88話 さいきょう
さて、次は俺の番か!
今度の俺の対戦相手は腕にシルバーを巻いたチョイチャラ男の【風船飛行士】だ。
こいつは一回戦で摩訶不思議な現象や行動ばかりしてたから、情報の少なさって点から、ある意味では【釣竿剣士】よりも厄介かもしれない。
厄介さのベクトルが違うから比較対象にするものおかしいか。
闘技場フィールドで腕組みしながら待っているとようやく【風船飛行士】が現れた。
よお、待ちわびたぞ?
今日の夜飯は【風船飛行士】の西京焼きでキマリだな。
じゃっ、早速俺に狩られて食材になってくれよぉ!!
俺はさっそく駆け出し、腰に提げていた包丁を両手で持ち、中段で構え【風船飛行士】の胸元を一突きしようとする。
「ちょっwww
相変わらず可愛い顔してえげつないこと言うよなお前はwww
んんっ、初めてこのゲームで会ったときを思い出さざるを得ないwww」
ちっ、論者なのか、ウェイなのか、ヲタクなのかハッキリさせろ。
口調が地味にぶれてるぞ?
お前の重心移動みたいになぁ!
俺の包丁による昼ドラで見るような突きは、【風船飛行士】が側に置いていた奴のチュートリアル武器である風船を手に持って身体を揺らしながら浮き上がることで回避されてしまった。
「宙に浮いていたら重心がぶれるのは当然だwww
せっかくだし、このまま初めて会ったときみたいにナンパしてやろうか?」
初めて会ったとき……?
新緑都市アネイブルのほのぼの市場にあるお前の出店で会ったときのことか?
あの時お前がナンパしてたのはどちらかと言うとボマードちゃんじゃなかったか?
【ペグ忍者】からこっそり盗んだペグを投擲してヘッドショットしようとするが、チュートリアル武器の風船を顔前に移動させて不発に終わった。
「違うわwww
チュートリアルの時のことだwww」
……ナンパなんかされたか?
まったく記憶に無いんだが?
鞭を振るい、風船を奪おうとするが【風船飛行士】が腕に巻いていたシルバーを籠手の代わりにして鞭を弾いてきた。
「忘れてるとかショボリンヌなんだがwww
チュートリアル武器の説明を受けている最中のお前に話しかけたら、いきなり背中から刺されたんだぞオレwww
流石に覚えててくれよwww」
……いや確かに刺したのは、前に会ったときに思い出したぞ。
このゲームで初めてチュートリアル武器の包丁を手に入れて、その使い心地を試そうと思ってその辺にいたやつに刺したのは覚えている。
それが偶然こいつだったわけだ。
包丁を横凪ぎに振るいながらそう答える。
風船で浮かんでいることによる、ぶれる軌道で回避され、包丁が宙を切ることになった。
「マ?
もしかしてあの時、オレの話聞いてなかったのwww
完全にナンパし損じゃんよ!」
あの時は手に収まっていた包丁の煌めきに目を奪われていたからな。
その辺にいたやつのことなんて脳の片隅にも存在していなくて当然だ。
この包丁との出会いはそれくらい忘れられないものだったというわけだ。
【風船飛行士】は……まあミジンコくらいも存在価値がなかっただけだぞ?
横凪ぎからの返す刃で間髪入れず【風船飛行士】の脇腹を切り裂こうとする。
流石にこれには反応が遅れたようだったが、間一髪でかわされ、服を切り裂くだけに留まった。
「ミwジwンwコwww
これはひどいwww
まあ、あの時はそうだったかもしれないが、今はオレが対戦相手だ。
オレだけを見ててくれよ?」
後半唐突に真面目な口調で話し始めた【風船飛行士】。
急に真面目な感じになるとちょっとビビるよな。
いや、今はお前から目を離せないのは事実だぞ?
さっきから物凄く下らない会話をしているが、その裏で激しい攻防が繰り広げられているからな。
俺の【風船飛行士】対策だった包丁による速攻攻撃、こっそり拝借したペグ投擲、鞭による武器奪取。
事前に考えていた動きが全て上手く対応されてしまっている。
流石逃げに自信があると掲示板で書かれているだけはある。
そんなこんなしているうちにかなり空に浮かんでいってしまっている。
ここまで来ると奥の手とか言ってられない。
今まで使ってこなかった切り札を切るしかない。
スキル発動っ【深淵顕現権限】!
俺は観客席にいた片手剣使いの【モブ】、竹槍使いの【モブ】、両手剣使いの【モブ】、そして新緑都市アネイブルレイドボス攻略の時に俺の隊にいた【モブ包丁1】、【モブ包丁2】をフィールドに引きずり込み、5人全員を一気に生け贄に捧げた。
最近その辺の野良【モブ】相手に【検証班長】に付き合ってもらって、【深淵顕現権限】の使い込み練習をしていた時に分かったんだが、この【深淵顕現権限】は生け贄に捧げれる人数をある程度増やせるらしいのだ。
生け贄を増やすとどうやら、スキルの効果継続時間が延びるらしいのだ!
ただ、人数当たりの増える時間効率はどんどん落ちていくので、そんなに捧げても効率が悪いだけだろう。
この辺は【検証班長】ももっと調べたいと言っていたし、後々詳しい仕様もわかってくるだろう。
そのモブたちが粒子に変わり俺の身体に取り込まれると、背中の骨が隆起し始め皮膚を突き破って外気に触れることとなった。
突き出た骨は翼の形になり勢いよく広がっている。
……まあ、右翼しかないし、骨ドラゴンみたいな、もろアンデッド系の翼なんだけどな。
今回は空中戦になるってことでルル様の力……P細胞を励起させることにした。
ジェーはその辺で座っててね。
その右翼を羽ばたかせ、上空に浮かんでいる【風船飛行士】に向かっていく。
片翼しかないが、バランスは別に悪くない。
翼を羽ばたかせているが、見た目と違って、別に飛んでいるって感じじゃないんだよなぁ。
なんか外界じゃなくて、俺自身に何かしらの力が干渉して飛んでいるぞ、これ。
まあ、飛べれば何でもいいか。
さあ、待ってろよ【風船飛行士】ぃ!
西京焼きが俺を待っているぜ!
今日は清蒸鰣魚を食べたい気分ですね。
【Bottom Down-Online Now loading……】
アンケート第二弾です。
次元戦争のメンバーについてです。
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