798話 痴話喧嘩
さて、次の手だが……
「困ったときの【虫眼鏡踊子】の姉御とは私のことよ!
ability全開起動!【抑強扶弱】!」
【虫眼鏡踊子】は地上から俺と【風船飛行士】に虫眼鏡を向けると、そのまま華麗な踊りを踊り始めた。
その踊りは戦う者を奮起させるものだが、今回の対象は俺ではなく……当然【風船飛行士】だろう。
「おっwww
とうとう御披露目かwww
オレの彼女の力を満喫しておくといいぞwww」
【風船飛行士】がニヤニヤしながら俺に煽りを入れてきた。
そんな【風船飛行士】に続くようにして【虫眼鏡踊子】も言葉を紡いでいく。
「そんなに煽てられても困るのだけれども……
私のability【抑強扶弱】は弱きものを助け、強きものを挫くためのものよ!
虫眼鏡で覗き込んだ中で一番強いと評価されたものに対しての特効を授けるわ……私が躍り続ける限りね」
そう、【虫眼鏡踊子】は条件が不安定とはいえ味方にバフを付与できる貴重なability持ちなのだ。
今回俺と【風船飛行士】が虫眼鏡で覗かれたわけだが、カタログスペックだけ見るのなら主に【次元天子】と【上位権限】のせいで俺はレイドボスとなってしまっている。
そりゃレイドボスとプレイヤーを比較すればバフがかかるのは自然と【風船飛行士】になるだろう。
「お前たちが【短弓射手】をオレから外してくるのは分かりきってたことンゴwww
だからこっちも代わりに【虫眼鏡踊子】のabilityを最大限に活かせる相手として【包丁戦士】を選ばせてもらったぞwww
等w価w交w換w」
だからやけに素直に俺の相手を受け入れたのか。
俺への敵対意識から固執してくると思ったが、意外にも頭脳派な【風船飛行士】なだけあってその裏では自身の戦闘理論に基づいていたのだろう。
こうなると多分、【フランベルジェナイト】と【トンカチ戦士】の戦いに手を出していないのも、俺たちにも助太刀をさせないためだな……
【フランベルジェナイト】よりも【トンカチ戦士】の方がこれまで戦績が良いので変に手を出さないことそのものが勝ちに繋がると判断して【トランポリン守兵】お嬢様たちを焚き付けたのだろう。
実に陰湿なやり口である。
「お前にだけは言われたくないンゴねぇwww
んんっ、プレイヤーキラーの方が陰湿な役割を持てますぞwww」
はっ、勝手に言ってろ!
俺はabilityによって強化された【風船飛行士】に向かって再度包丁を振りかざしていく。
空中での斬撃は身体のバランスを取るのが難しいが、今となってはお手のものだ!
それっ、俺の十八番の袈裟斬りをくらえっ!
俺は【風船飛行士】の肩から腰にかけて斜めに包丁を振りかざし、その身体を傷つけようと試みた。
「そんな見え見えの斬撃、いくらオレが接近戦をしないって言ってもかわせるぞwww
舐めすぎワロタwww」
知ってるさ!
お前がどれだけ修羅場を潜ってきたのかはなんとなく分かるからな!
……だからこそ、こっちが本命だ!
俺は包丁に仕込んでいた鞭のギミックを起動して、【風船飛行士】の足に巻き付けていった。
斬撃回避直後のために隙を見せていた【風船飛行士】はなす術もなく鞭によって俺と繋がれたのだ!
「運命の糸ってかwww
とうとう【包丁戦士】と結ばれてしまったンゴwww」
はっ?
こいつ、頭沸いてるんじゃないか???
俺はお前と結ばれるなんてノーサンキューだぞ……
「ふざけたこと言ってんじゃないわよ!
私という彼女がいるのにいつもナンパばっかりして……
とうとう【包丁戦士】ちゃんにも手を出したのね……」
こらこらこら、勝手に話が拗れるような会話を続けるなよ!
俺はこれまで何度か【風船飛行士】からナンパされたことがあるが、多分本気でナンパしてきたのはチュートリアルの時だけで後は煽り半分みたいなところがある。
しかもあのチュートリアルの時には、ナンパされた直後に俺がチュートリアル武器の包丁で切り裂いてやったからな。
「あの時の恨みは忘れないからなwww
なんでチュートリアル中に他のプレイヤーにキルされなきゃいけなかったんだよwww
オレ、運が無さすぎワロタwww
見た目だけは可愛いから完全にトラップだったンゴwww」
「確かに【包丁戦士】ちゃんは可愛いから気持ちは分かるわね……
でも浮気は許さないわよ!」
俺が可憐な乙女なのは周知の事実だが……
そんな悠長なこと言っていていいのか?
俺は【風船飛行士】に巻きつけた鞭を手繰り止せながら間合いを少しずつ詰めていっている。
もちろんその最中にも【風船飛行士】からのオート照準射撃が飛んできているが、マニュアル操作ならともかく規則的過ぎるので回避は容易い。
「ちょっwww
どんどん近寄ってくるんだがwww
実は大ピンチじゃんwww」
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