828話 ぺド忍者
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
今日は闘技場とか行ってみるか。
特に用があるわけじゃないが、珍しくプレイヤーキルではなく戦意のある骨のある相手を喰らいたい気分だからな。
そういう相手がこぞっているのが闘技場だったというだけの話だ。
……というわけでやってきました新緑都市アネイブルにある闘技場!
包丁次元で第一回イベントが開催された思い出の地だが、今は専ら【ミューン】の遊び場となっている。
もっとも、レーティング機能もあってその上位にならないとマッチング出来ない強キャラ扱いらしいけどな。
そんな闘技場で血に餓えた獣のような相手を探して対戦でもしようと思ったのだが……
「ぐえー、俺のハリセン剣術が全く通用しない……
ガクッ……」
「電子レンジアタック……せめて当たってくれたらワンチャンあったのに……」
「標識の攻撃範囲なら勝てると思ったんだがなぁ……」
「フリスビーが戻ってくる前にキルされたw」
何人か屠ってみたが、歯応えはいまいちだったな。
もう少し食べごたえのあるやつが出てきてくれないとこの餓えが収まってくれるとは思えないぞ!
さあ、次のやつ出てこい!
お前も俺の血肉にしてやるぞ!
「にゃにゃにゃ!
【包丁戦士】しゃん、張り切ってるのらね~!
レーティングも急に上げてきてるのは流石なのらよ!」
俺の前に立ち塞がったのは、ピンク髪の猫耳頭巾の幼い見た目の忍者……【ペグ忍者】だ!
おっ、次の相手は【ペグ忍者】がしてくれるのか?
お前なら俺の飢えを満たしてくれそうじゃないか!
いいぞ、今すぐやろうじゃないか!
「おっけーなのらよ!
え~っと、【包丁戦士】しゃんが設定しているルールは……
スキル発動なし、HP半損決着、場外負けなし、フィールドデフォルトのルールなのらね!
スキルが使えないこと以外はプレーンなルールで戦っているのら?
意外なのらよ~」
そうか?
「そうなのらよ!
【包丁戦士】しゃんなら森フィールドで戦えばもっと強そうなのら~」
それは確かにそうだな。
俺はプレイヤーキラーだからな、気配や殺気に対しては人一倍敏感なのだ。
だからこそ、障害物が多いフィールド……木々が生い茂る森で戦えば先手を取り続けることが出来るのである。
でもそれはあえて設定しなかった。
俺に有利なフィールドで戦っても一方的過ぎて歯応えがなかったのだ。
初心者狩りや格下狩りをしたい気分の時はそれでもいいが、今は互角以上の戦いを求めてここに来ているからな。
「納得なのら!
それならこれ以上前置きはいらないのらね!
バトル開始なのら!」
【Duel Start!】
【【Battle field】疑似展開】
【ペグ忍者】が決闘システムを起動するとアナウンスが鳴り響き、戦いの開始を宣言してきた。
その瞬間、【ペグ忍者】は両手を地面に着けた。
さっそくその構えか!?
俺は次に来る動きを警戒して、前方にポケットから取り出したものを投げていく。
さらに腰に提げていた包丁を取り出し、刃を【ペグ忍者】から見て壁に、そして地面に垂直になるように構えた。
「【ペグ忍者】の超加速いくのら~!!!」
【ペグ忍者】は四本の手足をバネのように使い、俺の方へと一直線に向かってきた。
だが、獣人系の特性で四肢が地面についている状態から始まった行動は、風と一体化しているかのようなスピードと変貌するのだ!
そして【ペグ忍者】は虎獣人、その適応範囲である。
……だが、それはこれまで何度も見てきた!
特にお前は俺の天敵みたいなやつだからな、何も対策してないわけだろ!
「……っ!?
にゃっ、爆発したのらっ!?」
【ペグ忍者】が俺の目の前で爆発に巻き込まれて大きなダメージを負ったようだ。
爆発の最中にしれっと投げてきたペグはあらかじめ構えていた包丁の腹で受け流しておいたぞ!
そして地に伏した【ペグ忍者】が周りに落ちているものを拾い上げた。
「これは……拡散スイカの種なのら!?
こんな小さいもの仕込まれていたら迂闊に足を踏み出せられないのらよ!」
そう、料理をする時に余った拡散スイカの種を有効活用させてもらったのさ!
ある程度衝撃を与えたら爆発するから、勝手に踏んでくれたら御の字だったというわけだ。
「それなら踏まないようにすればいいのらね~
ワイヤーを使って空中から通り抜けるのら!」
【ペグ忍者】はペグを通したワイヤーを後方まで投げて、それを伝って俺の方へと向かってきた。
ワイヤーの上を爆走する【ペグ忍者】の平衡感覚はいつ見ても化け物クラスの才能だ……
【釣竿剣士】に鍛えられるまでこの才能を眠らせていたというのが不思議なくらい歪だぞ。
そんなわけで俺が拡散スイカの種で地雷原にした場所を通り抜けてきた【ペグ忍者】は俺の頭上まで来て、ペグを握りしめるとそのまま上から襲いかかってきた!
「正面からがダメなら上から攻めるだけなのら!
ついでにこれを投げておくのら!」
【ペグ忍者】は片手でペグを振り下ろしながらも、もう片方の手で仕舞い込んでいた予備のペグたちをバラバラと投げてきた。
それくらいなら弾きかえしてやる!
俺は次々と襲いかかるペグを包丁を使って左右に往なしていき、本命の【ペグ忍者】本人による振り下ろし攻撃に備えていく。
そして、決着の瞬間……
「相討ち……なのら……!?」
くっ、あれだけ爆発のダメージを与えておいて相討ちかよ!
俺の包丁は確かに【ペグ忍者】の胸元を貫いたが、【ペグ忍者】のペグも同様に俺の胸元を貫いていた。
「上からの攻撃だったのが【ペグ忍者】に有利に働いたのらね~
【包丁戦士】しゃんの最後の攻撃、完全に見切ったと思って避けたのら。
でも、それに瞬時に対応されたのは驚いたのらよ~」
俺はプレイヤーキラーだからな、殺気に揺れが生じれば多少の先読みも可能なのさ。
しっかし、【ペグ忍者】にどうしても勝ちきれないな……
かなりの有利対面にしておかないと相性が悪いどころじゃないぞ……
「にゃにゃにゃ!
【検証班長】しゃんの集めている【包丁戦士】しゃんのデータを嫌というほど見ているのら!
ここだけの話なのらけど、実は情報戦で【ペグ忍者】は有利になっているのらよ~」
うわっ、それは負けるよな……
【検証班長】のデータと【ペグ忍者】の身体能力があれば対【包丁戦士】戦に強いのも納得できてしまう。
そういうカラクリがあったのか……
あったり、なかったりする……
【Bottom Down-Online Now loading……】