840話 ポイズンクッキング(無意識)
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
今日は特にやろうと思っていることがないので、例のごとく新緑都市アネイブルのほのぼの市場を散策していくか!
こういう時の俺の行動パターンはほのぼの市場散策かプレイヤーキルのどっちかだな……
というわけでやってきました新緑都市アネイブルのほのぼの市場!
市場に足を踏み入れると、そこには珍しい人物がキョロキョロと辺りを見渡していた。
そのプレイヤーは動きやすそうな迷彩柄の服装で、高校生くらいの活発そうな女だ。
その腰にはチュートリアル武器である短剣を提げていた。
そう、あいつは【短剣探険者】だな!
「あっ、地蒜生渓谷メドニキャニオン以外で会うのは珍しいネ」
それはお前があそこを活動拠点にしているからだろう。
俺はよくここにいるから、会いたければまた来てくれたらいいぞ!
……それにしても、双子の弟……男の娘と定評のある【ブーメラン冒険者】は一緒じゃないんだな?
【ブーメラン冒険者】とはたまーにサシで会ったりするが、【短剣探険者】と会う時はいつも弟の方が一緒にいるからこうやって一対一で話すのは珍しい気がする。
「言われてみるとソウダネ~
初めて会ったとき以来カモネ?」
初めて会ったとき……包丁次元での初イベントである闘技場イベントの予選のことだな。
あの時にスキル【竜鱗図冊】を披露されて驚いた記憶がある。
だが、あの時は闘技場イベントの仕様上の問題で必ず一対一にならざるを得なかった。
つまり、本当の偶然で一対一で会ったのはこれが初めてとも言えるぞ!
……どちらにしても珍しい遭遇だ。
なんで急に新緑都市アネイブルに来たんだ?
「料理の練習がしたくてネ……
【ブーメラン冒険者】に女子力で負けたままなのは悔しいヨ……」
そう、【短剣探険者】はいわゆるメシマズ女子らしいのだ。
双子の弟である【ブーメラン冒険者】が言っていたので間違いないだろう。
その関係で、女子力が著しく低いのを気にしているってことだな?
よしっ、それなら俺が色々と手伝ってやろうじゃないか!
「助かるネ!
言動はともかく、料理の腕は一級品って聞いてるから頼りにさせてもらうヨ!」
俺は料理系生産プレイヤーだが、そういう方面で頼りにされる機会はあまりない。
だからこそ少し嬉しい気持ちもあり、親身に接してしまうのだ。
そうと決まれば、練習用に食材とか色々買っていくか!
初心者でも簡単に作れるものが良さそうだが……
はい、というわけで料理開始!
まずは【短剣探険者】がどの程度の腕前なのか見させてもらうか。
「イクヨ~!」
【短剣探険者】はそう意気込むと、腰に提げていた短剣を手に取り両手で握り締め思いっきり振り上げた!
おいおいおいおい!?!?!?
ちょっと待て!!!
「エっ?」
【短剣探険者】は俺の必死な制止をものともせず、そのまま鋭利な短剣を力一杯振り下ろし、まな板ごと野菜を一刀両断してしまったのだ!
うーん、これは見事な断面だな……
「何かおかしかったカナ?
普通にやったつもりなんだケド……」
これが普通……だと!?
俺は狂人と呼ばれることが多いのだが、実はこいつの方がおかしいんじゃないかと思えてくる発言だった。
なんで料理をするために短剣を思いっきり振るうんだよ……
「【ブーメラン冒険者】にもよく止められるんだケド、なんでなんだろうネ?」
お前はまず弟の話をちゃんと聞いてやれ……
あいつならそれなりにまともなアドバイスをしているはずだ。
それでもこの惨状ということはこの先も不安だぞ。
「次は刻んだ野菜を炒めるヨ~!」
【短剣探険者】は真っ二つになった野菜……一玉丸々のキャベツをそのままフライパンに入れて火にかけ始めた。
真っ二つにしたままのキャベツを炒めるのは斬新だな?
外と中の焼け具合の差が酷いことになりそう……
だが、一応料理ではある……のか?
「これで完成ダヨ!
私の魂の料理ダネ!」
そうして出てきたのは漆黒色へと変貌したキャベツだった何かだ!
何処からどう見ても消し炭にしか見えない……
しかも邪悪なオーラが漂っているようにも見える。
どっからどう見ても劇物、ダークマターと称しても過言ではないものが生成されてしまったようだ。
しかし、出された料理に手をつけないのは憚られるためナイフを使って一口サイズに切り分けていく。
流石にダークマターと化したキャベツ半玉をかぶりつくほどの蛮勇は俺には示すことが出来ないぞ!
うわっ、キャベツを切り分けたナイフが溶けていっているんだが……
どうなってるんだこれ!?
仕方ないので、耐久性抜群な俺のチュートリアル武器の包丁を使って食べることにした。
かなり危険だが、俺の拘りの食器を無駄に浪費するわけにはいかないからな!
背に腹はかえられぬというやつだ!
包丁でダークマターを突き刺し、そのまま口に運ぼうとする。
うへっ、変な匂いがする……
「早く食べてヨ!」
ちょっと待てよ、これを口に入れるのは自分の理性との葛藤があるんだ。
そう焦らせるなよ!
【短剣探険者】からの催促もあったため、そのまま一気に口に入れた!
すると……
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
……うへっ。
【Bottom Down-Online Now loading……】