844話 振る舞いたい相手
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
昨日はとうとう【短剣探険者】にまともな料理を完成させることに成功した!
何度か匙を投げそうになったが、なんとか形にすることが出来てホッとした。
というわけでやって来ました地蒜生渓谷メドニキャニオン!
ここで俺と【短剣探険者】が待ち構えていると一人の人物が現れた。
その姿は【短剣探険者】と似ており、髪色が青色という点が大きく異なるくらいの男の娘……【ブーメラン冒険者】だ!
「あっ、【包丁戦士】さんもいるんだっ!
てっきり【短剣探険者】だけだと思ってたよっ!
嬉しい誤算だねっ!」
この【ブーメラン冒険者】は何故か俺のことを少し尊敬しているらしく、俺は負の面にいるプレイヤーから好かれる体質なのは自覚し始めてきたがこいつのように純真なやつからそのような感情を向けられるのはこそばゆい……
少し照れてしまうぞ!
「それで、何で二人は私を呼んだのかなっ?
珍しい組み合わせだから気になるよっ!
……もしかして、【包丁戦士】さん絡みってことはプレイヤーキラーとして活動し始めたっ!?」
「違うヨッ!
私にそんな趣味がないの【ブーメラン冒険者】は知ってるよネ!?」
「ごめんごめん、そんなに怒らないでよっ!
でも、それなら他に何があるんだろうっ?」
まあ、思いつかないだろうな。
俺だって意外だったんだから。
「実は【包丁戦士】さんのお陰で料理が出来るようになったんダヨ!
凄いでしょ!」
【短剣探険者】はどや顔をしながら、両手を腰に当てつつ反り返りそうになるほど胸を張った。
そんなに誇らしげな様子初めて見たぞ……
双子の弟に自慢できるのがそんなに嬉しかったのか……
「ええええええええっ!?!?!?
あの【短剣探険者】がっっっ!?!?!?
いやいやいや、ありえないよっ!?
だって料理どころか毒物をどんどん作り上げてたんだよっ!
命の危険もあるくらい壮絶な作り手だった【短剣探険者】に料理なんて出来るわけないよっ!
私の家族もみんな病院で生死を彷徨った経験があるくらいだからねっ!」
【ブーメラン冒険者】は狼狽えながらも、俺に【短剣探険者】がどれくらい料理が苦手だったのかエピソードを交えながら力説してきた。
いつも愛嬌があり快活な【ブーメラン冒険者】がここまで顔を強ばらせながら深刻な表情を浮かべ、声を荒げるのは余程のことがない限り見れないだろうな……
それは酷い……
まあ安心しろ、一応食べれるようなものが出来上がるから……
俺は【ブーメラン冒険者】を宥めるように声をかけた。
俺が言うことなので少し安心したのだろう、表情が幾分か柔らかくなったように感じる。
そうして、昨日と同じ要領で天ぷらを完成させ【ブーメラン冒険者】の目の前に出された。
それを見た【ブーメラン冒険者】はやはり驚いていて、何度も天ぷらを見ながら目をパチパチさせ、さらには両手で自分の頬を叩いてこれが夢ではないということを確認していた。
「た、確かに天ぷらそのものだねっ!?
本当に食べ物の見た目で料理が出てくるなんて信じられないよっ!
【天地逆転】するほどの大事だよっ!」
まあまあ、あとは実際に食べてみろよ。
結構イケルぞ?
「本当かなっ?」
「本当ダヨ!
なんたって私の力作だからネ!」
「だからこそ不安なんだよっ……」
と言いつつも、【ブーメラン冒険者】は俺が用意した箸を手に持ち天ぷらを持ち上げると、まじまじと天ぷらを観察し始めた。
かなり用心深いな……?
余程過去に手痛い想いをさせられたのだろう。
だが、観念したのかその天ぷらを口に運び咀嚼していく。
そして、食べ終えると……
「おっ、美味しいよっ!?
えええ、本当だったんだねっ!?
凄い、凄いよっ!
流石は【包丁戦士】さんだねっ!
【短剣探険者】はもう料理が出来ないものだと諦めてたから本当に感動しちゃったよっ!」
あまりの衝撃にポロポロと涙を流し始めた【ブーメラン冒険者】。
それに釣られてか料理を作った【短剣探険者】も涙を流して泣き始めてしまったようだ。
「うわーん!
嬉しい、嬉しいヨ!!!!」
まあ、たまにはこういうのも悪くないな!
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