822話 黒い三連撃
強烈な一撃をアークエンジェルナイトに与えた俺と【フランベルジェナイト】はすぐさま距離を取り、反撃を受けないようにした。
この一撃だけで倒せる相手とは思っていないから妥当な判断だ。
そして、俺はこのアークエンジェルナイトと戦ったことがあるからこそ分かる。
ここからが勝負どころだ!
俺がそう覚悟を決めた後、アークエンジェルナイトは片手剣を後ろに引き重心を下げながら溜めを行うと、そのまま虚空を切るかのように剣を横凪ぎに振り抜いた。
おい【バットシーフ】後輩、ボサッとするな!
さっさと地面にうつ伏せになれ!
「えっ、なんッスか急に!?
……とりあえずやるッスけど」
俺の指示に疑問を持ちながらも、【バットシーフ】後輩は急いで地面に伏せた。
するとその直後、俺たちの頭上を通過するようにアークエンジェルナイトの斬撃が爆発を起こしながら通過していった。
炎を帯びているのではなく、空中で都度爆発しているので衝撃波による震動もより大きいものとなっている。
「うへ~、危なかったッスね……
先輩、なんなんッスかあれっ!?
めっちゃ爆発してましたッスよ!?」
【バットシーフ】後輩は驚いているが、上空で飛んでいる【フランベルジェナイト】は俺の指示が無くとも回避行動を取っていた。
危機管理能力の差がここで顕著になったようだ。
「あのアークエンジェルナイトは斬撃を摩擦で飛ばしているようだよ。
【風船飛行士】が居たらもう少し詳しく空気の流れを読めるんだろうけど、これだけ分かれば戦うには充分な情報さ!」
【ふ、【フランベルジェナイト】さんの察知能力はいつも凄いです!
わ、わたしでは見えなかったです……】
「気にすること無いさ。
俺が俺であるからこそ分かることだからね!
その分俺がフェイちゃんをきっちり守り抜くさ!」
お熱いことだ。
だが、熱いのはこの二人の仲だけではなく爆発する斬撃が通りすぎた場所も同様である。
俺たちの後方からは焼け焦げた地面から漂ってくる香りが鼻を擽り、その香りが危機感を煽ってくる。
「あれ当たったら痛そうッスからね……
絶対当たりたくないッス」
というより、当たったら瀕死になるだろう。
痛いどころの話ではない。
そんな会話の最中にも、爆発する斬撃を飛ばしてくるアークエンジェルナイトの太刀筋から着弾点を予想して俺たちは回避し続ける。
すると、斬撃がいくつか飛んできた後にアークエンジェルナイトの動きが止まったようだ。
……さすがにあれだけエネルギーを使う攻撃を連発し続けるのは無理があったようだ。
「これはチャンスだよ。
フェイちゃん、【バットシーフ】今が攻め時さ!
スキル発動!【波状風流】!」
「了解ッス!
俺っちがこれまで温存してきたとっておきのスロットを解放するッスよ!
ストックスロット3、【釣竿一刀流【怪力】】!」
俺もスキルを使うか!
スキル発動、【波状風流】!
俺は風を生み出すスプリンクラーを設置して【フランベルジェナイト】、【バットシーフ】後輩と共に風の流れに乗ってアークエンジェルナイトへと強襲した。
「くらえッス!!!!」
【バットシーフ】後輩は自らの筋力を大幅に増大させながら振り下ろしたバットでアークエンジェルナイトの装甲を叩き潰した。
そこに空いた穴に俺の包丁を突き刺し傷穴を広げ、トドメと言わんばかりの【フランベルジェナイト】のギザギザの剣が傷をえぐりアークエンジェルナイトを斬り倒すことに成功したのだった!
あの時あんなに苦労して倒したアークエンジェルナイトをあっさりと倒せてしまうとは……
思い出補正もあるんだろうが、なんか弱体化してなかったか?
倒されたアークエンジェルナイトは光の粒子となり消え去っていったのでこの場に遺体が残らない。
「……と思うッスよね?
これ、手癖で盗んじゃったッス!」
【バットシーフ】後輩はいつも通りの神業でアークエンジェルナイトの装備の破片を手に握っていた。
あの戦闘の中で盗み取っていたのか……!?
「この破片が何に使えるかは分からないッスけど、ゲートキーパーの素材なら破片でも質としてはバッチリッス!
しかも冒険者ギルドダンジョンよりも難易度が高い【誓言の歪曲迷宮】のゲートキーパー素材ッスからね!
高値で売れそうッス!!」
「君はいつもそうだね……
盗んだものへの執着がないのが不思議だ」
現金な奴という総評だな。
ただ、別にお金に執着しているわけじゃないはずだ。
どちらかというと、窃盗という行為そのものに対するスリルを味わっているのだろう。
俺のようなプレイヤーキラーが他のゲームでプレイヤーをキルするとアイテムを盗めることがあったりするから気持ちは分からなくもない。
……まあ、俺の場合はキルする行為そのものを求めての犯行だけどな!
「……おもったより、はやく、たおせた。
これなら、つぎも、よゆう……?」
……。
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