869話 肉叉憎さ
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
昨日はプレイヤーキラーとして活動している最中に【荒野の自由】に奇襲を仕掛けられてなす術もなく死に戻りして、そのままログアウトしたんだったな……
封印の森で俺が解除してしまった【荒野の自由】の新たな権限である【上位権限】ー【movement】によって、あいつはエリア移動の制限を超えて活動できるようになったからその煽りを受けてしまったわけだ。
やっぱり深淵や大罪が既に占領済みのエリアじゃないと安全じゃないな……
特に地蒜生渓谷メドニキャニオンと草原エリア、荒野エリア、砂漠エリア辺りは俺が長時間活動しているとここぞとばかりに【荒野の自由】が狙ってくるのだ。
俺がログインした時に流れるレイドアナウンスが【荒野の自由】をより警戒させてしまっているんだろう。
不便なものだ……
というわけでやって来ました岩山エリア……堅牢剣山ソイングレスト!
ここはユニーククエストで【大罪魔】が確保した場所なので、機戒兵や【荒野の自由】が迂闊に近寄れないようになっている。
だから俺の身がわりと安全な場所だ!
「そんな理由でワタクシのところにいらしたのでして?
指名手配犯とは大変なのですわね……」
呆れたように俺をクランハウスに迎えていれくれたのは金髪ツインテドリルがトレンドマークの南のトッププレイヤー……【トランポリン守兵】お嬢様だ!
【トランポリン守兵】お嬢様のクランの名前は【お屋敷組】というだけあって、ロールプレイのためにかなり豪華な屋敷をクランハウスにしているから居心地がいいな。
「お褒めに預かり光栄ですわ!
それでワタクシにどのような用件でして?」
うーん、用という用は無いんだけどな……
……あっ、そういえば掲示板でクラン【お屋敷組】の攻撃力不足が心配されてたけど、お嬢様の認識としては自分のクランをどう評価してるんだ?
「それについてはワタクシの防御性能が高すぎて、相対的に攻撃力が低く見られているだけだと思っていますわ!
流石に一芸に秀でたあなた様のクランの【コラテラルダメージ】、守りを捨てて動く傾向のある【冒険者の宴】、全てを【釣竿剣士】様一人でこなせる【釣り堀連盟】と比べられてしまいますと劣りますが」
なるほどな。
平均より上、ということか。
ここ【お屋敷組】のクランメンバーたちは確かに綺麗な連携で堅実に動くからな。
その反面派手な動きが少ないから爆発力がないように見られやすいというのもあるだろう。
その中でも攻撃面で頭角を現しているのがサーベル使いの燕尾服女だな。
【トランポリン守兵】お嬢様の妹分で、【トランポリン守兵】お嬢様に近づくやつは許さないという狂犬みたいな性格が幸いしているのだろう。
【バットシーフ】後輩と第三陣初心者歓迎イベントの時に張り合っていたが、あれからかなり成長したように思える。
だが、2つ名持ちプレイヤーがそんなに居ないような気がする。
「……そういえばあなた様は会われたことがありませんこと?
ワタクシのクランメンバーでログイン回数が少ないものの戦闘力に秀でた者がおりましてよ!
ただ、リアルの事情でこれまでログインすることが本当に数えるくらいしか無かったので、ワタクシたちクランメンバー以外にはさほど知られていないのかもしれませんわね……」
そんなやつがいたのか!?
レイドバトルとかイベントとかにもそれらしいプレイヤーを見た記憶がないんだが……
「それはそうでしてよ!
その者はレイドバトルやイベントにも一度も参加したことがないので当然のことですわ!」
……そんな霞のような存在が不確かな実力者が【お屋敷組】には眠っていたのか。
今度機会があれば戦ってみたいものだ。
それで、そいつの2つ名はどんなやつなんだ?
せっかくだし名前くらい知っておきたいんだけど。
「【肉叉家政婦】ですわ!
ワタクシのお母様ほどの年齢の方で、メイド長としてこのクランのメイド部隊を率いていたりしますわね」
【肉叉家政婦】……2つ名が全て漢字ってことは第一陣プレイヤーの可能性が高いな。
そうなればログイン回数が少なくとも歴自体は長いということになる。
……ちなみにだが、肉叉とはフォークのことだ!
漢字で表記することが珍しいので、見覚えがないやつもいるだろう。
武器とは言い難いが、そんなフォークを使う強力なプレイヤーというのは惹かれるものがあるぞ!
今度戦う場をセッティングしてくれよ~!
ログイン回数が多いやつなら俺が勝手にプレイヤーキルを仕掛けに行くのもアリなんだが、これまで俺が会えていないのなら相当会いにくいだろう。
「……前向きに考えておきますわね」
それ、実現しないやつじゃん!
実現したり、しなかったりする……
【Bottom Down-Online Now loading……】