859話 たとえ火の中
さて、とりあえず【ペグ忍者】が見つけたという釣竿次元の拠点を避けつつその先に向かっているわけだが、今のところこれといって変わったところはない。
まあ、釣竿次元の拠点の近くだから既に怪しいところは調べられた後だろう。
それに、拠点近くに目ぼしいものがあると次元戦争のバランスが崩れるので、設置されていないと予想しており……元より期待していないがな。
そうして樹林帯を抜けると逆側の砂浜に出てしまった。
俺たちの目の前に広がっているのは一面の砂浜と地平線の先まで伸びる海だ。
こんなに見晴らしののいい場所に宝のヒントなんてないだろうし、また引き返すか……
俺がそう思っていると、ボマードちゃんがおもむろに口を開いた。
「ここまでは何も無かったですね。
いや~、でももしかしたら海の中に宝があったりするんですかね?
これだけ広い海ですし、宝くらいどこかに落ちてそうですよ~」
「にゃにゃっ!?」
そうか、そんな発想もありか!
たしかにこの島の中だけでエリアが完結しているわけじゃないし、そもそもこのエリアの名前は【特異次元 金剛島海域エイプモンド】だ。
……そう、今回のエリアは海域なのだ!
この広い海全体が探索範囲であるというわけだったんだよ。
だからアンカー次元のMVPプレイヤーの【夢魔たこす】は大罪域の風の影響を受けていなかったんだ!
そりゃこれだけ広いエリアなら風が届かないこともあり得るよな……
海の上か海中か分からないが、【夢魔たこす】たちアンカー次元のプレイヤーたちもボマードちゃんと同じように海に目を向けたのだろう。
なにせアンカー次元は海攻略に特化した次元だからな。
海を移動する手段もそれなりにあるだろう。
「【ペグ忍者】たちはどうするのら?
海を調べるのら?」
一応俺は海上なら飛んで調べること出来るが、お前たちは海を移動することって出来るのか?
【ペグ忍者】やボマードちゃんが泳いでいる姿は想像出来ないが……
「【ペグ忍者】は無理なのらね~!
聖獣の力を使っても地上での動きが速くなるくらいなのら!」
「私は分からないですね!
いや~、ジェーライトさんが海を泳げたなら私も【深淵顕現権限】を使えば移動できそうですけど~!
ジェーライトさんのレイドクエストの名前は【荒れ狂う魚尾砲】でしたから、魚みたいに泳げそうな気もしますね!
今まで試すタイミングが無かったので全く分からないですけど~!」
ボマードちゃんは辛うじて可能性があるくらいか。
どっちにしても【ペグ忍者】が海についてこれないのなら意味がない。
三人一緒に行動することは前提条件だからな!
いくらボマードちゃんが泳げたとしても
「そうなるとやっぱりこの島の探索を続けることになるのらね~
でも、鍵以外のヒントがあるのか疑問なのら」
「この広い海全体が範囲なら、ここにあるのは1つくらいかもしれないですよね。
いや~、この島を調べて何かあればいいんですけどね~」
それは俺にも分からん!
だが、鍵があの塔か俺たちが持っているものしかないのならアンカー次元のプレイヤーたちはここに再び戻ってくるはずだ。
もし戻ってきたら情報交換した後……最悪宝箱を奪うというのも手だ。
俺たちで取りに行けない場所にあったのなら、そこで手に入れなかったらもうチャンスはない。
向こうも鍵は欲しいだろうから、逃げようとしたら最悪鍵をちらつかせて海に逃げられないようにはしたいところだな。
「でも船くらいはこの島の何処かにありそうなのらね。
流石に海の移動手段がないプレイヤーたちが圧倒的に不利なのら!
待つ間にそれくらいは見つけておきたいのらよ~」
そうだな。
この島の探索も完全に終えた訳じゃない。
他力本願にするのはこの島を調べ終えてからでも遅くないか。
とはいえ、釣竿次元の拠点に近づけないので全部を調べきることは出来ないけどな!
流石に次元天子を無駄に相手にするほど余力はないぞ!
「それなら少し気になるところがあったからそっちに向かってみるのら?
方向が全く違うのらけど……」
【ペグ忍者】は控えめに俺に提案してきた。
こういう時、【検証班長】なら【ペグ忍者】が見つけてきた情報を事前に吸い上げて行動方針を立てていたに違いないが、俺では後出しで現れた情報を参考にするのが限度だ。
俺はプレイヤーキラー……しかもクランを組んでいるとはいえソロ気質だからな、コミュニケーション能力に長けているわけでもない。
それがこういった形で遅れとして出てくるのだろう。
【ペグ忍者】には気にするなと言われたが、やはり行動する機会が多かった【検証班長】と自分を比較してしまうことは多々ある。
それを俺に足りないものとして埋める必要があるのか、それともこのまま突き進むべきなのか……
俺のパーソナリティーの岐路に立たされているような気分だ……
相当引っ張られてますね、全くこれだから劣化天子は……
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