832話 針樹海の強行突破
【槌鍛冶士】の生産アイテムである全方位盾の外から響く、金属と金属がぶつかったような音がさっきより強くなり、頻度も上がってきている。
俺たちは現在、地蒜生渓谷メドニキャニオンへの正規ルートから外れて針樹海のさらに奥地へと歩みを進めているからだ!
「ここから先はもっと凄いことになるぞ!!!
今はお前が【深淵顕現権限】を使えば対処出来るレベルだろうが、この先は【深淵纏縛】を使わないと防げないからな!!!
ワシがこの鉄血森林のために特別に作ったこの盾でなければ、大きな犠牲が生まれたのは間違いない!!!
ここの苛烈さはプレイヤーには荷が重い、だからこそ知識欲の権化のような【検証班長】でもここの情報は持っていないだろう!!!」
俺もこの場所のことは知っていてあえて放置していたくらいだからな……
こんな面倒くさい場所を時間かけて攻略するくらいなら、別の場所の調査をした方が有益だと思ってしまうのは当然だろう。
「そろそろ、この全方位盾だけでは針を防ぐのが難しくなってきたな!!!
さらに対策を重ねるぞ!!!」
【槌鍛冶士】はそう言うと、ロッカーの中のように狭いこの中でモゾモゾと身体を動かし始めた。
おっ、おい!!
お前どこ触ってんだよ!
あっ、ちょっ!?
そこは止めろぉ!
「ガハハ!!!
すまんな!!!
流石に二人入っていると上手く身動きが取れなくてな!!!
だが、目的のものはきちんと取り出したぞ!!!
これだ!!!」
【槌鍛冶士】は俺のあんなところやこんなところを触ったのにも関わらず何も動じることなく新たな生産アイテムを取り出した。
……ちっ、貧相な身体で悪かったなぁ!!
【槌鍛冶士】が取り出したシェルターのようなものだった。
それを足元から外へと展開していっている。
外から見るとどんな感じになっているのか気になるところだが……?
「鐘に鎧を装備させたような見た目になっているぞ!!!
耐久力と防御力は上がるが……重量が増えるのが難点だな!!!
お陰で進むスピードが全く上がらん!!!」
うっ、確かにこれは重いな……
俺と【槌鍛冶士】の二人で持ち上げながら進んでいるが、さっきの半分くらいの速さでしか動けなくなってしまった。
守りが強固になったのは分かったが、思ったよりも不便な状況になったぞ……
「慌てても仕方ないぞ!!!
外は針の雨のようになっているのだからな!!!
しびれを切らして迂闊に外に出てもろくな結果にならない!!!
なに、ワシの生産アイテムをいつも通り信じてくれていればそれでいいのだ!!!」
不便な状況なのは、それを上回るくらいの状況が外で繰り広げられているからなのは重々承知の上だ。
それに、俺が【槌鍛冶士】の生産アイテムを、そして【槌鍛冶士】の腕を信用しているのは当然のことだ!
これまでの実績や付き合いで【槌鍛冶士】が全面的に信頼できるやつってことなのは分かりきっているからな。
それに、一心同体の相棒だろ?
それだけで理屈とか抜きで信頼するさ。
「ガハハ!!!
そう言ってもらえるとワシも好き勝手できるな!!!
ワシに依頼しに来るやつで、分かりにくいものをつけると難癖をつけてくる輩もいるからな!!!
その点、【包丁戦士】はワシに全てを託してアイテムを使うからやりがいがあるというものだ!!!」
ここからはひたすら重さに耐えながら前進し続けた。
ただシェルターや全方位盾が重いだけならば救いがあったのだが、台風のように襲いかかってくる針の物量攻撃のせいで一歩動くだけでも一苦労だ。
確かにこれなら【深淵纏縛】を使わないというのも過大評価じゃなかったと納得できる。
それに、シェルターや全方位盾の重さがそれなりにあったのもこの針の猛威に流されないようにするものだったのだろう。
やけに重いと思っていたが、このエリアの特徴を完全に把握している【槌鍛冶士】はここまでの勢いになることを前提に備えていたわけだな!
「ここを越えれば危険地帯は終わりだ!!!
頑張るぞ!!!」
おうっ!
正直この先に進む理由は特に聞いていなかったが、珍しく【槌鍛冶士】が行くと言っている場所なんだ。
黙って付き合ってやるのも相棒の甲斐性というものだな。
それに、ここに向かう会話の流れからしてどうせ俺のためになることをしてくれようとしているのだろう。
こいつは暑苦しく、むさ苦しく、うるさいやつだが、肝心なところは俺を信頼しすぎているのか伝えてこないことがある。
いくら阿吽の呼吸だと言っても限度があるぞ!
「ガハハ!!!
お前なら言わなくともなんとかするだろう!!!
それに、ワシが思いつかなかったことをしてくれるから、変に情報を与えない方がいい結果になることもあるからな!!!
この前【菜刀天子】を見つけた方法がその顕著な例だな!!!」
否定出来ないのが辛いところだ……
ガハハ!!!
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