の俺はジェット噴射で動く飛行機と見間違えられてもおかしくないかもしれない。
それほどの衝撃と速さを以て迫り来る茨と鼬ごっこを繰り返していく。
そうしていると黒い霧で覆われたドームのようなものを見つけることが出来た。
この階層で初めて見つけることが出来た異物だから接触は慎重になるべきだろう。
……という理屈は分かるが、そんなもん知るか!
茨に追われてるのに今さら慎重もクソもない!
掴まれっ、突っ込むぞ!!!
俺は誰に言うでもなく自分自身に言い聞かせながら覚悟を決めて黒い霧のドームへと侵入していくのだった。
俺は徹底して不用意にドームへ触れないようにしつつ内部へと進んでいく。
すると、さっきまで俺を親の敵とでも思っているかのように追跡し続けてきていた茨が引き返していくではないか!
これはまさに僥倖!
ついにあの厄介なギミックを攻略できたってわけだ。
アルベーの【阻鴉邪眼】とジェーライトの【魚尾砲撃】……それぞれのスキルが新たな効果を発揮することではじめて成し遂げることが出来て本当に良かったが、今回のごり押しだったので本来は別の方法での突破が想定されていたに違いない。
このギミックを考え作り上げたやつには申し訳ないが、これもまた俺の答えなのだから正解としてもらう他ないだろう。
へへっ、ざまーみろ!
こうしていい気になりつつドームの奥に進んでいくと、そこには五芒星の魔法陣が中心に描かれた大広間が現れた。
大広間といっても照明があるわけでもなく黒い霧の中であるため暗く淀んだ雰囲気である。
それに加えて緊張感と息苦しさを感じてきた。
深淵に馴染んだはずの俺でさえ対応しきれない濃厚な深淵の霧がここには漂っているらしい。
なんとも嫌な予感しかしない危険な場所だな!
だが危険な場所だからといって引き下がるわけにもいくまい。
せっかく茨を潜り抜けてたどり着いた場所なんだから命を捨てるつもりで調べさせてもらおう!
……まぁ、プレイヤーの命なんて新緑都市アネイブルのほのぼの市場にある消費アイテムよりも軽いけどな!
無限に生き返る存在なんだから仕方ないが、微妙に釈然としないぞ。
内部構造を見ても俺が見知っている遺跡たちとは構造が異なっており、一見するだけでは分析すら困難だ。
これまで見てきた天子王宮やその他建造物は現実世界でも類似の装飾や構造をしているものがあったのだが、この【深淵奈落ー深層 エルルイエ】にあるこの黒い霧のドームはその例に該当しない異質な存在だ。
まるで遺跡でも建造物でもないような……
そんな感覚さえ覚えてしまうほど俺の経験と合致しないのである。
こんなものリアルで見つけたら学会も世間もビックリするだろうな!
世紀の大発見という言葉すら生温い、これまでの常識をひっくり返すものである。
そもそも何処にもドームを支えるような支柱が存在しておらず、ドームの端も地面から浮いているので現実味がない。
それに中央で怪しく光っている五芒星の魔法陣がよりファンタジーらしさを強調してきているので、逆に我に返るほどである。
五芒星の魔法陣を調べる前に一通り大広間を隅から隅までじっくり観察させてもらったが、空間の異質さに対してこれといって発動しそうなギミックが用意されていなかった。
身構えていたのにこの有り様でひどく拍子抜けしてしまったが、どう考えても「ギミックですよ~」と言わんばかりの五芒星の魔法陣があるので気落ちはしなかった。
カッカッカッ、覚悟を見せるのだ!
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】