861話 カンバーっち
さて、お前たちは釣竿次元の【師匠】たちにコテンパンにされたらしいが、その後はこの島を出て何を見つけた?
俺は憶測込みのハッタリを交えて【夢魔たこす】と【タコガタ】に探りを入れていく。
あくまでもこっちはこの二人が島を出ていったのを知っている……という前提だ。
そして何かを見つけたという前提も置いている。
……正直なところどちらも俺が勝手に捏造したものだから、上手く引っ掛かってくれるといいが。
そう思っていたら我先にと【夢魔たこす】が一歩前に出て口を開いた。
「じゃ~ん!
これを見るのだ!
たこすちゃんが見つけた宝箱なのだよ!」
そう言いながら俺たちに見せびらかすように漆黒の宝箱を頭上に掲げていた。
サイズはポケットに入るくらいのものなので、隠し持っていたんだろうがまさかこんなに簡単にクリア条件を教えてくれるとはな!
くくっ、間抜けなやつだ。
「でも、この箱全然開かないのだ……
力ずくでも、スキルを使っても開けられないのだ!
スキル発動!【深海顕現権限Ⅹ】!」
「にゃにゃっ!?
不意打ちなのらっ!?」
しまった!?
宝箱を見せたのはこっちを油断させるためだったのか!?
夢魔たこすがスキルを発動させると、左腕が水の塊に包み込まれた。
そしてそこから枝分かれするように触手が生えてきた。
……これは蛸足だな!?
ルル様の蛸足は緑色で実際は蛸足に見える別物だったが、この夢魔たこすが生やしてきた蛸足は薄い赤色……いや茶色に近いか。
それは吸盤がついており本物の蛸足そのものだった。
急にスキルを発動してきた【夢魔たこす】に対して迎撃を姿勢を見せた俺と【ペグ忍者】だったが……
「ほらっ、開かないのだ!」
どうやら蛸足をうねらせて宝箱を開けようとしていただけのようだ。
驚かせやがって……
本当に不意打ちしてきたかと思ったぞ!
まあ、スキルを使っても開けられないという実践をしてくれたというだけらしいから不問にしてやるが。
それにしても【深海顕現権限Ⅹ】か。
前はただの【深海顕現権限】って宣言していたが、そこから呼び名が変わったのはスキルとして成長したからか、それとも同系統のスキルを手に入れたのだろう。
前者の場合はボマードちゃんの【深淵顕現権限Ж】で同じような現象があったし、後者の場合は俺が同じパターンだ。
俺は深淵細胞を多数保有しているからな、その区分けのために名前の分岐も他の奴らより早かったのだ。
どちらにしても、【夢魔たこす】は前に戦った時から成長しているのは間違いなさそうだ。
やはり侮れないな……
「そっちが情報を出したならこっちも出すのらよ~」
【ペグ忍者】がそう言いながら俺の方を頼りにするかのようにチラリと横目で見てきた。
俺が対価として差し出す情報を選ぶってわけだな。
【検証班長】と行動してる時も【ペグ忍者】はこうやって指示を窺いながら動いているのだろう。
社会人プレイヤーということもあってか、口調のわりに真面目で協調性があるよな。
……それなら毒にも薬にもならないような情報でお茶を濁してやろう!
釣竿次元の拠点はあの辺りにある、そこで釣竿次元の次元天子が胡座をかいているようだ。
悠長なことだが、俺たちやお前らにとってはそう悪い話じゃない。
なにせあそこに近づかなければ強敵である次元天子との戦いを避けられるんだからな!
「そうだ~ね!
ボクが釣竿次元の次元天子と戦うなら勝てない~よ。
だからこれは嬉しい情報だ~ね」
間延びした口調で笑顔で情報を受け取った【タコガタ】だったが、そのあどけない表情に対して目は笑っていない。
その目の奥で情報の真偽や有用性の再思考など行っているのだろう。
次元天子は高性能AIでもあるからな、その高い演算能力を以て様々な可能性について想いを巡らせる……というのは自然の流れだろう。
「わーいなのだ!
嬉しいのだ!」
「そんなに喜んでもらえると嬉しいですね!
いや~、教えた甲斐がありますよ!」
一方で【夢魔たこす】は心から喜んでいるようだ。
何も疑うことの無い純粋無垢な笑みを浮かべている。
こっちが引くくらいニッコニコだ!
蛸足をぐるぐる巻きにしたり伸ばしたりしてその喜びを表現しているが、流石にそこまで喜ばれるような情報じゃないはずだ。
なのにこの喜びよう……何かあるのか?
そう思い【夢魔たこす】に問いかけようとしたが、【タコガタ】から殺気の籠った視線を感じたので言葉が口から出る寸前で踏みとどまった。
あっぶな!
……あの殺気、一言でも迂闊な発言していたらそれで戦闘開始の火蓋が切って落とされたに違いない。
アンカーが一際大きくガチャリと音を立てていたのがより不穏さを強調していたのだ。
おいおい、過保護が過ぎるんじゃないか~?
【カンバー】の力を使うプレイヤーが他の次元には居るカニね。
これは見逃せないカニ!
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