795話 片割れの破片
「【包丁戦士】さんと一対一になっちゃったよっ!?
でも、片足が無いならもしかして勝てるかなっ?」
【ブーメラン冒険者】がそんな楽観的な想定をしているが、甘いな!
俺はこの【フィレオ】のデメリットを想定して、四肢のどの部位を失っても動けるように訓練している。
流石に機動力や手数は減るが、これくらいで遅れを取るつもりはないぞ!
「【包丁戦士】さんならそうだよねっ!
油断大敵だねっ!」
そう言って【ブーメラン冒険者】は投げナイフを俺に向かって投げてきた。
こんな正面からの単調な投擲なら余裕で対応できるが、俺に対して多少の理解を示そうとしている【ブーメラン冒険者】がこれで俺を仕留められると思っているはずがない。
本命は……後ろかっ!?
俺は目の前から迫ってきていた投げナイフを包丁で叩き落とし、いつの間にか投げられていた後ろから迫ってきているブーメランを尻尾で弾いた。
今のは殺気が籠ってなかったから下手すると気がつかなかったかもしれない見事なものだった。
「呪術スキルの応用みたいなものだよっ!
私は姉と違ってこんな搦め手しか出来ないからねっ!
【タウラノ】に色々と教えてもらっていたんだよっ!」
そういえば山間部エリアで仲良くしてたもんな。
【タウラノ】の甲斐甲斐しさからして応用テクの一つや二つ教えられているだろうとは思っていたが、こんな器用な真似も出来るようになるのか……侮れんな……
だが、これは防げないんじゃないか?
スキル発動!【魚尾砲撃】!
俺は再び【魚尾砲撃】による極太レーザーを放ち【ブーメラン冒険者】を仕留めようとした。
あいつはそれを風の流れに乗ってかわそうとしたが……
「うわっ、急に止まったよっ!?
……あっ、風の起点が破壊されたんだねっ!?」
その通り、俺は【ペグ忍者】が戦闘中に投げていたペグを回収してそのまま隠し持っていたのだ。
それを【波状風流】で設置したスプリンクラーに投げて破壊した。
そうなれば【ブーメラン冒険者】は逃げられず【魚尾砲撃】でやられてくれるってわけだ。
「ううっ……また負けちゃったよっ!!
今度【タウラノ】に深淵の力の対処方法を教えてもらうから、次は勝つよっ!」
そう言って【ブーメラン冒険者】も光の粒子となって消えていった。
よしっ、これで双子に勝利したぞ!
俺の方は片付いたが、【ペグ忍者】の方はどうなっているだろうか?
そう思い見てみると、ちょうどくたびれた様子の【短弓射手】がとぼとぼとこちらに向かって歩いてきているのが見えた。
……【バットシーフ】後輩と【メリケンサックボクサー】の姿が見えないな?
「そうなんだよねぇ……
残念ながらあの二人は【ペグ忍者】を倒すための犠牲になってしまったよ。
オジサンもかなり手酷くやられちゃって今日はここでログアウトしないとダメそうだねぇ。
次の砦の攻略にはオジサンとリデちゃん二人とも参加できると思うから、またこの砦で集合ということで」
いや、まだこの砦の攻略は終わっていないと思うんだが……
次に来るときに攻略が終わっているという保証はあるのか?
俺は疑問に思い【短弓射手】に問いかけると……
「あらら、お嬢ちゃん気づいてない?
向こうでお嬢ちゃんのクランメンバーの【フランベルジェナイト】と【骨笛ネクロマンサー】が暴れているのさ。
それに対して炎帝鳥側は次の砦に主力を残しているからか、ここにはそんなに強そうなプレイヤーは残っていないから攻略も時間の問題だねぇ」
あぁ、それなら納得だな。
質と量、どちらも補えるメンバーが攻略に加わったのならこの砦は自然と落ちる方向に向かうだろう。
これ以上俺たちが手を加える必要も無さそうだ。
「でも、次の砦は要注意だねぇ……
山頂には【クシーリア】がいるとは思うけど、その一つ前……つまり最後の砦には多分主力プレイヤーが集まっているはずだ。
オジサンの見立てだと【風船飛行士】や【トランポリン守兵】はあそこで待ち構えているだろうねぇ……
砦のトラップは他の悪魔側プレイヤーたちに踏んでもらって、オジサンたちは後から向かうのが賢明さ」
それがいいだろうな。
俺が毎回砦攻略後にログアウトしている理由も同じものだし。
真っ先に攻めたいやつに罠は踏ませておけばいいのさ。
わざわざ俺たちが消耗するのも不毛だからな。
「このままオジサン、リデちゃん、【フランベルジェナイト】、【骨笛ネクロマンサー】、そしてお嬢ちゃんがいれば【風船飛行士】と【トランポリン守兵】がペアで襲ってきても勝てるだろうけど、思わぬ伏兵がいるかもしれないからねぇ……
油断せずに行きたいところだけど、お嬢ちゃんはどう考える?」
俺も同じ意見だが、妙だな……
ここまで来てあいつとかあいつ見てないし……
片方は出てくる場面が読めているが、もう片方はここまで見ないとなると最悪敵に回っていると考えた方がいいかもしれない。
【短弓射手】の話だと味方になるかもしれないとのことだったが、俺たちの味方をしてくれた記憶がこれまでもほとんどないので諦めるべきだろうな。
「残念ながらそうなるだろうねぇ。
力及ばず申し訳ない」
味方だったり、敵だったりする……
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