825話 ズッ友です!
【菜刀天子】が生きているのは無言の圧力のこともあったが、何よりも【一心同体リスト】から名前が削除されていなかったことが根拠となっている。
同じように一回消滅したように見えた【槌鍛冶士】も消えていなかったからな!
別の形で生きている可能性も考量していた。
……もっとも、【一心同体リスト】の仕様が不明なので消滅したら本当に名前がここから消えるのかすら怪しいが、憶測くらいは立てれた。
そんなことはどうでもよくて、【菜刀天子】はここで何をやっていたんだ?
「そうッスよ!
ここって先輩が違法鍵で無理やり開けた場所だから、普通のプレイヤーは来ないはずッスよね?
わざわざそんな場所にいる理由が思いつかないッスよ」
【バットシーフ】後輩は【菜刀天子】がいたという衝撃から立ち直りきれていないらしく、前のめりで【菜刀天子】を問い詰めていく。
だが、【菜刀天子】はその程度で動じる相手ではないだろうな。
「底辺種族ではそんなことを理解できないようですね。
全く、これだから世話が焼ける存在というのは面倒ですね……」
と、口では言いつつも説明する気満々の【菜刀天子】。
こいつはツンデレだからな、次元天子というプレイヤーの導き手であった以上本質的にプレイヤーが嫌いということはないだろう。
ただ上から目線なツンデレなだけである。
「私がここにいたのはレイドボスとしての格を取り戻すためです。
元の格をそのままというのは無理でしょうが、別のものであれば前例もありますからね」
【菜刀天子】はそう言いながら【ミューン】の方を見た。
……ということは【ミューン】に関係することなのだろうか?
あっ、もしかして深淵種族の【ジェーライト】に寄生されていた状態のことを示唆しているのか?
「そんなわけないでしょう。
私があの穢らわしい陰湿な種族の力を借りるとでも思っているのですか?
これはあり得ない侮辱ですよ」
プンスカ怒りながら幼くなった身体で怒りを表現する【菜刀天子】。
まあ、こいつが深淵の力を使うのは想像できないから当然ではあるか。
でもそうなら他に【ミューン】で思い当たることなんて無いんだが……
「びゃっことしての、ちから……?
むかし、とりこんだ……」
「どうやら【ミューン】は気がついたようですね」
ん?
白虎としての力?昔取り込んだ?
【ミューン】は元々白虎じゃなかったのか?
「訳が分からないッス!?」
【バットシーフ】後輩も俺と同様に混乱していたが、その一方で【フランベルジェナイト】は腕を組んだまま黙り込んでいた。
「……さいきん、【くしーりあ】がにたようなこと、してた
べつのちからを、まとう……」
「グランドアナウンスは私も聞いていましたから今の【ミューン】の発言で何となく理解しました。
【ミューン】よりも【クシーリア】の方で説明した方が頭の回転の遅い底辺種族たちには伝わりやすそうですね。
つまり私は【包丁を冠する君主】とは別の格をこの空間で得ようとしていたわけです。
プレイヤー介入後に存在していないレイドボスからであれば、元次元天子である私は自由に上書き出来るようでしたので。
次元天子という地位も失ってしまった私は身体の調整をするのに時間がかかってしまっているので、非常用に準備していたこの特異次元で身を潜めていたわけです」
「な、なるほど……ッス?」
こいつ、あんまり理解してないな?
まぁ、【クシーリア】が鳳凰になった瞬間を見ていたわけじゃないから俺よりは実感しにくいのだろう。
……というか特異次元って今言わなかったか!?
つまり包丁次元とは隔絶された空間ということになる。
「だから非常識と言ったのですよ。
イベント開催や次元戦争の際にしか使われないような場所を陣取っていたのにも関わらず、無遠慮に土足で踏み込んで来たのだから驚きというものです。
劣化天子の突拍子もない行動は今に始まったことではないですが、今回は特に酷いですね。
もはや、私への心労を与えるためにいるような存在と断言してもいいでしょう」
……酷い言われようだ。
俺は俺の好きなようにプレイしているだけだぞ。
【菜刀天子】の居ない間にも既にこのどん底ゲームを満喫しているからな、今さら何を言われても遅い!
「劣化天子であればそう言うと思っていましたよ」
【菜刀天子】は珍しく満足気な表情を浮かべてこちらを見ていた。
本人も気づいていないようだが、俺が変わりないことに安心しているのだろうか?
難儀なやつだ。
俺も【菜刀天子】の見た目は幼くなっているものの中身が変わっていなくて安心したからな。
気持ちはよーくわかる。
「……幼くなったと言っても劣化天子と大差はないですが」
いや、俺の方がお前より背は高いぞ!
そんなことでわざわざ張り合わないでください。
全くこれだから劣化天子は……
【Bottom Down-Online Now loading……】