900話 【風船飛行士】による【冒険者の宴】定例報告会
「【風船飛行士】リーダーおはようっ!」
「オハヨー」
「お前らもうちょっと元気出せwww
このオレみたいになwww」
「【風船飛行士】さんは元気というか鬱陶しいんですけど……」
オレ……【風船飛行士】の朝はこいつらと会うことから始まる。
オレが運営するクラン【冒険者の宴】はこの包丁次元でもトップクラスに規模が大きいクランということもあって、リーダーのオレをトップにいくつか部隊を分けて活動してもらっている。
実力順に【短剣探険者】や【ブーメラン冒険者】をサブリーダー、【簾闘牛士】や【辞書暗殺者】、【炉鋳物師】などを部隊長に置いてそれぞれメンバーを率いて冒険者ギルドのクエストに挑んでもらっているわけだ。
その関係で定期的にオレへの報告会があるのだが、今日がその報告会さ。
「私と【短剣探険者】のダンジョン攻略第一部隊は日課のクエストを回してたくらいで、特に面白いことはなかったかなっ!
あのレベルのクエストのダンジョンはもうヨユーだよっ!」
「また集めた素材はクランハウスに置いておくから、【炉鋳物師】たち生産部隊に後は任せるヨ~!
ボロボロになってきた防具を新しくして欲しいんダヨネ~」
やはり最近この双子をもて余しているようだ。
このままの部隊だとついていけない奴が出てくるだろうから、部隊編成を変えて挑んでもらうクエストの難易度を上げるか。
「【短剣探険者】はもう少し防具を大事にしろwww
すぐ壊しすぎて、毎回ほぼ赤字スレスレでワロタwww
んんっwww赤字経営はアリエナイwww
【炉鋳物師】は後でこいつの装備を直してやれwww」
「またですか……
無茶な動きばっかりするから調整が大変なんですよね……
ぜひとも壊すのを自重してもらいたい……」
「ムリダヨ~!」
「そうですか、はぁ……
まぁ、採ってきてもらった素材の分は働きますとも。
貴女たち双子ほど上位の素材を集めて来られるプレイヤーはうちのクランでは他にいませんし……」
【炉鋳物師】に負担をかけている……ように見えるが、こいつはいつもこんな感じだから放置でも大丈夫だ。
型にはまった無難なものを作ることに関して、こいつを上回るやつはそんなにいないはずだから、同じ装備を量産したり直したりする分には気にかける必要はない。
他のクランの生産プレイヤーに比べると新規性に欠けるのが難点だ。
その分、【冒険者の宴】のメンバーの数が多いので複製が得意な【炉鋳物師】はこのクランに所属するのが最適解だった。
序盤で直々にスカウトした甲斐はあったというものだ。
「わてたち諜報部隊は最愛の【風船飛行士】たんの指示通り、他のプレイヤーたちの動向を調べてたわん。
新しいユニーククエストが始まってからキナ臭い動きをしてたのは……憎き泥棒猫の【包丁戦士】は当然として、【釣竿剣士】周りが慌ただしかったわ」
「オレには【虫眼鏡踊子】がいるからお前の愛には応えられないンゴwww
しつこすぎワロタwww」
「そのわりには、わて以外の他の娘たちにナンパしてる?
その言い訳は苦しいわん。
早くこの想いが【風船飛行士】たんに届いて欲しい!」
「反論出来ないンゴねぇwww
でも本命を変えるのはアリエーヌwww」
【辞書暗殺者】はオレのストーカーみたいなプレイヤーだったが、変につきまとわれるくらいなら引き込んでやれ! と思いクランに入れたプレイヤーだ。
プレイスタイルや戦闘スタイルは劣化【ペグ忍者】といったところだな。
それにしても【釣竿剣士】がこのタイミングで慌ただしい理由が全く読めない。
これまでの陣営対戦ユニーククエストでは常にオレの側に立って【包丁戦士】たちと戦ってくれていたから、おそらくは今回も【包丁戦士】と対峙してくれる……と信じているが、海エリアで新施設が出来た関係で参戦してこない可能性も考えられるか。
それと同時に、【トンカチ戦士】たちクラン【紅蓮砂漠隊】も毎回参戦が怪しい。
あいつらは都合が合えば来てくれるが、あくまでも助っ人レベルで考えておかないと計算が合わなくなる。
【虫眼鏡踊子】だけでも貸してくれないか……といつも思ってしまうのは彼氏としての独占欲だろうか?
「【簾闘牛士】たちダンジョン攻略第二部隊は、新たに【竜鱗図冊】の使い手を二人、竜人への種族転生を一人達成です!
前回からの引き続きの議題であった戦力の底上げについては継続課題として、今後も取り組んでいく次第です!」
「真面目過ぎワロタwww
【簾闘牛士】はもう少し肩の力抜いた方がいいンゴねぇwww
ノルマを課してるわけじゃないから気楽に行くゾwww」
【簾闘牛士】は特に突出した技能や戦闘力、カリスマなどを持ち合わせていないが、それでも2つ名持ちプレイヤーということもあってそれなりには戦える。
なので、【冒険者の宴】の平均戦闘力より低いプレイヤーたちの叩き上げを担当してもらっている。
良くも悪くも平均に近い2つ名持ちプレイヤーだからこそ、そういったオレたちに追いつけていないプレイヤーに寄り添うことが出来ると考えたからこの配置だ。
親近感の湧くやつが近くにいた方がやり易い層というのは、どのようなことでも発生するからな。
それ故のダンジョン攻略第二部隊だ。
大規模クランなのにも関わらず、下位層の離脱が少ないのは【簾闘牛士】の尽力が大きいということを誰もが理解しているので、実力が不足していようとも誰も咎めるものはいない。
ちなみに、【包丁戦士】はこいつのことをモブプレイヤーと認識しているようだから、少し腹立たしい。
その【包丁戦士】にギャフンと言わせられる機会が陣営対戦ユニーククエストだ。
「とは言っても【包丁戦士】にここまで虚仮にされ続けているのは納得いかないwww
次こそはオレたちが勝つぞwww」
「そうだねっ!
私や【短剣探険者】はリアルスキル的な意味で【包丁戦士】さんのことを尊敬してるけど、それと勝敗とは別だからねっ!」
「私たちのコンビネーションで今度は勝ちたいヨネ~」
「装備だけは壊さないようにしてください……」
「【風船飛行士】たん……ハァハァ……ッ!」
「今度こそはノルマ達成です!」
これまで連敗してきているが今度こそは……
あいつに復讐を!!!
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