842話 天からの閃き
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
昨日は【短剣探険者】と冒険者ギルドのダンジョンアタックをしていたな。
田舎生まれ田舎育ちの双子の話を聞きながらクリアしたが、ダークマター生成の謎についてはとっかかりが見えたような見えてないような微妙な感じだ。
というわけでやってきました新緑都市アネイブルのほのぼの市場。
ここで【短剣探険者】と待ち合わせているわけだ。
だが、集合時間になっても【短剣探険者】は現れない。
これは俺を待たせて苛立たせるための嫌がらせか!?
俺はプレイヤーキラーだからな、モブプレイヤーと約束をしてわざとすっぽかされたことなんて数えきれないほどある。
約束を忘れてたとかじゃなくて、わざとらしい。
次にあった時に毎回確認しているから本当のことだろう。
……もちろんその返答をもらった時はこの血に飢えた包丁でキルしてやったがな!
嫌がらせには嫌がらせをぶつけるんだよ!
そんなことを考えていたら赤髪の女、【短剣探険者】が駆け足でやってきている最中だった。
「あっ、待たせちゃったカナ?
ちょっと遅れちゃったヨ……」
どうやら、わざとではなくうっかり遅れてしまっただけのようだな。
俺相手の約束としては珍しいパターンだ、それなら許してやろう。
「ありがとうネ!
昼寝してたら寝過ごしちゃってログインし損ねたんダヨ~!」
さて、とりあえず集合したわけだし今日も料理してみるか。
今日は持ち運び出来る料理グッズを持ってきたから、ほのぼの市場で食材を買ってその場で料理していくぞ!
「オ~!」
俺と【短剣探険者】は右手を空に向かって突き出しながら市場の出店を漁り始めた。
そうやって集めた食材は肉、魚、野菜など片っ端から買い込んだものだ。
彩り豊かなラインナップとなったが、これは【短剣探険者】の料理適性を探るためにあえて種類を散らしておいたのだ!
キャベツをダークマターにしていたが、他の食材ならあの変質に耐えられるかもしれないからな!
試すだけ試してみるぞ!
まずはキャベツ以外の野菜からだな。
今回はトマト、きゅうり、大根、ニンジン、じゃがいもなどオーソドックスなものだ。
この中から使えるものがあればいいんだが……
「イクヨ~!
私の短剣の腕前披露しちゃうネ!」
【短剣探険者】はそういうと前と同じように短剣を振り上げて野菜を一刀両断した。
その剣圧で地面にも斬撃の跡が残されてしまった……
そして、その野菜たちを炒めたり、煮たり、蒸したりさせていく。
焼くのと煮るのと蒸したりするのを試しているのは調理法によってダークマター化を防げる可能性があるからな!
……だが、そんな俺の目論みはすぐさま崩れさっていってしまったようだ。
焼いたものは当然のようにダークマター化したが、煮たり蒸したりしたものまで同じようにダークマター化してしまったのだ!
そうして他の肉や魚を試してみたが、どの食材でもどんな調理法でも同じようにダークマターと化してしまったのだ。
これはもはや俺には救えないものだ……
まるで本人の体質や性質として根付いているものと断言してしまってもいいのでは?
……?
待てよ、本人に根付くものといえば一つ心当たりがある。
そう、abilityだ!
俺も【会者定離】が定着しているから分かるが、あれの本質はゲームの中だけで収まるようなものではないのだ。
本人の特異性をシステムとして再現したもの……に近いだろう。
「私のabilityは【天手古舞】ダヨ!
分かっているのは、私の攻撃力と素早さを上げて防御力を下げるっていうものダネ!
abilityを使うとまるで天に上がっていくような感覚になるヨ!」
高揚感ってことか?
天に上がっていく……
天に……あがっていく……
天ぷら……揚げ?
まさかと思うが、こんな言葉遊びが通用するのがボトムダウンオンラインだ。
名前に関するスキルなんてものがあるくらいだからな!
というわけで天ぷらだ!
天ぷらを作るぞ!
「天ぷら……そんな難しそうなもの私に出来るカナ?
ただの炒め物も作れないのにネ……」
まあ、ものは試しだ。
やってみて損はないだろう。
「どんどん食材はダークマターになってるから損はシテルヨネ~」
こらこら、自分で墓穴を掘るなよ……
墓穴ホール。
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