882話 山伏と天子
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
さあ今日は本選本格スタートだ!
というわけでやって来ました新緑都市アネイブルの特設ステージ!
ここでは既に【菜刀天子】が仕切っている最中だった。
「さて、そろそろ時間のようですね。
余興として私も歌ってみましたが、底辺種族たちの文化も中々侮れないものですね。
心地よいです」
何っ!?
【菜刀天子】が歌ってたのか!?
それは是非とも聞いてみたかったぞ!
上手かったならそれだけで聞く価値はあっただろうし、下手だったら笑い飛ばせるのでどちらでもネタとして使えたのに残念だ……
「さてルール説明といきましょう。
本選は一曲一発勝負です。
審査員として私が10ポイント、あとはこの会場にいるプレイヤーが都度無作為に80名選ばれ1ポイント投票できます。
この投票権はアイドルグループが切り替わるタイミングでリセットされるので温存せず、良かったと思ったらその場で使うといいでしょう。
自分の推しではないグループだとしても良いと思ったら使うのが吉ですよ」
なるほど、観客席も巻き込んで採点するわけだな?
だが、【菜刀天子】が10ポイント、観客席が80ポイントだとすると合計90ポイントだ。
それだと中途半端じゃないか?
普通は100点満点にするものだと思うが……
と、俺以外にもそう思うやつがいることを想定していたのか、【菜刀天子】はさらに続けて口を動かし説明を追加していく。
「それと非常に不服ですが、私と同等のポイントを持って評価を下す者がいます。
……自己紹介を」
【菜刀天子】がこう言うと、山伏のような姿とサラリーマンのような姿をまぜこぜにしたカオスな見た目のやつがステージ上に現れた。
基本は山伏衣装なんだが、ネクタイをしていたり、キッチリメガネをキメて、髪は七三分の状態でワックスで固めているようだ。
この時代錯誤な服装をしているやつは見覚えがある。
ゲーム運営プロデューサーの【山伏権現】だ。
【どうも、ゲーム運営プロデューサーの山伏権現です。
まずは、ここまでこのゲームを楽しんでいただけたようで、プロデューサーとして感謝を!
これからもこのゲームをよろしくお願いします!】
毎度恒例のテンプレ挨拶からスタートしたが、まさかゲーム運営プロデューサーである【山伏権現】自らイベントに介入してくるとは……
ここまでガッツリなのは初めてじゃないか?
【面白そうだったからね、理由はただそれだけさ。
思考が固い設定だった【菜刀天子】がまさかここまでプレイヤーに寄り添うイベントを開催するなんて思わなかったから、もっと面白くしてあげようと思う親心みたいなものだよ!】
「創造主に対して直接言うのは問題かもしれませんが、全く呆れた思考ですね。
邪魔だけはしないで下さいよ」
【そんなことしないよ。
それだと面白くないでしょ?
動くことがあるなら、それはアクセントが必要な時だけさ】
それを【菜刀天子】が危惧しているんだろうが、のらりくらりと詰問をかわしていく【山伏権現】を見ているとここぞという時に思いもよらない行動をやらかしそうな危うさを感じる。
俺が当事者だったら間違いなく速攻でキルを狙いにいっただろうな……
「……とりあえず、私が事前に用意したクジをそれぞれのアイドルグループの代表者に引いてもらいましょうか。
これで歌う順番を決めたいと思います。
順位の低かった者から順に引きに来るように!」
順位の低かった者って……もうちょっと言い方っていうのは無かったのか?
そんなことを思いながらも俺は観客席に向かって笑顔を振り撒きながらクジを引きにいく。
俺たちは四位だったから本選メンバーでは最下位なのだ!
『じゃーん!
あたしが引いたのは3だったよ~☆』
俺が引いたのは3番目だった。
ブービーだな……
「私たちは2みたいダネ」
【短剣探険者】は二番目のようだ。
双子だけに……ってか?
「生産プレイヤーなので1です。
当然ですね!」
何が当然なのか不明だが、【釣竿剣士】が引いたのは一番のようだ。
生産プレイヤーは一番にならないといけないみたいな掟でもあるのか……?
「ということは私が最後ってことですね!
いや~、緊張しますね~!」
ボマードちゃんは最後なのでクジを引かずに四番目となった。
これが俺たちにとって吉と出るのか凶と出るのか……
なんとも言えないが、アイドルプレイヤーとして活動してきたボマードちゃんならどの順番でも力を発揮できるだろう。
最後なのはちょっと怖いなぁ……
怖かったり、怖くなかったりする……
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