809話 正面の壁、正面の枝
そんなに黒壁を構築されると迂闊に近寄れないじゃないか……
だからこっちもそれなりの手段で対応させてもらおう!
条件付きとはいえ俺と戦えるくらいの戦力まで仕上げてきた【検証班長】の努力に免じて……だな!
スキル発動!【堕枝深淵】!
俺は詠唱破棄状態でルル様の必殺スキルの【堕枝深淵】を発動した。
【深淵顕現権限】を発動しているのでこれでもそこそこの性能は保証されているのだ!
そうして俺の骨翼から伸びていく黒枝が【検証班長】へと襲いかかっていく。
だが、それをおとなしく受けてくれるわけもなく……
「ボクもただでやられるわけにはいきませんからね……
スキル発動!【塞百足壁】!」
【検証班長】は黒枝から身を守るように深淵の黒い霧を操作して黒壁を生成していき、正面からの攻撃を防衛していった。
レイドボス戦以外では珍しい深淵の力と深淵の力のぶつかり合いだ!
だが、お前が【塞百足壁】を使っていた時間よりも、俺が実戦で使い続けた【堕枝深淵】の方が応用のさせ方や自由度が違うってことを失念してないか?
「しまった!?
地面を通して黒枝を伸ばしてきていたんですかっ!?」
その通りだっ!
戦闘慣れしていない【検証班長】なら自分が戦闘中なら見逃してくれると思っていたからな!
リーダーや軍師として一級品の才能を持っていても兵士としての才能は平凡だってことだ。
そんな【検証班長】は俺の黒枝に捕らわれてしまい、【堕枝深淵】の追加効果である麻痺の状態異常付与によって身体がピクリとも動かなくなった。
【検証班長】の様子を見るとスキルの行使も出来なくなったようだな。
「くっ、屈辱ですね……
こうもあっさりと負けてしまうとは……」
まあ、お前の持ち味は直接的な戦闘じゃないからプレイヤーキラーの俺に負けたからって恥ずかしがることではないはずだ。
人生としての経験値が俺とは全く別方向に向かっているはずだからな。
「ですが、ボクが負けたとしてもまだ【クシーリア】がいます。
【大罪魔】の戦闘時間は前回同様にそんなに長くないはず……
【生命花】の力を完全制御できるようになった【クシーリア】の回復力でその時間まで粘ってもらいますよ……」
なるほどな。
それも見込んで鳳凰の格を【クシーリア】に与えたのか。
見えている【大罪魔】の弱点といえばそこだもんな……
だが、もう前回の戦闘くらいの時間は過ぎているぞ?
おかしいと思わなかったのか?
「……っ!?
言われてみれば確かにそうですね!?
【大罪魔】があれだけ派手に力を行使していてまだ姿を見せているなんて……」
なーに簡単なことさ。
【黒杖魔術師】が小細工してくれたんだろうな。
前の砦の戦闘の時に呪文を詠唱していたのに戦況に全く影響を与えていなかったからな。
きっと、この山頂での戦いで【大罪魔】が戦える時間を伸ばすための魔術を使っていたんだろう。
きっとこの堅牢剣山ソイングレストの周辺を捜索してみたら怪しげな魔法陣が仕込んであるはずだ。
「【包丁戦士】さん、それを知っていたから【大罪魔】の戦闘をあえて任せていたんですね。
これは出し抜かれてしまいました……」
俺も確証があったわけじゃなかったがな。
何かの準備をするということを【黒杖魔術師】から聞いていたからもしやと思っていただけさ。
知っていたわけじゃない。
……でも、そうだったら面白いだろ?
これもこのプレイヤーに人権の無いゲームの楽しみ方さ!
俺は最後にカラカラと笑いながら【検証班長】に話しかけ、そのまま黒枝に捕らわれている【検証班長】の額に向かって包丁を思いっきり突き刺し横に引き裂いた。
「……あっ【包丁戦士】、勝ったんだね!
負けるとは思ってなかったけどちょっとヒヤヒヤしてたよ」
そう言いながら【検証班長】に勝った俺を迎え入れるリデちゃん。
機戒兵の改造は終わったのか?
「まだフレイムギア改造中だし、【包丁戦士】の戦いをじっくりと見させてもらったわ!
深淵種族のスキルってどれも禍々しいよね……」
それは全く否定できないな。
使い手の俺でさえそう思うのだから、遠巻きで見ているやつにはもっと禍々しいものに見えているのだろう。
見るからに敵キャラの技だし……
「つまり【包丁戦士】も敵キャラみたいなものだよね?
だって深淵スキルとか深淵種族の変身とかいっぱい使えるし!」
まあ、俺はプレイヤーキラーだからな。
深淵の力の使い手という意味でも、プレイヤーたちからの敵意を集めるプレイヤーキラーという意味でも敵キャラなのは間違いない。
PKKのお前や【短弓射手】からすれば立場は真逆の位置にいるんだろうな。
「あっ、そういえばオジチャンどうなったのかな?
さっきまで巨大ムカデに巻き付かれていたけど……」
そう言って【短弓射手】や【邪神像】がいたところを見ると何も残っていなかった。
……どうやら【邪神像】は【検証班長】が死に戻りするタイミングで一緒に消えたみたいだが、いつの間にか【短弓射手】もくたばってしまっていたのだろう。
あんなに包囲されていたし、これはやむを得ないな。
「それなら私がオジチャンの分まで頑張らないとね!
フレイムギアの改造早く終わらないかな~」
そんなリデちゃんの声を聞きながら俺は【大罪魔】と【クシーリア】の戦いに目を向けていくのだった。
やはりあの底辺種族ではちと荷が重すぎたか……?
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