791話 きばくざい
噂の亀獣人の力見せてもらおうじゃないか!
俺は腰に提げていた包丁を手に取り【モップ清掃員】の方へと駆け出していく。
「ほうこの見事な距離の詰め方……大したものですね。
一見するとただ突っ込んで来ているようにしか見えない突撃ですが、各所にフェイントが混ぜられていますね?
そこに惑わされてしまうと魔法のように攻撃が当たらなくなってしまうでしょう」
【モップ清掃員】は俺の動きを分析しながらチュートリアル武器のモップで俺が接近するのを牽制してきている。
包丁よりもモップの方がリーチが長いのでこの距離感なら【モップ清掃員】の方が有利だろうな。
俺が突きを入れたら振り下ろし、俺が横凪払いをすれば斜めにモップを構えてガードという完全に守りの姿勢だ。
だが、俺はプレイヤーキラーだからな、そんな守りの姿勢の中にも隙を見出だして右手首に包丁を突き刺した。
これで右手はもらったぁ!
そう思った渾身の一撃の斬撃を放ったのだが……
「スキル発動!【花上楼閣】!」
まるで石を切りつけたかのような固さで包丁が弾かれてしまった。
それもそのはず、地面に突如咲いた岩の花から一枚の花弁が発射され俺と【モップ清掃員】の間に割り込んできたのだ。
その後に飛んできた何発かの岩の花弁の弾丸は身をよじることでギリギリ回避できた。
だが、岩の花弁を弾丸のように撃ち出せるのは天子の特権のはず……
「ほうあれをかわすとは、大したものですね……
これが亀獣人の種族特性の一つですよ。
猫獣人や虎獣人が【渡月伝心】で粒子を操るように、亀獣人は【花上楼閣】で生命花を操ることが可能になるんです」
生命花の力に特化した部分的な【天元顕現権限】みたいなものか……
ただでさえ手堅い【モップ清掃員】に厄介な力が加わっていたとはな。
「【包丁戦士】さん、私もようやく生け贄を見つけてきましたよ。
いや~、これで戦闘に参加できます!
スキル発動!【深淵顕現権限】!」
戦闘開始していたのにも関わらず全く俺の支援をしてこないと思ったら生け贄を探していたのか……
そんなボマードちゃんは身体が黒い霧に包み込まれ、再び姿を現すとドロドロと粘液を垂れ落としていく尻尾をつけていた。
そして、普段ボマードちゃんがしないような悪意に満ち溢れたニヤケ顔を顔に浮かべながら、腕を組み仁王立ちしていた。
低い身長でたわわに実る乳房、そこに背徳的な表情を浮かべるボマードちゃんは普段とのギャップもあって一層魅力的に映るだろう。
「俺様の半身、苦戦しているじゃねぇカァ!
イャ~、ここからは侵略の力を司る俺様が手助けしてやるゼェ!」
そう今ボマードちゃんの身体を操っているのはボマードちゃん本人ではなく、意識を乗っ取った元レイドボスの【ジェーライト】だ。
そんなボマードちゃん(ジェーライト)は俺と【モップ清掃員】が牽制し合っているのを確認して【モップ清掃員】の裏へと回り込んだ。
そして、そこから爆弾を投擲し地面に触れた瞬間に爆風が俺の方へも伝わってきた。
「ほう爆弾ですか、大したものですね……
クラン【コラテラルダメージ】の特別製法によって作られた爆弾は他のものよりも軽さも威力も桁違いですからね」
「俺様の不意打ちを受けてその程度で済むとはやるじゃねぇカァ!
