899話 悪の陣営(特に【包丁戦士】)
というわけで【オメガンド】たちを里の中央に誘き寄せるべく【バットシーフ】後輩と別れた俺は、ひとまず目的地の里の中央に到着した。
「おっ、狂人がいるな」
「珍しい……」
「あんなところで何をするつもりだ?」
俺の可憐な姿を見たモブプレイヤーたちがザワザワし始めたようだな。
今回の作戦にはギャラリーが多ければ助かるからちょうどいい。
【バットシーフ】後輩の方に注意が向かず、俺の方に注目してくれたらあいつも動きやすいだろう。
……ギャラリーも集まったようだし、レイドボスたちを誘き寄せるとするか!
スキル発動!【深淵龍脈】!
俺はスキルを発動し、足元から地面に深淵の力を浸透させていく。
力が広がっていくのと同時に黒くなっていっているので、視覚的にも分かりやすいはずだ。
だがこれだけではまだ足りない。
だから……スキル発動!【堕音深笛】!
俺はさらに深淵の力を蔓延させるために深淵フルートの演奏を開始し、フルートから黒い霧を生み出し操っていく。
この2つの深淵スキルによって周囲の深度が一時的に深まっていっていることだろう。
「な、何をしているのじゃ!?
わっちの里を瀆すつもりなのじゃ?」
「おうおう。
オメーも深淵の力を使うのかよ!?
ただの【次元天子】じゃなくてどうやら訳ありらしーな!」
俺が深淵の力で遊んでいると目的の二体……【オメガンド】と【プシーナク】が慌てて俺の前に立ち塞がってきた。
【オメガンド】は自分の里の心配をしているようだが、【プシーナク】は次元天子である俺が深淵の力を使うことそのものに興味があるようだ。
そういえばこの【プシーナク】は深淵の力に取り込まれている状態なんだったっけ?
深淵の力の行使もやろうと思えば出来ると言っていたから、親近感のようなものを感じているのだろう。
だが甘い!
俺は深淵の力に取り込まれているんじゃなくて、俺自らが率先して深淵の力を愛用しているのだ!
そこのところを勘違いされては困るぞ!
「おうおう、オメー頭大丈夫か?
深淵の力なんて百害あって一利しかねーぞ!
オレの身体が劣化してるのもその影響だ、前に一回見せたから知ってるだろうが、溶けかけてるだろ?」
あれは元々じゃなかったんだな。
確かに聖獣が深淵の力と同居していたレイドボスたちは皆理性を失い、身体が変質していた。
【プシーナク】もそれに近い状態ということだろう。
まぁ、深淵適性が最上級で、abilityの効果で深淵細胞のデメリットをカットしている俺には関係のないことだ。
「そんなことはどうでもいいのじゃ!
はやくわっちの里で深淵の力を使うのを止めるのじゃ!」
……嫌だな!
ここは俺の新たな拠点とするんだ!
そのために深淵の力を浸透させてもらうぞ!
「ぐぬぬ、こうなったら仕方ないのじゃ……
わっちが里の機能拡張のために貯めておったリソースを使ってお主を一時的に排除するのじゃよ!」
「おうおう、ここで使うのかよ!?
それはちょっくら勿体ねーんじゃないか!
っておい、待て待て待て!?」
頭に血が上った【オメガンド】は【プシーナク】の制止も意に介さないようで、そのまま俺に指を突きつけ誰も抗うことの出来ない大きな力の発動を宣言してきた。
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】が【オメガンド】に闇の陣営認定されました】
【包丁次元のプレイヤーは【ユニーククエスト 闇の陣営(特に【包丁戦士】)を排除するのじゃ!】を受けることが可能になりました】
【包丁次元のプレイヤーは【ユニーククエスト 我が同胞【包丁戦士】の手助けをするのだ】を受けることが可能になりました】
【運営からの忠告】
【このクエストは失敗しても失うものはありませんが、成功することによって特別な報酬が与えられることがあります。】
【ユニーククエストは達成する前に状況の変化によって、クエストそのものが消失している場合もあります。
他の次元では発生しないことも考えられますので、この機会に世界を変えていきましょう!】
【個人アナウンス】
【【ユニーククエスト 我が同胞【包丁戦士】の手助けをするのだ】が強制受注されました】
【闇の陣営認定されたのでユニーククエスト準備により、強制的に地蒜生渓谷メドニキャニオンから強制退去させられました】
無機質なアナウンスが鳴り終わると俺は初期ログイン地点である天子王宮へと強制送還されてしまっていた。
うえっ、煽ったのはいいがここまで大事になるとはな!?
まさかここまで【オメガンド】が直情的だとは思っていなかったので予想外だ。
おおかた【プシーナク】が来てセーブしていた感情のリミッターが緩くなってしまっている……というところだろうが、いい迷惑だ……
カッカッカッ、攻め込む絶好の機会だのぅ!
面白くなってきたわい。
【Bottom Down-Online Now loading……】