921話 孤高なる深淵の流儀
「じゃが、デバフをかけたところで【プシーナク】には勝てぬじゃろ。
なにせお主のスペックが低いままなのじゃからな!」
【オメガンド】は自らの優位性を疑いたくないのか俺に不利という現状を伝えてきたが、それは俺も知っている。
だからこそこのスキルを使わざるをえないだろう。
ここは出し惜しみところじゃないからな!
スキル発動!【深淵纏縛P】!
俺の背中に右骨翼周辺にもやがかかり、黒い羽が形成された。
また、それと同時に俺の身体も黒いもやに覆われて、新たな服へと変化させていく。
そして、黒いもやが晴れた時、俺が着ていた服は緑色がメインで、黒色のフリルのついたゴスロリへと変化していた。
結構フリフリした衣装で初めは恥ずかしさを感じていたが、もはや慣れてきてしまった。
随分と付き合いの長いフォームだからな!
「おうおう!
それがオメーの奥の手っつーわけか!
それならオレもこれを使うぜ!」
俺の変身した姿を見た【プシーナク】が覚悟を決めたようにしてそう呟くと、真剣な表情で呪文の詠唱のようなものを唱え始めた。
【天を舞い地を駆ける】
【揺れる魂揺れる身体】
【古傷傷み蝕む心】
【船着き場も出航へとの道しるべとなる】
【さあ、全てを置き去りしものよ翻し進みゆけ!】
【最適化による適性特化【天手古舞】!】
【【花清濁流】!!!!!】
【プシーナク】が詠唱を終えると、その身体に流れていた水が翼へと集約されていき形を変えていった。
左右に二枚の巨大な花弁の形をした翼となり、それぞれが清水、濁水だけで形成されて左右対称となっている。
身体には流れる水が無くなったので防御力は大幅に低下しているだろうが、その分翼が異様な性能になったのは間違いない。
移動に不要な無駄を削ぎ落としたという感じだろう。
これは……【短剣探険者】が持っているability【天手古舞】を応用した変形だなっ!?
【オメガンド】もレイドボスの時に似たようなことをしてきた。
そして、この【天手古舞】を持っていることだけは予想していた。
それはアイドルイベントの時にゲーム運営プロデューサーの【山伏権現】がポロリと呟いていたからな。
【オメガンド】の例も合わせればこの展開を読めるだろう。
……というかこれを待っていた!
【プシーナク】は気にしていなかっただろうが、水の表皮と俺の攻撃の相性は非常に悪くそのままだと勝ち目は薄かった。
だからこそ、それが無くなる可能性にかけて翼のあるルル様フォームにしたわけだ!
単純なやつで助かったぞ……
まずは手始めにこれで攻めさせてもらうか。
スキル発動!【魚尾砲撃】!
俺はルル様の翼から極太レーザーを放ち姿を変えた【プシーナク】へと攻撃を浴びせにいく。
負けん気の強い【プシーナク】ならこの後の反応は……
「おうおう!
オメーも【魚尾砲撃】の使い手か!
いいぜ、面白くなってきたじゃねーか!
同じスキルで迎え撃ってやるぜ!
飛ばせっ、【魚尾砲撃】!」
【プシーナク】は俺と同じように極太レーザーを放ち中間地点でぶつかり合っていく。
高密度のエネルギー同士がぶつかりあい生まれる衝撃波によって俺と【プシーナク】は吹き飛ばされそうになるが、それでもお互いに踏ん張り耐えきっているのは負けてたまるかという意地だろうか。
……ちっ、流石はレイドボスっ!
不完全ながら深淵の力をここまで強力にして放つとはっ!
ability【天手古舞】の効果もあってか攻撃力の増している【プシーナク】の【魚尾砲撃】に押し返されていっている。
このままでは【フランベルジェナイト】の二の舞を演じることになるだろう。
だからこそここで逆転の布石を打たせてもらおう。
聴けっ、お前の正体は見破った!
【プシーナク】、お前の名前は【寄聖獣ジェーライト=プシーナク】だっ!
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】が【名称看破】しました】
【【地蒜生渓谷メドニキャニオン】のレイドボス【底無し沼の水竜】】
【【包丁戦士】「聴けっ、お前の正体は見破った!
【プシーナク】、お前の名前は【寄聖獣ジェーライト=プシーナク】だっ!」】
【【ジェーライト=プシーナク】の特殊防御権限が1部解除されました】
【【ジェーライト=プシーナク】の【名称公開】により】
【知名度に応じたステータス低下効果付与】
俺が力一杯叫ぶと無機質なアナウンスがエリアに広がっていき、名前による縛りを強者へと与えていった。
すると【ジェーライト=プシーナク】は体勢を崩し、さらには【魚尾砲撃】の出力をみるみる落としていっている。
【封地剣マヒク】によるデバフ効果も乗算されて、弱体化作戦は効果覿面だな!
「おう……
急に身体から力が失われていくぞ!?
なんつーことだ……」
そんなデバフの連鎖に苦しむ【ジェーライト=プシーナク】は言葉からも力が失われつつあることを読み取ることができた。
「お主、既に分かっておったのじゃなっ!?
さてはこの【魚尾砲撃】のぶつかり合いを読んで温存していたのじゃな」
ご明察ぅ!
完全に制御出来ていない深淵スキル【魚尾砲撃】を使っているときに急激に弱体化すればその力のフィードバックが自らを苦しめるっていう寸法だ!
これが嫌われもの深淵種族の戦い方ってわけさ!
孤高なる深淵の流儀、恐れ入ったか!
なんと陰湿な戦い方なのでしょう……
全く、これだから劣化天子は次元天子の風上にも置けないのですよ……
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