864話 ネズミ花火の氷像
昨日は二話投稿しています。
もし見逃していた場合そちらからどうぞ!
人数差による有利があるにも関わらず場の流れを【夢魔たこす】と【タコガタ】に支配されつつあるのはいただけない。
「次はこれだ~ね!
【窮鼠熱火】!」
そんなことを脳裏に浮かべていると【タコガタ】が新たな動きを見せてきた。
続いて放ってきたスキルは回転しながら地面を這いずり回るネズミの形をした炎の塊だ!
縦横無尽に駆け巡り敵味方関係なく攻撃に巻き込んでいく姿を見ると、まるでネズミ花火のように思えるな。
それにしても【窮鼠熱火】か、初めて聞くスキルだが次元天子が使ってきた以上聖獣スキルなのだろう。
ネズミというチョイスから、前にステッキ次元のMVPプレイヤーの【ロイス=キャメル】から聞き出した干支聖獣というカテゴリにいるやつの一体から獲得したものかな?
ネズミの名にふさわしいすばしっこく鬱陶しい攻撃を、こうも上手くスキルとして表現した開発者には脱帽するばかりだ。
「この【燃焼】の力で君たちを一掃する~よ!
これだけ速いと底辺種族上がりのプレイヤーたちの目で追えないで~しょ」
あ、底辺種族を蔑視する思考は他の次元天子でも共通認識なのね。
【菜刀天子】ほど露骨じゃないにしても根本的にそういう考えがインストールされているのだろう。
山伏権現は何を思ってそんな仕様にしたんだ……?
プレイヤーに寄り添い導くのが次元天子の役割だと思っていたが、それにしては性格の初期設定から根本的に違うように思えて仕方がない。
これが俺には分からないのだ。
……だが、それを考えるよりこのネズミ花火を処理するのが先だよな。
スキル発動!【想起現像】!
俺がスキル発動したことにより、頭上から赤色の砂が降り注ぎ始めた。
そして、ネズミ花火が回転して砂を風圧で吹き飛ばしてきたので全く鎮火には役立ってない。
「【包丁戦士】しゃん、全く効いてないのらよ!?」
「これはミスチョイスですか!
いや~、珍しいですね~」
あれっ!?
砂で炎を鎮火するつもりだったのにそもそも当たらないんだが……
そう思っていたが、俺の意図とは全く別方向で事が動き始めたようだ。
その証拠に【タコガタ】が困惑の表情を浮かべて声を漏らしていた。
「あ~れ?
なんだか【窮鼠熱火】の様子がおかしい~ね?
止まっちゃった~よ」
円を描くように砂を撒き散らし続けた結果、ネズミ花火が砂の牢獄に閉じ込められたかのように狭い範囲でしか動き回らなくなり最終的に動きをピタリと止めたようだ。
「たこすちゃんもいくのだ!
スキル発動!【氷水開明】!」
「おっ、ボクもそれに合わせようか~な!
スキル発動!【氷水開明】!」
【夢魔たこす】と【タコガタ】が揃ってまた聞き覚えの無いスキルを発動してきた。
【タコガタ】も使えたということは聖獣スキルなんだろうが、これまでの聖獣スキルにあった様々な共通点が反映されていないような名前だ。
「わわわっ!?
スキルはt……」
……と思っていたら俺の前方にいたボマードちゃんに水が降りかかり、唐突に氷漬けにされてしまっていた。
全身が一気に凍ったせいか、口も動かないのでスキルでこの状態を自力で脱出することも困難だろう。
まぁ、ボマードちゃんならここから脱出するよりも【名称公開】の発動を狙ってスキルを発動しようとしていたんだろうが、このような形で口封じをされてしまったのではボマードちゃんのお家芸も披露することはできないな。
そして、氷の圧力に耐えきれなかったボマードちゃんはそのまま光の粒子となって消えていってしまった。
氷属性の攻撃なんてボトムダウンオンラインで初めて見たな……
「まさか開明獣が元になった聖獣もいるのら?」
開明獣!
そうか、そういえば言い伝えではそんな伝説上の生き物もいたな!
古代中国の地理書である山海経の海内西経に記述のある四聖獣たちに比べるとマイナー気味なやつだ。
書物によると首が9つある虎の姿をした神獣とされているぞ!
「そうだ~ね!
あのこは【氷結】の力の扱いが得意だ~よ。
それでも無限に生き返るプレイヤー相手だと負けちゃうんだけ~ど」
【氷結】の力か。
そういえば【オメガンド】が竜人は氷属性に弱いと言っていたが、それは身内に氷属性を扱う聖獣がいたから知っていたのか?
包丁次元では開明獣のレイドボスもネズミのレイドボスも見かけてないが、前の鳳凰の例もあるので他の次元の情報も無碍にするのは得策じゃないのだ!
当方の攻撃を見たのを忘れてるカニ?
これは総座長のプライドが傷つけられたカニよ!
今度もう一回戦いに来た時に見せつけてあげるカニ!
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