917話 黒き竜の覚悟
そんなわけでクラン【冒険者の宴】も【検証班】も突破し、竜の里に足を踏み入れた俺と【フランベルジェナイト】。
プレイヤーたちは最前線で争っているからか、里全体に人はおらず閑散としていた。
普段の地蒜生渓谷メドニキャニオンでは考えられないほどで、まるで廃墟に足を踏み入れてしまったのではないかと錯覚してしまうくらいであったのだ。
「……でも、プレイヤーたちがいないのにこの張り詰めた空気はいただけないよね?
まるでフェイちゃんと俺を誘っているみたいに気配を隠さずに垂れ流してきているし、罠か……そうじゃなくても万全の状態で待ち構えた【プシーナク】と【オメガンド】がいる。
でも俺たちが勝つためにはそこに行かないといけないんだ。
……あそこに行く覚悟が出来たら教えてね、それまで俺が側で支えてあげるさ!」
だが、そう言う【フランベルジェナイト】の手も若干震えていた。
強大な敵に……それも自身の天敵となる相手に挑むというのは誰であれ恐怖するものだ。
【へぇ……】
……なんだよ、俺もそういう感情を抱くときくらいあるんだぞ!
意外そうな顔をするな【フェイ】!
お前も俺の分身みたいなものだから分かっててその表情してるだろ……
「いや、違うんだフェイちゃん。
これは恐怖しているんじゃなくて武者震いさ。
俺自身、聖剣次元の怨敵【ランゼルート】と全力で戦ってから本当の力の使い方を思い出したんだけど、あれ以降それを使うのを控えていてね。
でも、他に見ているプレイヤーが居ないなら【オメガンド】と【プシーナク】に全力をぶつけてもいいんじゃないかと身体が闘争心を煽ってきているんだ」
身体が闘争を求める……そういうこともあるだろう。
レイドボスとして組み上げられたAIなんだから、思考や本能の根底に置かれていても不思議ではない。
つまりバトルジャンキーってことだ!
特にルル様から戦闘狂と呼ばれる【ミューン】はその傾向にあるが、あいつは趣味が戦闘と食事というシンプルな構成だからそうなっているのだろう。
【フランベルジェナイト】とはまた少し事情が違うが、元レイドボスという点では同じだからどう判断していいのかは俺にも自信がないぞ!
「……そういえば他のプレイヤーが全く来ないね?
道中の敵陣営のプレイヤーはあらかた倒してきたはずだから敵プレイヤーが来ないのは分かるけど、味方プレイヤーが追ってこないのは違和感がある。
何故だろう……」
確かに来ないな……
ただ単に遅れているだけなら問題ないが、俺たちが強敵に手こずっている間にかなり時間は経過したはずだ。
だからこそ遅れているだけと考えるのは楽観的過ぎるだろう。
「そうなると俺たちは嵌められた……のかな?」
だろうな。
おそらく【検証班長】は、俺たちが【風船飛行士】や【検証班長】を突破したら再度陰に潜ませていたプレイヤー集団を同じ場所に陣取らせたのだろう。
そうして俺たち二人の退路を絶たせ必ず【オメガンド】と【プシーナク】にぶつけよう……って魂胆だな。
前門の虎後門の竜って感じか。
「今回の場合は前に竜がいるけどね。
そして後ろにいるのは大量のプレイヤーたちだ。
どうしようかフェイちゃん。
一回下がってプレイヤーたちを排除しに行くっていう選択肢もあるけど……」
【フランベルジェナイト】は俺に選択肢を委ねてきたが、俺の答えは一つしかない!
このまま【オメガンド】と【プシーナク】相手に突っ込むぞ!
ここで退いたら俺たちの消耗が激しくなるだけだ。
モブプレイヤーたちをここから一掃したとしても、時間も過ぎ去ってしまうので最悪【オメガンド】と【プシーナク】にたどり着く前にログアウトしなくてはならないハメになる。
そうなればこの特攻作戦は二度と成功させられない。
何故なら俺たち陣営にはもう戦力がほとんど残されていないからな!
それに、敵陣営プレイヤーたちも警戒を強めてくるのは見えている未来である。
だからこそここでキメ切らないといけないのだ!
「分かったよフェイちゃん、他の皆には悪いけど俺たち二人でこのまま進もう。
流石に支援なしかつ二人でレイドボスたちに挑むのは無謀に近いけど、フェイちゃんの考えならそれを尊重するよ。
だって世界がフェイちゃんの敵に回ったとしても、俺はどんなことがあろうともフェイちゃんの味方だからね」
【ふ、【フランベルジェナイト】さんっ!!
わ、私嬉しいですっ!!】
泣けることを言ってくれるじゃないか。
そこまで俺のことを信頼してくれるのなら、次の戦いでその覚悟を証明してもらおうか!
頼りにしてるぞ!
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