865話 タコ憑着
「ここが好機なのだ!
スキル発動!【深海憑着Ⅹ】
スキル発動!【海底撈月】なのだよ!」
【夢魔たこす】は右腕だけだった蛸足を他の四肢を全て蛸足に置き換え始めた。
そして白色の花柄ワンピースだった衣装も変貌していき、赤色の高貴なドレスとなったぞ!
そしてフリルの揺れる大きな帽子がポトリと装着されていた……両手両足の蛸足の先入観もあってかタコのようにも見える。
まるで異形の令嬢とでも表現したくなる見た目だな。
【Raid Battle!】
【夢魔たこす】
【蛋白海の灯壺蛸】
【海灯蛸】【深海曲芸師】【プレイヤー】
【戯れなる大海は】
【全てを迎え入れる】
【ワールドアナウンス】
【【夢魔たこす】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
これは……【深淵纏縛】みたいな顕現権限スキルの上位版だなっ!?
夢魔たこすから生えている蛸足が発光し始めて、そのまま光がアンカーへと伸びていく。
おい、【ペグ忍者】気をつけろよ!
これはチャージ系スキルだ。
俺はこのスキルで前に一回キルされてるから気をつけろよ!
射程がかなり長い強打が来るぞっ!
「了解なのら~
獣人の超加速で下がるのら!」
【ペグ忍者】は両手両足を地面につけて四つん這いになると、そのまま勢いよくこの場から離脱しようとした。
だが、それを許さない存在が目の前にいる。
「たこすちゃんの攻撃を当てさせてあげたいよ~ね!
だから、ボクが少し手助けしてあげ~る!
スキル発動!【窮鼠熱火】!」
【タコガタ】は再び地面を這いずり回るネズミ花火を出現させ、【ペグ忍者】が移動のために地面につけていた両手両足を強制的に離させてきた。
「にゃにゃっ!?
これはまずいのら!?
とっておきで防げるか試すのら!
【月虎威借】!」
スキルを発動した【ペグ忍者】のチュートリアル武器であるペグが巨大化し、大きな槍のように変化した。
虎の威を借る狐ってわけだな?
大きなペグで攻撃を防ぎつつ後退しようとしている……ように見せかけているわけだ。
デコイスキルかな。
そして、そうしながらも【ペグ忍者】は何かを促すように俺に視線を飛ばしてきた。
……あ、は~ん……そういうことね?
ちっ、仕方ない。
やればいいんだろ?
スキル発動【火出惹没】。
こうなりゃ俺も死ぬ気で動くしかないな!
俺はこの絶望的状況を打開すべく、【夢魔たこす】の方へと駆け出していった。
だが、無慈悲にもチャージの光が膨張を止めて安定してしまったようだ。
ヤバいヤバいヤバいっ!!!
「チャージ完了!
いくのだ!【海底撈月】!」
夢魔たこすのアンカーから溢れ出る光の奔流が、広がっていく。
アンカーの形を象るような光が形成されていき、【ペグ忍者】へと突き刺さった。
いや、突き刺さったがそれをさらに貫通して後ろへと飛び去っていった。
光で形成されたアンカーが飛び去った後には、下半身をぶち抜かれた【ペグ忍者】の姿があった。
いつもならここで【ペグ忍者】に労いの言葉か罵倒を残すところだが……
「た、たこすちゃんの宝箱が盗まれたのだっ!?」
ご明察!
お前が【ペグ忍者】を貫いている横から失礼したぞ!
【バットシーフ】後輩ならここで盗まれたことすら気づかせないだろうが、流石にあそこまで窃盗技術に卓越しているわけじゃないから気取られてしまったようだ。
天子スキルである【火出惹没】でデコイを置いていたから気づかれるまで多少猶予があったのが大きいな!
まあ、盗めたならオーケーだろう。
「しまった~ね!?
もう鍵を持っていたん~だ!
攻撃をなんとか間に合わせる~よ!
スキル発動!【氷水開明】!」
「待つのだ待つのだ!
たこすちゃんがせっかく見つけた宝箱を返すのだよ!
スキル発動!【灯水壺蛸】!」
アンカー次元の二人が咄嗟に水のスキルを使い俺に飛ばしてきたが……もう遅い!
俺は隠し持っていた漆黒の鍵を使い宝箱を開封し、中身を掴み取った!
そして次の瞬間には俺の全身が焼けつくような熱湯と凍えが止まらないほど凍てついた冷水によって砕け散り始めたが、それと同時に脳内に無機質なアナウンスが鳴り響きはじめ俺の勝利を祝福したのだった!
【ディメンションバトル】
【包丁の煌めき】
【釣竿のしなり】
【アンカーの漂流】
【宝が獲得されました】
【【包丁次元】が1位次元の勝利特権で【釣竿次元】と【アンカー次元】のリソースを吸収しました】
【【釣竿次元】が3位に昇格しました】
【【釣竿次元】の一部エリアの規模が最低限まで縮小しました】
【【アンカー次元】が7位に降格しました】
【【アンカー次元】の一部エリアの規模が最低限まで縮小しました】
【勝利報酬は王宮にて選択してください】
悪質プレイヤー特有のアイテム強奪での勝利とは……
全く、これだから劣化天子は相変わらず困ったものですね。
ですが、その手段を選ばないことこそ底辺種族上がりのプレイヤーの強みなのでしょうけど。
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