802話 掌ダンス
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
昨日は【第四クシーリア砦】を突破した俺たちだったが、今日はその先……つまり堅牢剣山ソイングレストの山頂に行こうと思う。
ユニーククエストの制限日数も今日で終わりだし、この最終決戦で勝っても負けてもそこで強制的に結果が定められてしまうだろう。
ちなみに、攻めきれなかった場合には【悪魔の侵攻作戦】側のプレイヤーが負けになるらしいので、引き分け狙いで持久戦とかに持ち込まれたら非常に厳しい戦いとなるだろう。
というわけでやってきました堅牢剣山ソイングレスト山頂の少し手前。
そこで最終的なメンバーを確認していた。
「なんだかんだオジサンもきっちり生き残っちゃってるねぇ!
遠距離攻撃チュートリアル武器を使っているからこういうイベントだと途中で脱落することは少ないけど今回もそうなったみたいだ」
まずは【短弓射手】。
やっぱりこいつが味方にいると心強いな。
本当はプレイヤーキラーが向いている……というより動きから察するにこのゲームじゃない別のゲームとかでプレイヤーキラーをやっていたんじゃないだろうか?
立ち回りや気配の消し方がそんな傾向にある。
「いくらオジチャンを見つめても渡さないからね!
【包丁戦士】みたいなチンチクリンよりも私の方がオジチャンの好みなんだから!」
そんな【短弓射手】に最近引っ付いているプレイヤー……【リフレクトミラーディフェンダー】通称リデちゃんだ。
俺への謎の対抗意識を持っているからか、少しだけ当たりが強い。
戦闘力についてはそこそこだと思うが、匠の技を持つ【短弓射手】とのコンビネーションは目を惹くものがある。
「拙者、【包丁戦士】好き好き侍。
義によって助太刀する次第で候」
なんか生き残っていたらしいクラン【コラテラルダメージ】に所属する【ハリネズミ】の一員である侍モブプレイヤーもいた。
こいつの戦闘力はそこまであてにしてないが、ここまで生き残った生存能力だけは評価してやろう。
後は、まぼらにモブプレイヤーたちがいるくらいか?
これまでの戦いで生き残ってきたのか、あるいは最終決戦まで戦いに参加せず引きこもっていたのかは俺には分からないがそれなりにやれるやつが少しでも居ればいいな。
そして、そんな連中を引き連れて山頂に到達すると俺たちを待ち構えていたのは2つの人影だった。
「こんなにプレイヤーが集まるなんて美しくないわね。
わたくしの美しさを見習って欲しいわ」
出会って早々に俺たちへと辛辣な言葉を投げかけてきたのは、真っ赤なロングな髪を伸ばし、炎を象った肌の露出がいたるところにあるアダルティな服装をした女性……そうこいつが今回の防衛側の主役【クシーリア】だ。
真っ赤な翼生えてるし、一目で朱雀が人型になった存在だと分かるようになっている。
そしてもう一人、お前ならここで待ち構えていると思っていたぞ!
「【包丁戦士】さん、ずっと待っていましたよ。
ここで前回のリベンジを果たさせてもらうとしようかな!」
俺に熱い視線を飛ばしてきているのは、白衣姿にメガネをかけた痩せ型の男……【検証班長】だ。
前の機戒兵VS深淵獣のユニーククエストの時に戦って以来会っていなかったが、次の再会もこうやって敵同士になるとはな!
「ボクとしてはむしろこの場面をあえて設定させてもらったのですけどね?
【包丁戦士】さんからしたら意外でしょうけど……」
いや?
そこまで意外でもないんだよな……
出てくるならそれぞれのクランのリーダーを集めた前の砦の可能性もあったが、お前の想いは前に聞いたからな。
多分ここで待ち構えているんじゃないかと薄々感じていたさ。
「それは光栄ですね。
【包丁戦士】さんが山頂へ来るまでに脱落しないか不安でしたが、杞憂に済んだようだね」
……もしや、あの滅茶苦茶な配置は意図的に【検証班長】が操作していたのか?
流石にこの前にあったクランリーダーたちの集結する砦は難所だったが、そこ以外の砦は守りがおざなりだったように思えた。
特に【ペグ忍者】の適正配置はあそこじゃなかっただろう。
それこそ、本気で俺を途中で脱落させるなら【風船飛行士】と【ペグ忍者】を組ませて俺をリンチにすれば良かったはずだからな。
その組み合わせは流石に豪華すぎるが【包丁戦士】キラーと定評があり、【検証班】の秘密兵器である【ペグ忍者】をあんな中盤……しかも俺以外のプレイヤーが対処しに行けるような場所では宝の持ち腐れと言えるだろう。
お前、わざと俺をここまで残したんじゃないか?
「……確かに【包丁戦士】さんを残したかったというのはボクの感情としてはありましたね。
意図的にそうした面もあります。
でも、戦略的に考えたらあそこの【ペグ忍者】配置はそんなに悪くないものだったんですよ。
【包丁戦士】さん以外にも厄介なプレイヤーはいましたからね。
ボクが途中で必ず脱落させたかったのは【フランベルジェナイト】さん、【骨笛ネクロマンサー】さん、【バットシーフ】さん、【槌鍛冶士】さん、ボマードちゃん……つまり【包丁戦士】さん以外のクラン【コラテラルダメージ】のメンバーです」
……ん?
あいつらが?
「ボクは【包丁戦士】さんへの対策を念入りに仕込みましたが、それ以外の不確定要素の多いプレイヤーを事前に脱落させたかったのですよ。
誰でもどんでん返しをしてきそうだったからね、戦場にいるのを考えただけで冷や汗ものだったよ」
確かにそれは同意できるな。
今考えてみると、クラン【検証班】のメンバーはボマードちゃんや【バットシーフ】後輩をあえて相手に選んでいた節があった。
そんな考えで配置していたのか……
やっぱり【検証班長】は侮れない、手のひらの上で踊らされていた気分になってきたぞ!
「そう言ってもらえると作戦を練りに練っただけありますよ。
特に【バットシーフ】さんは【クシーリア】の天敵になったでしょうから、【ペグ忍者】はいい働きをしてくれたよ」
【バットシーフ】後輩が【クシーリア】の天敵?
……あっ、失伝秘具【戒焔剣レヴァ】を窃盗出来る可能性があったからか!
【検証班長】め、本当にしてやられたな……
【バットシーフ】後輩に盗ませてリデちゃんに【戒焔剣レヴァ】を渡せばそれでユニーククエスト一つ終わってたってことだからな。
くそぅっっっっ!
【Bottom Down-Online Now loading……】