860話 タコガタガタガタ
【ペグ忍者】の案内で行った場所をくまなく探してみると、そこにはボートのような小舟がひっそりと物陰に隠されているのを発見した。
これで海に出ろ……ということなのだろう。
しかし、この大海原に繰り出すには頼りないという他無い。
「その辺りはこの島にあるもので補強するのが今回のイベントの醍醐味……だったのかもしれないのらね~
包丁次元は全くやらなかったのらけど」
そして、多分だがアンカー次元も船は利用してないように思える。
【夢魔たこす】が使ってきていた【深海顕現権限】は海エリアのレイドボスの力を行使するものだったからな!
自力で深海にも行けるだろう。
そんなことを呟いていると、俺の後ろから気配がしたので【ペグ忍者】からもらったペグを投げてその命を狩り取ろうとした。
だが、飛翔するペグは圧倒的重量の武器によって粉砕されてしまったな……
そして、その武器を振り下ろした人物が俺たちの前に姿を現した。
「そう!ドリーマたこすちゃんの参上なのだ!」
そんな愉快なセリフと共に現れたのは、赤みのかかったピンク色のボブカットの少女だ。
白いワンピースにカラフルな花柄がついていて、いかにも元気そうな少女だってことが伝わってくる服装だ。
そして、注目すべきは頭の上に生えているアホ毛。
なんか、この【夢魔たこす】が動く度に連動してピコピコ動いている。
もはや別の生き物と言ってもいいくらい主張してくるから嫌でも目についてしまう。
さらに、目につくのは肩にかけられた大きな錨……アンカーだ。
持ち手周辺にチェーンがついていて、それを引き摺りながら現れたので小柄な見た目とのギャップがインパクトとして残るだろう。
「あれれ?
あっちにいる忍者の娘とたこすちゃん……見た目ちょっと被ってな~い?」
そしてもう一人。
そいつは黄色の髪を靡かせながら現れた中華服の男児だ。
俺やボマードちゃんよりも少し小さいくらいの身長だな。
手には【夢魔たこす】が持つものよりも一際大きなアンカーをぶら下げている。
あの身長でその大きさのアンカーを軽々と扱っているのは、違和感を覚えるどころかロマンすら感じるものだ。
「おや、そっちの包丁の娘は次元天子みたいだ~ね?
プレイヤーがその役割を兼ねているのは正義を気取ったあの【勇者】だけかと思ったけど、君もボクの同僚を倒したの~か!」
微妙に間延びした口調なので苛つくショタだな……
だが、持っている武器といい次元天子のことに触れていることからこいつも次元天子だなっ!
「そうなのだ!
たこすちゃんのアドバイザーなのだ!」
「ボクのことは【タコガタ】と呼んでく~れ」
「たこすとタコガタ……ややこしい組み合わせなのらね!
偶然なのら?」
【夢魔たこす】と【タコガタ】か。
次元天子の名前をこれまで何体か耳にしたが、蛇腹剣次元の【ジャノメ】、ピッケル次元の【ロッケ】、そしてアンカー次元の【タコガタ】……今回でなんとなく法則のようなものが見えてきたかもしれない。
だが、これらは本当に偶然なのか法則なのか?
照らし合わせると少し怖いものを感じてしまうが……
「次元天子になった君ならもしかすればいつか知れるか~も?」
……。
それで、そっちは二人しか居ないのか?
俺は伏兵が居ないか直接聞いてみた。
俺の気配察知には何も引っ掛からないが、遠くにいる可能性もある。
素直に教えてくれるとは思えないが、牽制くらいにはなるだろう。
そんなことを思いながら聞いたのだが、あっさりと口を割ってくれた。
「釣竿次元の【師匠】たちに残りのメンバーはやられちゃったのだ!
別れて移動している時に重傷を負わされて、戻ってきたときには消える寸前だったのだ!」
「まさかあの短い間に荒らされるとは~ね!
次元天子であるボクも予想外だった~よ。
迎撃して一人だけ倒せたけど逃げられた~ね」
【師匠】がやけに疲弊した状態で俺と戦っていたのはそれが理由だったのか。
そりゃ俺の前に別の次元天子と戦ったのなら消耗も激しいはずだ。
俺たちは棚からぼたもちを得たかのように有利な状態で戦えたというわけだな!
それでも二人失ったけど。
「みすりちゃんたちも【師匠】とその仲間に負けちゃったのだ……
仇を討ちたかったけど、もう倒されちゃったなら仕方ないのだ!」
まぁ、その事情を俺は知らなかったからな。
お前たちが倒してくれるのなら変な犠牲を出さずに温存しておくことも出来たんだが、知りようもなかった。
お互いを責めるのはお門違いというものだろう。
「それで君たちはこれからどうするのか~な?
ボクたちと戦う~の?」
この次元天子……飄々とした喋り方のわりに好戦的だな?
表情や言葉の節々から、血気盛んな様子や俺たちを戦いに巻き込むための仕掛けをしてきている。
だが、俺たちの方針は先に決めている。
「情報交換がしたいのらよ~!
【ペグ忍者】たちしか知らないことも、そっちしか知らないこともきっとあるのら!
悪い話じゃないと思うのらけど」
「いい~ね!
やろう~か!」
なんか思ったよりも乗り気だった。
ここは断って戦闘になるかと思ったが、向こうもヒントが無くて痺れを切らしていたのだろうか?
何はともあれ、ラッキーだったぞ!
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