イャ~、流石はあの暴飲暴食の亀の力を身に宿しているだけはあるナァ……
暴飲暴食の亀と俺様の仲間の【蕭条たる百足壁】の防御力はいい勝負だったが、どっちも相手にしたくないくらい固かったからナァ……
俺様の力も宿主様の影響で落ちているから同じくらい固く思えるゼェ!」
【モップ清掃員】は爆弾に対応出来ておらず直撃していたが、それでも死に戻りしておらずまだ俺たちの前に身体を残していた。
そんな【モップ清掃員】に追撃をかけるべくボマードちゃんは尻尾を鞭のように使い、爆弾と尻尾の攻撃を織り混ぜながらさらなるダメージを与えていっている。
このままいけばボマードちゃんだけで勝てるんじゃないかってくらいの猛攻だ。
深淵種族の中でも比較的直接的な戦闘に長けたジェーライトが身体を操作しているだけあって、身のこなしがシャープだ。
「ほうこれがボマードさんの力ですか、大したものですね。
これだけの力がありながら既にデバフを受けているのには驚きです。
ですが、せめてあなた一人だけでも落とさせてもらいますよ。
この後の場面であのスキルを使われるわけにはいきませんから……
スキル発動!【亀爆座遺】!」
【モップ清掃員】は聞き覚えのないスキルの発動を宣言してきた。
名前からしておそらく亀獣人のスキルだろう。
スキルを発動した【モップ清掃員】はまるで石になったと錯覚してしまうほどの硬直状態になり、その場で動きが止まってしまった。
だが、その足場からまるで亀の甲羅のようにひび割れていき爆炎が周囲に広がり始めた。
……これは亀獣人の防御力を強引に活かした自爆攻撃だなっ!?
不味いっ、ボマードちゃん逃げろっ!
巻き込まれるぞ!!!
「えぇっ!?無理です無理です!
いや~、私の身体だと爆炎の範囲から逃げられないで……す……y」
ボマードちゃんは遺言を遺している最中に地面から沸き上がってきた花のような形をした爆炎に巻き込まれて光の粒子となり消えていった……
そして、爆心地の中央にいた【モップ清掃員】も当然消えていた。
無傷の状態からこのスキルを使ったのなら生き残れるスペックはあったんだろうが、俺とボマードちゃんの攻撃を受けすぎたんだな……
さて、俺の方の割り当ては終わったがリデちゃんの方はどうなったかな。
戦闘力がそんなに高くなさそうな【ドライバー修理人】が相手だからそんなに心配してないが……
そう思い見てみると俺の予想は覆されていた。
確かにリデちゃんが勝利していたのだが、リデちゃん本人もフレイムギアもボロボロになっていた。
そんなに苦戦したのか、意外だな……
「あの挙動不審な人、機械の扱いがプロだったんだよ!
戦闘の勘は私の方が上だったけど、機戒兵の操作はあの人の方が数段上だったわ……
私がタンク系プレイヤーじゃなかったら負けてたかもしれないね」
あいつ、そんなにやり手だったのか……
自己主張が少なすぎるから全く戦えないと思っていたが、意外な特技もあるもんだなぁ……
だが、それでも勝ったのはリデちゃんだ。
勝負の決め手は何だったんだ?
「さっきも言ったけど実戦経験で鍛えた勝負勘と、近接攻撃が上手く決まったことね!
アッシュバレルは遠距離からの銃撃が得意な機体みたいだったけど、フレイムギアは近接攻撃が得意だからフレイムギアの間合いに持ち込めてからは優勢に戦いを運べたわ。
あの人、近くまで攻められたらすぐに逃げの姿勢に入るからそこが性格的な弱点でもあったみたいよ」
それはイメージ通りだな。
だからこそ遠距離攻撃が得意な機体のアッシュバレルを操っているんだろうけど、それ以上にリデちゃんの押せ押せの攻撃の圧にやられたんだろう。
「勝ったけどフレイムギアがボロボロになっちゃった……
明日はオジチャンも来るけど、私は一日中修理することになりそうよ。
精々オジチャンの足は引っ張らないでね!」
はっ、誰に言ってるんだ?
俺が【短弓射手】の足を引っ張ることはないだろう。
むしろ、リデちゃんよりも上手く合わせられる自信すらあるぞ?
「ぐぬぬぬぬ……【包丁戦士】のクセに生意気ね!!!」
そんな軽口を飛ばし合いながら、俺たちは【第二クシーリア砦】にいるプレイヤーたちの命を刈り取っていくのだった……
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