821話 コラテラルダメージチームワーク
「……本当に驚いたよ。
まさか難所の5階層もあっさり越えてもう10階層に着いてしまった」
「道中の罠も【ミューン】が踏み壊しながら進んでいたッスからね……
漢気探知もいいところッス……
俺っちたちが踏んだら即死しそうな罠もゴロゴロあったから、恐ろしいことこの上ないッスね!」
【フランベルジェナイト】と【バットシーフ】後輩がもう何度目になるか分からないほど驚いており、【ミューン】の並外れたスペックを目の当たりにしていればそうなると俺も思った。
「……ここまで、よゆう。
でも、つぎは、まかせる……」
「えっ、それってどういうことッスか!?」
【ミューン】が発した言葉に対して【バットシーフ】後輩は困惑していたが……そういえば説明していなかったか?
一定階層ごとに出てくるボスに【ミューン】は攻撃が一切通らない仕様があるらしいぞ!
その相手は例えば……こいつとかだな!
【Gatekeeper Battle!】
【アークエンジェルナイト】
【ボスバトルを開始します】
「えっ、【ミューン】抜きでこいつと戦うってことッスか!?
聞いてないッスよ!!!」
そこには片手剣と盾……バックラーを装備した騎士のような見た目の天使が鎮座していた。
その背中には純白の翼が生えており、ゲートキーパーとしての風格を漂わせている。
「十階層に到達したのははじめてだけど、中々手強そうな相手だね?
でも、フェイちゃんには手出しさせないよ!」
【フランベルジェナイト】はそう言うと我先にと踏み出していった。
炎のような形状の武器のフランベルジェを振りかざしてアークエンジェルナイトへと振り下ろしていく。
真っ直ぐな性格の【フランベルジェナイト】を表したような太刀筋で、見ているだけで気持ちのいい斬撃だ。
だが……
「くっ、弾かれたか……」
アークエンジェルナイトはバックラーで斬撃を弾き、危なげなく攻撃を凌いだかと思うとそのまま片手剣で【フランベルジェナイト】の胸元を切り裂こうとした。
「うわわっ、危ないッスよ!
その斬撃もらうッス!
ストックスロット1、【アークエンジェルナイトの斬撃】っ!」
【バットシーフ】後輩は体勢が崩れた【フランベルジェナイト】を守るように前に出て、アークエンジェルナイトの動きを鏡合わせにしたかのような身体の動きでバットを振り回して攻撃を相殺したようだ。
「助かったよ。
やっぱり君のabilityは頼りになるね」
「当然ッス!
俺っちが生まれてからずっと付き合っている能力ッスから!
ゲームのスキルとは使い勝手が違うッス」
【バットシーフ】後輩が今使用した能力はability【現界超技術】。
俺とは違う、生まれつき超能力を持っている人間が多くいる世界からこのゲームにログインしてきているプレイヤーに発現するabilityだ。
包丁次元だと他に【釣竿剣士】や【黒杖魔術師】が同じabilityを持っているが、通常のプレイヤーでは実現できない規格外の力を行使できるのだ。
そして、そのability【現界超技術】で【バットシーフ】後輩が行使した能力は自分以外の存在の行動をコピー出来るものだ。
本人曰く、「技術を盗み見ているッス!」ということなので、窃盗技術の延長線らしい。
今回は正面にいたアークエンジェルナイトの動きを真似たから、きっちり防衛できたってことだ。
「でも、真似ているだけだと守れても攻められないのが難点ッスね……
先輩もよく言ってるッスけど、これが一番の課題ッス」
そうなんだよな……
こいつは【釣竿剣士】に匹敵するくらい強力な能力を持っているのにいまいち勝ちきれないのは、事前にストックしていた能力じゃないものでは守りに入ってしまう癖があるからだ。
相手の行動を見てからストックするという関係上、後出しになってしまうのはやむを得ないがな。
そういう後輩を助けてやるのも先輩の役目だ。
俺が攻め手になってやろう!
俺は腰に提げていた包丁を手に取ると、そのままアークエンジェルナイトへと斬撃を放つ。
真横から脇腹を狙った横凪払いだ!
「フェイちゃん、俺も合わせるよ!」
アークエンジェルナイトへと攻撃する俺を見た【フランベルジェナイト】が俺とは逆側へと回り込み、フランベルジェを思いっきり振り下ろした。
謀らずとも挟撃になったな!
そして、俺と【フランベルジェナイト】の刃がアークエンジェルナイトにめり込んでいく。
……おおっ!?
前に挑んだときは刃がまともに通らなかったのに今回は通用しているな!?
あれから俺も強くなったということなんだろう。
少し感慨深いものがあるな……
「ここで押し込むよ!
スキル発動!【竜鱗図冊】!」
了解だ!
スキル発動!【竜鱗図冊】!
俺と【フランベルジェナイト】は同時に巻物に封じていた竜の力を解放して身体に竜鱗を纏わせていく。
そうして向上した身体スペックのままアークエンジェルナイトへと大ダメージを与えることに成功したぞ!
いい感じじゃないか!
……。
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