898話 怪盗と竜の秘宝
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
今日は【バットシーフ】後輩と行動する約束になっているので向かうとするか!
というわけでやって来ました渓谷エリア……地蒜生渓谷メドニキャニオン!
到着すると怪盗服の後輩が手を振って俺の出迎えをしてくれた。
「先輩、待ってたッスよ!」
待ってたのはいいんだが、今日は何をするつもりで俺を呼んだんだ?
お前がわざわざ地蒜生渓谷メドニキャニオンに呼び寄せるのは珍しいから変わったことをやろうとしているのは分かるが、用件も聞かされてないから特に準備とかしてこなかったぞ?
「あれっ言ってなかったッスか!?
完全に忘れてたッスね……」
おいおいしっかりしてくれよ……
【バットシーフ】後輩は頼りになるようになってきたが、詰めが甘いのはどうやら直ってないらしい。
こいつが一人前になるのはまだ先のようだ。
「き、気を取り直して……
今日は【オメガンド】が隠し持っているという噂の宝を盗みとるッスよ!」
意気揚々と窃盗行為宣言をする【バットシーフ】後輩。
だが、【オメガンド】がそんなお宝を隠し持っているなんて話聞いたことないぞ?
「ふっふっふっ、これはクラン【裏の人脈】で仕入れた極秘情報ッス!
何やら【オメガンド】がこそこそしている場面を見かけたプレイヤーが【裏の人脈】に情報提供してくれたッス!」
極秘情報を俺に垂れ流していいのか?
それに、こそこそしているだけだったら宝以外にもあり得るだろ。
俺が疑問点を【バットシーフ】後輩にぶつけると、この後輩は自信ありげな表情を浮かべて口を開いた。
この質問は想定していたようだな。
「この情報を先輩に伝えていいってことはクラン【裏の人脈】の幹部たちから承認を得てるッス!
先輩に媚を売っておこうってことみたいッスね」
それは直接俺に言わない方がいいと思うが……
まぁ、【検証班】が積極的に俺に関わらないようにしている以上、別の情報系クランからこうやって新たな情報が流れてくるのは嬉しいことなので素直に受け取っておいてやろう。
「それと宝自体は【オメガンド】が前々から示唆してたみたいッス!
今回はこそこそしてた場所が怪しいってことで調査を兼ねてるッスね」
情報の裏取りってやつか。
場所が合っていればよし、あわよくば貰い受けようという魂胆だな。
……だが、盗むだけならお前だけでも充分じゃないのか?
流石にお前の神懸かった窃盗技術に俺がついていけるとは思えないぞ。
「先輩には【オメガンド】と【プシーナク】を引き付けておいてもらいたいッスね。
いくら盗みが上手くてもレイドボスのスペック相手に時間を持たせるなんて無理ッス!
それに、途中で見つかったら盗むどころかたどり着けないッス。
でも、先輩ならかなり時間稼ぎしてくれそうッスから頼みに来たッスよ~!
後輩の顔を立てると思って、ここはどうか一つお願いしたいッス!
この通りッス!」
【バットシーフ】後輩は顔を下げ、両手を頭の上でパチンと合わせて俺に懇願してきた。
ここまで頼み込むってことはかなり真剣に狙いにいくつもりなのだろう。
……しょーがない、先輩として一肌脱いでやろうじゃないか!
それで、俺はどこで【オメガンド】たちを足止めしていればいい?
「そうッスね……
里の中央に近いと助かるッス!
それなら物音とかもバレなさそうなのと、距離が離れるッスからね!」
了解だ!
ただ、可能な限り時間を引き伸ばしてやるつもりだが、流石にレイドボスと元レイドボスの二体が相手だから即死したとしても文句は言うなよ?
俺は保険で【バットシーフ】後輩に釘をさしておいた。
変な言いがかりされても困るからな!
「このボトムダウンオンラインで、レイドボスにすぐ負けても文句を言うプレイヤーなんてそんなにいないッスよ!
プレイヤーに人権がないゲームッスから」
それを理解してくれていて安心したよ。
俺はプレイヤーキラーだからな、変な言いがかりを見知らぬプレイヤーにつけられたことが多々あるのだ!
新緑都市アネイブルが【ジェーライト=ミューン】に占領されてた時なんて、他の連中も即死してたのに一番生き残っていた俺だけ非難されてた……とかザラにあるぞ。
全員ログイン時に強制的レイドバトル開始だったから、ストレスの捌け口になっていたんだろうが……
「話には聞いてたッスけど、新緑都市アネイブルが占領されてたなんて今では想像もつかないッスね。
……あと、先輩が捌け口にされてたって響きがエロいッスね」
思春期の男子かお前!
そんな微妙なワードで反応しやがって……
「えっ、そうッスけど?」
そういえばそうだったな……
条件反射でツッコミを入れてしまったが、こいつは野球部男子だった……
俺はヤレヤレと肩を竦めながら【バットシーフ】後輩を助けるべく、のそのそと移動を始めた。
カッカッカッ、何やら面白いことをしようとしておるのぅ……
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