808話 黒壁ノイコウ
【槌鍛冶士】っ、進捗はどうだ?
「ガハハ!!!
流石にまだかかるぞ!!!
機戒兵なんぞ、弄る機会は少なかったからな!!!
構造理解からしているのだ!!!」
いくら【槌鍛冶士】と言えども、そう簡単にはいかないらしいな。
……と、なるとだ。
「【槌鍛冶士】さんが来たので急いで向かってきてみれば何やら面白いことをしていますね。
【戒焔剣レヴァ】を使ってどうしようというのかな?」
それは秘密だな。
ユニーククエストに繋がるものとだけ言っておこう。
だから邪魔するんじゃないぞ【検証班長】!
俺は警戒しながらも好奇心を隠しきれない【検証班長】を牽制するためにそう突き放した。
だが、情報に貪欲な【検証班長】がこの程度で追及を止めるわけがなく……
「それなら力ずくでも教えてもらいましょうか!
スキル発動!【深淵顕現権限щ】!」
【検証班長】はスキルを発動すると、全身が深淵の黒い霧に覆われていき身体が作り替えられていっている。
そして霧が晴れていくと、そこには漆黒の具足を装着した【検証班長】の姿があった。
お、お前……!
深淵細胞を、そして【深淵顕現権限】を手に入れていたのか!?
いつの間に!?
驚く俺に対して【検証班長】はしてやったりという表情を顔に浮かべながら口を開いた。
「【包丁戦士】さんの知らない間にですね。
【邪神像】の操縦をしているうちに手に入りました。
この【邪神像】の核や外装も本物のレイドボスから手に入れたものですからその影響だろうね」
……まあ、それは百歩譲ってあり得る話だろう。
だが、今の【深淵顕現権限】は生け贄を使わなかったな?
どういうカラクリだ?
「簡単なことですよ。
この【邪神像】とボクの深淵細胞がリンクしている……ただそれだけです」
よく分からないが、【検証班長】からすれば隠すようなことでもないらしい。
だが何かしらの仕組みはあるようだから、下手すると【深淵顕現権限】の制限時間の縛りもないだろうな。
生け贄が要らないってことは【深淵奈落】と同じ環境を自分だけ再現できているということになるだろうし。
とりあえずそんな理屈は置いておいて、【検証班長】を倒してしまえばいいだけだ!
【槌鍛冶士】の邪魔をさせないように俺が直々に相手をしてやるよ!
これはそのための下準備だ!
称号【煌めく血塗られた闘志1位】セット!
すると、無機質な声が鳴り響きはじめた。
【Warning!】
【孤高なる闘志の持ち主よ】
【挑戦者を打倒せよ】
【【アリーナチャンピオン】権限により挑戦者の行動範囲を制限】
【挑戦者【検証班長】は【包丁戦士】から一定距離離れることができなくなりました】
俺は【アリーナチャンピオン】権限を発動させて【検証班長】の移動範囲を制限すると、包丁を構えて【検証班長】に向かって走り出していく。
【検証班長】はそんな俺を見つめると口を開いてスキルの発動を宣言してきた。
だが、その口の動きは……!?
「スキル発動!【塞百足壁】!」
【検証班長】が発動したスキルはプレイヤーが使うのを初めて見たが、それ以外の存在ならば二体ほど使ったことがあるのを見たものだった。
【蕭条たる百足壁】のクソデカムカデと【深淵域の管理者】のルル様だ。
その経験則からするとこの後に起きるのは……っ!!
ここだっ!
俺は【検証班長】に向かっていく最中だった足をあえて急停止させてバックステップで一歩下がっていく。
すると、俺がさっきいた場所の左右から漆黒の壁が押し潰すように合わさっていった。
あのままだったら俺は黒い壁によって圧迫死していたに可能性が高かった。
「……避けられましたか。
やはり【包丁戦士】さんの戦闘勘はボクが見てきたプレイヤーの中でもトップクラスの冴えだね。
敵に回すとこんなにも恐ろしいものなのかと背筋がゾクッとしてしまいますよ」
俺はプレイヤーキラーだからな!
殺気には人一倍敏感なのだ。
だからこそ、どんな攻撃が来るのか予想さえできていればこんなものだな。
それにしてもデカブツムカデの黒壁スキルを使ってくるとはな……
「【包丁戦士】さんを相手にするならこれくらいはしておかないと勝てる気がしませんからね。
まだまだいきますよ!」
【検証班長】は具足を黒く光らせると俺の周りに黒い霧を生成しはじめた。
この黒い霧が圧縮されて黒壁になるのだから、何よりも脱出することが先決だ。
侍モブ!
お前の命をもらうぞ!
スキル発動!【深淵顕現権限P】!
俺は機動力を手に入れるため、ハリネズミの侍モブを生け贄に捧げて深淵の黒い霧を発生させて身体を書き換えていく。
そして背骨の辺りから右片翼の骨翼が隆起し、俺は空中へと飛び上がった。
そうして【検証班長】の仕掛けた俺への黒壁の包囲攻撃を間一髪のところで回避することに成功した。
「【包丁戦士】さんお得意のパターンですね。
面白くなってきましたよ!」
カッカッカッ、新たな深淵の力の使い手とは驚いたのぅ……
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