87話 みんち!(せいこうのおと)
顔面から落下した【ペグ忍者】が顔をさすりながら起き上がった。
VRMMOとはいえ、あの高さから顔面強打したら、軽くトラウマになるプレイヤーもいるな。
……俺は別に気にしないけど。
「【釣竿剣士】ちゃんを愛でるためなら、これくらいでめげないのら!!!」
気を取り直した淫乱幼女が、どこから取り出したのか分からないペグを【釣竿剣士】に向けて投擲したようだ。
その数10本。
放射状に投げられたペグは、獲物の逃げ場を無くすかのように追い詰めていく。
「それが甘いって言ってるんですよ!」
だが、先程の高速でブレている釣竿の鉄扇状態を維持したまま【釣竿剣士】は再度宙を扇いだ。
これがさっき口走っていた釣竿一刀流【斬祓】っ!
きりばらい……霧を払う、とかけているのか分からないが、鉄扇で宙を仰ぐ様子は視界を妨げる霧を振り払うようにも見える。
しかし、実際振り払っているのは霧ではなく放射状に飛んできていてたペグだ。
鉄扇のようになっている釣竿に当たる前にペグは打ち落とされた。
やっぱりなんかおかしいぞ!?
あの鉄扇状態の釣竿の風圧で落とされたのか……?
それともスキルとか乗せてるのか……?
流石に扇いだ風圧だけで、勢いよく飛んできているペグを打ちおとしたとは考えたくない。
いや、【釣竿剣士】のむちゃくちゃな感じからするとあり得るのが怖いが、何かしらタネがあると考えておこう。
今は俺の戦闘中じゃないし、思考停止して決めつけるのは早計だもんな。
……だが、ディスプレイを見ても遠巻きからの映像なのでよく見えないんだよなぁ……
うーん、やっぱ考察無理でしょ!(諦念)
「ぐにゃにゃにゃ……
こうなったら一気にイカせてもらうのら!」
ペグを弾き返された猫耳頭巾幼女は、被っていた頭巾をスルリと取ると隠していた猫耳を解禁した。
この場面で取るってことは、あのスキルを使う気なんだろう。
猫耳を公衆の面前に晒した【ペグ忍者】は両手を地面につき、両足を後ろに引き、お尻をくいっと上げるような姿勢で構えている。
その際に、尻尾がにょきっと出てきていたが、俺やボマードちゃんが生やすようなヌルヌルの粘液を垂らすようなものではなく、正統派なモフモフ尻尾だ。
羨ましい!
……それにしてもこの姿勢、マニアックな性癖の人たち……幼女趣味の人とかが見たら興奮して騒ぎ出しそうだ。
多分今頃掲示板では、このペドの姿に大感激しているオタクや紳士、お姉さま方の書き込みで溢れているに違いない。
この【ペグ忍者】の構えに対して、【釣竿剣士】は鉄扇状態の釣竿の動きを止め、代わりにトーチトワリングの要領で釣竿を振り回し始めた。
どうやら釣竿一刀流【渦潮】で受け止める気だな。
「【釣竿剣士】ちゃん、完全に受け止める気なのら?
そっちがその気ならいいでしゅ、全力でイケるのら~!!
これが【ペグ忍者】の愛っ!
受け取って欲しいでしゅっ、【獣王無尽】なのらっ!!」
【ペグ忍者】は【釣竿剣士】発動した釣竿一刀流の種類を確認した後、高らかに必殺スキルの名前を叫んだ。
そうすると、全身が黄色いオーラに包まれ、手にはそのオーラで大きな爪のようなものが形成された。
……俺との対戦の最後にも全く同じ光景を見たな。
【ペグ忍者】は獣人種族の基本性能である急加速から入り、釣竿を振り回し擬似的な盾を作り出している【釣竿剣士】へと肉薄した。
爪による一撃が釣竿に炸裂!
さらに一撃!
連続で一方的にオーラの爪による攻撃が容赦なく襲いかかっていて、その攻撃が当たる度に【釣竿剣士】が後ろに押し出され、回転する釣竿のスピードが目に見えて遅くなってきている。
一撃、また一撃と攻撃が加わるにつれて釣竿が停止に向かっている。
そして、もはや釣竿が動かなくなったのを誰もが分かるようになり、爪による攻撃が【釣竿剣士】の首を拐おうとする。
その時にそれは起きた。
「油断、しましたね?
種族転生したあなたには、これが弱点でしょう!
釣竿一刀流【発光】!」
攻撃が届く寸前に花飾りの少女は誰もが目を覆いたくなるような光に包まれた。
ディスプレイ画面から見てもここまで眩しいのだ、それならもちろん……
「にゃにゃん!?
目がっ!?目がっ!?なのら~!?!?!?
【釣竿剣士】ちゃんが尊すぎて直視できないのら!!」
攻撃を止めてまでも両手を使い目を押さえていた。
あんな近距離で光源を目視したらそうなるだろうな。
……ちなみに、尊すぎるから直視できないのはどう考えても違うと思うぞ。
「猫は夜の環境でも少しの光で見えやすい目の仕組みになっています。
逆に言ってしまえば、それだけ光の影響をうけやすいってことですよ!
ここまで隙まみれならばこれで止めです、釣竿一刀流【怪力】っ!」
【釣竿剣士】は目を押さえる【ペグ忍者】に向けて緩慢な動きで釣竿を振りかぶった。
あれは、【無限湖沼ルルラシア】のレイドボスの棘亀を釣るときにいつも使っている技!
緩慢な動きだったが、光によって感覚を狂わされた淫乱幼女は避けることが出来ず、釣竿に当たってしまった。
そして、釣竿に触れた場所からトラックがぶつかったように圧力がかかってぺしゃんこに潰れてしまっていた。
……あれ喰らったら異世界転生できそうだな、おい。
あの技だけ戦闘に使っているのを見たことが無かったが、弱い技って訳じゃなくて、モーションが遅い一撃必殺みたいな技だから使えなかったのか。
それなら納得だわ。
ぺしゃんこにつぶれた【ペグ忍者】は光の粒子に変わっていき、闘技場から消え去った。
……なんか色々と災難だったなあいつ。
「【釣竿剣士】ちゃんに潰されて幸せなのら……
これは実質せいこうなのら~」
聞かなかったことにしよう。
「準決勝一戦目は容赦ないリアルスキルを使って種族転生によるスペックの差をものともしなかった【釣竿剣士】の勝利です!
底辺種族にしておくには勿体ない人材ですね……
底辺種族【包丁戦士】とは大違いです」
【菜刀天子】によるアナウンスが流れた。
おい、俺を引き合いに出すな。
あのリアルチートの塊みたいなやつに勝てるプレイヤーなんて、俺以外にもいないだろ。
「……次はその底辺種族【包丁戦士】VS【風船飛行士】の対決です。
トッププレイヤーとして見るならば東西対決ですが、【新緑都市アネイブル】代表の底辺種族【包丁戦士】は既に負けていますから、隠しエリアの【深淵奈落】代表対渓谷エリアの戦いとなります。
ここで勝ったプレイヤーが【釣竿剣士】と対戦することになるので、精々興醒めさせないように頑張ってください。
それほど期待してませんけど……」
おう、やってやろうじゃないか!
【菜刀天子】の罵倒に対して闘志を再燃させる俺だった。
あまり触れられてなくて微妙な気持ちになっている風船使いが居たとか居なかったとか……
【Bottom Down-Online Now loading……】
アンケート第二弾です。
次元戦争のメンバーについてです。
是非コメントお願いします。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/788051/blogkey/2491052/