810話 野心ある獣
【いい加減しつこかったり、諦めが悪かったりする……】
【勝ち目がないのが分からなかったりするの?】
「それは私の回復力を上回る攻撃をしてからいいなさい!
私の華麗なる回復力があればたとえ【上位権限】の担い手が相手であっても負けないわ!
あとは罪の悪魔……あなたの戦える時間を削るだけで私の勝利が決まるのだから!」
【意地汚かったり、強情だったりする……】
どうやら【大罪魔】は【強欲】の力から切り替えて今は【色欲】……つまり【ロイス=キャメル】の力を使って【クシーリア】と戦っているようだ。
その証拠に姿が不思議の国のアリスのように変化しているから分かりやすい。
だが、力を切り替えても【クシーリア】の回復力に粘られているようだ。
しかし、その【クシーリア】も息絶え絶えでかなりのスタミナを消耗しているように見える。
【クシーリア】お得意の【素早さ】が明らかに精彩を欠いているからな!
慣れない【生命花】の力の行使はそれほど集中力がいるものなのだろう。
どちらにしても、そろそろ決着は着くだろう。
そう、戦況は最終局面に突入しようとしていた!
【そろそろ隠し球を出すの!】
【【傲慢】だったり、【傲慢】じゃなかったりする……】
【大罪魔】はさらに装備を変えていき、要所を金属の鎧で覆い髪色を赤色に変えていく。
そしてその赤色の頭にゴーグルを装着し、手には小さな身体には不釣り合いなサイズの武器……パイルバンカーを装備していた。
これはパイルバンカー次元のMVPプレイヤー……ギアフリィの装備だな!
だが、この局面でパイルバンカーを選択した理由は何だ……?
「そんな鈍重な武器の攻撃は私の【素早さ】を以てすれば当たらないわ!
美しき私による華麗なる回避劇を見せてあげる!」
案の定、【大罪魔】のパイルバンカーによる攻撃は【クシーリア】にヒットせずただ時間のみが過ぎていっている。
いくら【黒杖魔術師】が【大罪魔】のリミット時間を延ばしたといっても限度があるはず。
遊んでいる余裕なんて無いんじゃないだろうか?
「随分と余裕のようね?
でも、このままなら私の勝ちよ!」
【それは【傲慢】だったり、慢心だったりする……】
【私が【傲慢】の力を使ったのは、これを使うためなの!】
【【上位権限】ー【Metamorphose】!】
【【傲慢咎死竜の骸】、異次元の深淵の帝王よ】
【私に力を貸すの!!!】
【大罪魔】が【上位権限】を発動させると、その姿が紫色の光に覆われていく。
そして、光の外郭が徐々に膨張していっているように見える。
その感覚は正しかったようで……
「うわっ、何あれ何あれ!?
【包丁戦士】、あれ知ってて【大罪魔】に任せてたわけ!?
どう見ても強そう……」
リデちゃんが騒ぐのも無理はない。
【大罪魔】は幼女の姿から巨大な竜の姿へと変貌してしまったからである!
その姿はまるで次元戦争で見た【ガルザヴォーク】に似ているが、身体の色や角そして翼の形状などが【大罪魔】の姿を元にしている意匠になっていた。
表現するならば【大罪魔竜】と言ったところか?
こんな形態変化も出来たのか……
「えぇ……【包丁戦士】も知らなかったの!?
それじゃ【大罪魔】の本当の秘密の取っておきってことだよね……」
そういうことになるな。
まあ、あの形態の元になったであろう傲慢咎死竜の骸は俺が次元戦争で捕食してきたものを渡したやつだから、半分は知ってたというのが正解だな。
何かやろうとしてたのは見てたし……
【槌鍛冶士】の鍛冶場で何かをやろうとしていたのは、あの亡骸の再調整みたいなものなんだろう。
いきなり全く別の種族の力を取り込むのは拒否反応が出たりするだろうし……多分な!
そんなことを考えていると【大罪魔】は珍しく詠唱のようなものを始めた。
これまで口にしたとしても一節ほどのものばかりだったが、今回は少し長く……
【荒れ狂う漆黒の炎よ】
【私の大罪の風に抱かれて変容するの!】
【この身に宿る咎たちが降り注ぎ災厄と化し】
【傲慢なる私の姿を知らしめる!】
【漆黒の焔が世界の全てを包み込み】
【此処が私の煉獄と化したり、化さなかったりする……】
【【傲慢ナル深淵ノ焔】!】
深淵の力を大罪【傲慢】の力で強制的に使役させ放たれた漆黒の焔が瞬く間に膨れ上がっていく。
その膨張する様は、自らの【傲慢】によってプライドが膨れ上がっていくことを形にしたと言われても納得できるほどの勢いと爆発力だった。
この一撃で山頂がメルトダウンしていき、それと共に悪魔側のプレイヤーたちまで一気に熔け堕ちていってしまった。
そして、その攻撃を一番激しく受けた【クシーリア】はどうなったのかと言うと……
「はぁっはぁっはぁっ……!?
な、何とか耐えきったわっ……
これで私に勝機が回ってきたわよ!
後は【生命花】の力で回復を……」
【クシーリア】の身体は右の翼や尻尾、胴体の一部などが熔け落ちており、生きているのが不思議としか言えない死屍累々の状態で地面に立っていた。
ここで倒れていなかったのは意地みたいなものだろう。
【でも、回復は無理だったり不可能だったりする……】
「そんなはずは……
……本当に回復しないっ!?」
【これは【阻害】と【侵略】の力を含んだ黒炎なの】
【当然回復も【阻害】させてもらったりする……】
【でも、これで私もエネルギー切れ】
【後は【包丁戦士】たちに任せたり任せなかったりする……】
【大罪魔】はそう言い残すと、光の粒子となって消えていった。
前回のユニーククエスト同様に拠点の鍛冶場までワープしたってところだな。
さあ、ここからがラストバトルだ!
【包丁戦士】、リデちゃん、【槌鍛冶士】の三人しかプレイヤーは残っていないが【クシーリア】を死にかけ……
ここで止めをさしてやるぞ!!!
「ゆゆゆゆゆゆゆるさないわ!!!」
ガハハ!!!
おっ、完成したぞ!!!
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