843話 天天天
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
昨日は俺の突拍子もない発想で天ぷらを作ることになったので、あの後は天ぷらに使えそうな食材を【短剣探険者】と一緒に集め直していたのだ!
というわけで今日は天ぷらを作るぞ!
今は新緑都市アネイブルの天子王宮にある礼拝所で【短剣探険者】と料理の準備をしている。
「今日使うのは海老、茄子、カボチャ、レンコンなんだネ?
昨日野菜とか海鮮は失敗したのに大丈夫カナ……?」
それは俺には分からない。
俺はお前のように料理の才能が壊滅的じゃないからな……
出来るやつは出来ないやつのことを理解できないのだ。
「悲しいネ~!
でも、それは分かる気がするヨ。
戦闘が得意なプレイヤーは戦闘が苦手なプレイヤーのことを理解出来ないカラネ……
前にクラン【冒険者の宴】のメンバーの戦闘訓練をやっていた時に、戦闘が苦手なプレイヤーから同じようなことを言われたヨ。
耳が痛い言葉だったネ……」
へー、クラン【冒険者の宴】は戦闘訓練とかもやっているんだな。
有象無象のクランがある中で、上位にいるクランということだけあってクラン全体の練度を上げていくのは自然な流れだろう。
今までやってきたゲームにもトップクランやガチクランのようなものもあって、そこでは厳しいノルマを課される場合があった。
まあ、そんなクランに入ってしまった時にはクランを荒らすだけ荒らして退散したけどな!
「うわっ、悪質ダネ~
ノルマ自体は悪いことじゃないと思うけど、荒らしてから退散するのは流石悪名高いだけアルヨ……」
こんな話はもういいだろう。
さっさと天ぷら作るぞ!
まずはレンコンは輪切り、茄子は縦に半分、カボチャは半分に切ってからタネを取り出しておいてくれ。
俺は海老の処理をやってるからな!
【短剣探険者】にとって、この切る工程はかなり大雑把ではあるものの、一応切るだけなら何とかなるから任せておこう。
細かい処理のいる海老だけは俺がやっておかないと食材として機能しなさそうだから、これだけ手伝ってやることにした。
【短剣探険者】が短剣を振り回しているのを横目に、俺は海老の尾を残して殻をむいて背ワタを取り、腹側の3カ所に切り込みを入れた。
この殻を取り除く作業が地味に手間で、【短剣探険者】に任せていたら今ごろは海老そのものが粉砕されてしまっていただろう。
そして、さっき切れ込みを入れた海老をポキッという感触があるまで一筋ごとに背側にそらし、筋を切ってまっすぐにする。
とりあえず海老の処理はここで終了だ。
次に天ぷらの衣にあたる部分になるものを作るぞ!
マヨネーズと水を合わせて混ぜてから小麦粉を加え、さらに混ぜておく。
この時、完全に混ぜきるのではなく粉が少し残るようにしておくのがポイントだ!
覚えておけよ!
「こっちの食材は切り終わったヨ!」
おっ、【短剣探険者】の方もちょうど終わったみたいだな。
そう思い顔を向けると、そこには無惨にも切り裂かれた礼拝所の椅子や机が散乱していたが、野菜は切れていたので良しとしよう。
これが上手く行ったら全部【風船飛行士】に賠償金をせしめてやるからな!
「ごめんリーダー!
でも、私の料理が上手くなるためには必要な犠牲だったヨネ!
やっぱり払ってもらっちゃオウ!」
こいつもちゃっかりしてるな。
俺の発言に便乗して自分の出費を抑えてきた。
まあ、【風船飛行士】に嫌がらせ出来るならそれでもいいけどな!
さあ、ここからは【短剣探険者】が全部自分でやってくれ!
まずは俺が作っておいた天ぷらの素に食材をつけてから、油で揚げるんだ!
「よ、よーし!
ヤルヨ~!」
【短剣探険者】は食材を短剣で突き刺して、そのまま天ぷらの素につけてから油の入った鍋へ投入していっている。
短剣でなんでも料理しようとするから料理下手の本質が変わらないんじゃないか?と思ったりもしたが、俺も包丁で色々なことをヤっているから人のことは言えないな!
そして、鍋のなかで天ぷらが揚げられていき……
「おお~完成したヨ!」
【短剣探険者】が感動しているように、そこには見事に出来上がった天ぷらの姿があった!
ちゃんとダークマター化してないやつ!
だが、ここで安心するのは二流だ。
世の中には見た目が良くとも味がダメなものも多くあるからな!
天ぷらの見た目のダークマターという可能性も捨てきれない。
俺も毒味するから、【短剣探険者】も一緒に食べろよ!
「当然ダヨ!
いただきまーす!」
俺と【短剣探険者】は同時に天ぷらを口に運び、サクッという音を立てながらじっくりと咀嚼していく。
そして、ゴクりと飲み込んだ。
おおっ、旨いじゃないか!
これは大成功だ!
「ううっ、感動ダヨ!
まさか私に作れる料理があったなんてネ!
よーし、これからは天ぷらで生きていくヨ~!」
それは太るぞ……
だが、料理を作り上げられたという感動を天ぷらを食べながら噛み締めている表情を見ると、俺は一種の達成感に満たされていた。
やっぱり料理はいいものだな。
【Bottom Down-Online Now loading……】