854話 枕の送死
そんなわけで包丁次元の初期地点から移動していくが、釣竿次元のプレイヤーたちはきちんと拠点構築しているのに対して俺たちは何も用意せず全員で行動していることについて歩きながらメンバーたちに聞いてみた。
「私は【包丁戦士】さんがいるところなら何処でも拠点ですよ!
いや~、本当の愛の巣ってこういうことですよね~!」
いや、その理屈は色々とおかしいだろ……
ボマードちゃんに理屈は求めていないからこのままスルーしておこう。
「【ペグ忍者】は本当は拠点をきっちり作っておきたかったのら!
【検証班長】しゃんがそういうタイプだったからなのらけど。
いつもあるものが無いのは落ち着かないのらね……」
よく聞く、旅行中に枕が変わると寝れなくなるタイプか?
細かな環境の違いに適応できない人は少なからずいるらしい。
俺は特別な事情もあって、何処でも寝れる……というより寝れるようにしたけどな。
「ふひひっ、あてぃしはいつも骨に囲まれているのでボマードさんと同じように何処でも拠点みたいな感じですねぇぇ……
ひんやりとした骨の温度とちょうどいい固さが最高ですよぉぉ……」
こいつは別ベクトルでヤバい。
骨にそこまで入れ込むのは異常性癖としか言いようがないぞ!
骨ってなると同業者の可能性もあるが、流石にこれだけだと繋がりが薄すぎて断言出来ない。
ちょっとだけ警戒を強めておくか……
「俺は特にこだわりとかないな。
だが、拠点はあるに越したことないとは思う」
おおっ、流石は真っ当なプレイヤー!
【堕音深笛】を手に入れている時点で少し足を踏み外しているが、【バグパイプ軍楽隊員】はどちらかといえば【トランポリン守兵】お嬢様タイプの良識派プレイヤーだろう。
【トンカチ戦士】に付き従うプレイヤーたちは【虫眼鏡踊子】といい、そんな傾向にある気がするな!
そんなことを話していると、前方からプレイヤーが近づいてくる気配がした。
俺はプレイヤーキラーだからな、人の気配には人一倍敏感なのだ。
だからこそ、誰が迫ってきているのかは先に分かった。
おいお前ら、さっそく釣竿次元の連中がお出ましだぞ……戦闘準備だ!
「「「「了解」」」なのら!」
「ほう、これまた随分な歓迎なことだ。
お嬢たちはここで儂らと事を構えるつもりか?
賢明な策とは思えぬが……」
はっ、勝手に言ってろ!
スキル発動!【天元顕現権限】!
さらに繋げてスキル発動!【渡月伝心】!
俺はスキルを高速展開し黄金色の両翼を背中から生やすと、そのままチュートリアル武器の包丁から光の粒子を生み出し釣竿次元のプレイヤーたちを取り囲んでいく。
その粒子の集まっている範囲がどんどん狭まっていき……かかったな!
「ぐわぁああぁああぁぁぁあああぁぁ!?!?!?」
一人だけ後方で気配を消して隠れていたハルバード使いのプレイヤーが【渡月伝心】の粒子に包まれて身体が千切りにされていったようだ。
伏兵なんて俺には通用しないぞ、覚えておくんだな!
そして残ったお前たちもろとも消し去ってやる!
「かなり強大な力を使うようだ。
だが、強いだけの力が儂に通用すると思うのは傲りが過ぎる。
見せてやろう儂の妙技を!
釣竿一刀流【渦潮】っ!」
【師匠】は背負っていたチュートリアル武器の釣竿をトーチトワリングの要領でグルグルと全身を使って回転させていき、俺が放った【渡月伝心】の粒子たちを次々に地に撃ち落としていっている。
【師匠】の周りにいるプレイヤーたちがその防御の中に入ることで俺の攻撃を全く受けつけずにやり過ごしたようだな。
「ふひひっ、あてぃしたちは【包丁戦士】さんの援護ですよぉぉ……
スキル発動ぉぉ、【堕音深笛】!」
「俺も続かせてもらう。
スキル発動!【堕音深笛】!」
「【ペグ忍者】はカンテラ使いの【灯莉アカリ】しゃんと戦うのら!」
【ペグ忍者】はそう言いながら、隠し持っていたペグを両手の指に挟み込み、そのまま全て投擲した。
合計8本のペグを同時に狙いどおりに投げられるのは訓練というよりは天性の才能だろうな。
「望むところです!
あなたは姉弟子の【釣竿剣士】さんの弟子みたいですけど、アカリは負けねーですよ!
この機会に【師匠】にアカリが強くなったことを証明するです!
……ってあれ?
ナニコレ?」
【ワールドアナウンス】
【【ペグ忍者】が【名称看破】しました】
【【ペグ忍者】「【ペグ忍者】はカンテラ使いの【灯莉アカリ】しゃんと戦うのら!」】
【【名称公開】により知名度に応じたステータス低下効果付与】
「これが包丁次元の【名前に関するスキル】……
何ともたちの悪いものだ……」
「何やられたのかわからないですけど、先手を打たれたことは分かりました。
くやしーですっ!
こうなったらアカリも行くですよ!
光明なる元素の力よ、アカリにその輝かしき導きを与え賜えっ、【エレメントライト】!」
【灯莉アカリ】はスキルの発動とは異なる詠唱をして様々な色の光を放ち【ペグ忍者】が投擲したペグたちを弾き返してきた。
「にゃにゃにゃっ!?
面妖な技を使うのらね~!
これはability【現界超技術】の持ち主なのらっ!?」
「【師匠】~、すぐバレちゃいましたよ!
これってやべーです?」
「これしきで慌てるでない!
どの様なことがあったとしても、いつでも泰然自若としていることが肝心なのだ」
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