929話 罪の重ね方
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
今日は【大罪魔】に会いに行こうか。
あいつはしばらく放置しておくと俺に思念を飛ばしてくるからな……
【大罪魔】とはフレンドではないので、【渡月伝心】とは別のギミックを使っているんだろうがそれを教えてくれる気はないので俺も深くは聞いていない。
というわけでやって来ました堅牢剣山ソイングレスト!
【大罪魔】はそこで【強欲】の力を発動させ、ピッケル次元のMVPプレイヤーである【石動故智】の姿を晒していた。
頭にはヘルメットを被り、マント付きの金属鎧をしているのでいつもより凛々しく見えるぞ。
なんだなんだ?
大規模戦闘でも起こしてるのか!?
テンション上がってきたな~!
と、俺が勝手にテンションを上げていたのだが【大罪魔】の表情からするにどうも違うらしい。
「戦闘だったり戦闘じゃなかったりする……」
【大罪魔】はいつも通り、そんな毒にも薬にもならない言葉を吐きながら俺の方へと寄ってきた。
手にはピッケルが握られており、まるで命を刈り取るような気配さえあるが……
そこまで力を解放して戦闘じゃないとかあり得るのか?
「今は採掘をしている最中なの!
この【強欲】の力は岩や土を削るのに最適だったりする……
【暴食】が手に入れてきたこの力がユニーククエストで占領したエリアとの相性が良かったのは僥倖なの」
そういうことか!
これまで【大罪魔】は俺が喰らってきた大罪の力を戦闘にしか使ってこなかったが、別にそんな縛りがあるわけではないらしい。
【強欲】……つまり【石動故智】は採掘特化の一次産業型の生産プレイヤーだからその強みを活かすというわけだな。
【大罪魔】は【名無し】となったクシーリアから拠点を奪い、その拠点を改造中なので採掘能力を存分に発揮できるチャンスというわけだ。
便利な能力を持ってきた俺に感謝しろよな!
「感謝したり、感謝しなかったりする……
とりあえず【名無し】と底辺種族たちが微調整しやすいように今のうちにガリガリ岩を削っていくの!
目指せ魔窟……なの!」
魔窟って目指すものなのか?
良くないものが集まる場所っていうイメージのワードだからむしろ悪化してそうなるべきだろ……
俺はそう訝しんだが、よくよく考えてみたら俺もクランの名前を【コラテラルダメージ】にしていたり、船の名前を魔海城船アンサンセにしていたりするので人のことは言えなかった。
巻き添え被害と狂人だからな……我ながらよくもこんなに外聞の悪い名前を思いついたものだ。
どう考えても悪の組織だろ……
「悪は推奨されることなの!
悪は欲望の根源だったり、その発露だったりする……
私の大罪はその欲望が元となったものだから【暴食】の感性は私にとって好ましいものなの」
そ、そういうものなのか……?
でも【正義】の大罪とかあったじゃん、聖剣次元のMVPプレイヤーである【ランゼルート】から喰らって俺も一部を保有しているやつだ。
でも【正義】の捕食称号を【大罪魔】は取り込もうとしなかった。
それは大罪でも相反するものがあるということだろ?
「【正義】も欲望の一つだったり、違ったりする……
方向性は違っても性質は同じだから大罪に含まれているの!
その欲望とどう向き合うかが大罪の力を成長させる鍵だったりするの。
【暴食】は欲望に素直なようで、実は歪だったりおかしかったりする……
だから行動のわりに烙印が重なっていかないの!」
珍しく【大罪魔】から使えそうなアドバイスがもらえたな。
こいつ、ペラペラ喋っているように見えて俺にとって使える情報を全く回してこないから、情報面だけで言うのなら【上位権限】レイドボスたちの中でも残念なやつだろう。
……ちなみに一番残念なやつは【荒野の自由】だ。
あいつは俺をサーチアンドデストロイしてくるので会話すら成立しない。
論外だぁ!
それにしても【大罪魔】のアドバイスは他の次元の大罪の使い手である【綺羅星天奈】や【ロイス=キャメル】からも似たようなことを言われた記憶がある。
あいつらの考察は強ち間違っていなかったということだろう。
お陰であの次元戦争では一皮剥けたが、それ以降また伸び悩んでいるので俺の中の噛み合わない歯車をきっちりとハメてあげたいところだ。
……何にしても、これは本格的にゲーム運営プロデューサー【山伏権現】の誘いに乗ることも考えた方がいいかもしれない。
超越的目線から物事を観る【山伏権現】であればゲーム内だけじゃなくて根本的に俺の悩みを払拭してくれる……そんな予感もあるからな!
あったり、無かったりする……
【Bottom Down-Online Now loading……】