857話 消耗師匠
「前に戦った時よりも大幅に力をつけてきおったな……っ!?
まさか釣竿一刀流【憂鬱三ノ型ー憂イノ雷】までも容易く凌がれてしまうのは、生産的人間である儂でも想定外だった」
ま、そうだろうな。
規格外の力を持つ【釣竿剣士】ですらギリギリ対応出来ていたレベルの技なのだから、素の俺ではもっと対処に困ったに違いない。
そんな力に満ちた一撃を受け止めた俺を認めてくれたのか、【師匠】の表情が強ばりその鋭い目が俺を見て離さなかった。
そして覚悟を決めたのか、重々しく口を開き俺への挑戦ともとれる宣言を堂々と響き渡らせてきた。
「だからこそ、次は必殺技でいかせてもらう。
お前さんにこれを見せるのは二度目だが、前は儂の弟子と二人で迎撃されたのだったな。
だが、今回は前よりも攻め手が欠けている!
さて、受け止められるかっ!
さあ、いざ尋常にっ!
天候釣竿一刀流と憂鬱の力の昂りを今此処にっ!
釣竿一刀流【憂鬱終ノ型ー憂イノ乱気流】!」
【師匠】は天に掲げていた釣竿を再び握り直すと、それを無造作に振り回し始めた。
今までの洗練された動きとは全く異なり、不規則かつ荒々しい釣竿捌きで虚空を切り裂きながら俺たちとの間合いを測っている。
一見すると無造作に釣竿を振り回しているようにも見えるが……
前に【釣竿剣士】から説明を受けた時に聞いたものだと、あれは空気中に風の元素爆発を時間差で発生させているんだったな。
そしてこの後に起こることも知っている。
お前ら、全力で防御しろ!
「いや~、とりあえず伏せます!」
「チュートリアル武器のバグパイプを盾にしておくが、何が起き……っ!?
なんだなんだっ!?」
俺の呼び掛けに咄嗟に反応できたボマードちゃんは防御姿勢を取ることが出来たので何事もなかった。
しかし、【骨笛ネクロマンサー】【バグパイプ軍楽隊員】は反応が遅れてしまったようで……
「ふひひっ、それってどういう……
……っひぎぃっ!!
ほ、【包丁戦士】さ、ん……あと、は、まかせ、まし、た、よぉぉ……」
何が起きたのか本人も理解しないまま光の粒子となって消えていってしまったようだ。
貴重な戦力が減ってしまったぞ……
「おい狂人、今、何が、起きた……んだ……?
俺が、使って、いた、【堕音深笛】のバフも、剥がされ、た、んだ、が……?」
【バグパイプ軍楽隊員】も【骨笛ネクロマンサー】同様に光の粒子となって消えていってしまった……
そこにも影響が出ていたのか、それは想定外だったぞ!
今起きたのは、レイドボス【オメガンド】の使ってきた【刃状風竜】に似てるもの……つまり不可視の飛翔する風の刃を作り出して飛ばしてきたんだ。
しかも一度に何発も!
宙を切り裂いてその剣圧で風の刃を発生させているようだ。
【堕音深笛】のバフが途切れたのは音や黒い霧が切り裂かれてしまったから……か?
だから笛の力が使えない状態となった【骨笛ネクロマンサー】や【バグパイプ軍楽隊員】は防げなかったんだな。
補助スキルまで無効化してくるとはなんてやつだ……
「ふむ、仕留めきれなんだか……
流石に、この技は身体に負担が大きい、か……」
だが、大技で隙を見せたなっ!
【師匠】は今の一撃で力を使いきったのか肩で息をしている状態だった。
……やけに消耗が激しいのは気になるが、今は仕留めるのが最優先だ!
上等な食材であるお前の鮮度を落としても損だから一瞬で刈り取らせてもらうぞ!
スキル発動!【フィレオ】!
そして繋げてスキル発動!【暴食狂姫】!
【スキルチェイン!】
【【暴食狂姫】【フィレオ】】
【追加効果が付与されました】
【デメリットは発生しませんでした】
【連鎖発動【暴食斬魚】!】
俺は大罪状態であることをいいことに、大罪スキルである【暴食狂姫】と【フィレオ】をスキルチェインで繋げていった。
【フィレオ】が俺のスキルチェインと相性が良いのはずっと前から知っていたことだからな!
だが、デメリットの関係で使いやすいのが【渡月伝心】との組み合わせだっただけだ。
まあ、今回は次元天子スペックということもあって【フィレオ】の出力に俺が耐えきれているのだ!
なので腕も足も吹き飛ばずにそのまま全てを喰らい尽くす飛翔する斬撃が【師匠】に炸裂し、その身を切り裂いていった。
「これは通常のプレイヤーの域を越えておるな……
さては、次元天子に手を下したのか?
早まったことを……」
そんな不穏な言葉を残して【師匠】は光の粒子となって消えていってしまった。
なんだったんだ一体……
【個人アナウンス】
【【包丁戦士】が暴食の力により称号【『sin』暴食の捕食:憂鬱の現界超異能】を獲得しました】
【称号の効果で【Bottom Down】!】
【【包丁戦士】の深度が90になりました】
「あっ、【包丁戦士】しゃんも勝ったのらね!
【ペグ忍者】もアカリしゃんに勝てたのらよ~!
かなり苦戦したのらけど、【包丁戦士】しゃんが作ってくれた隙でなんとか勝てたのら!」
あの瞬間が決定打になったのか。
それなら同時に戦っていたのは結果的に幸運だったわけだな!
ラッキーっ!
やったぜ。
【Bottom Down-Online Now loading……】