79話 猫ハウス
「にゃんなのら!
全然攻撃が通らないのら!」
【ペグ忍者】のペグによる突きの連続はレイピアによる攻撃を思わせるような鋭く素早い攻撃だ。
その辺の【モブ】なら3人くらい死に戻りしていること間違いなしって感じだな。
だが、俺に届かせるにはまだ足りない。
鋭く素早い攻撃ではあるが、まずリーチが足りていない。
俺の胸元や喉元を狙う攻撃もほれこの通り!
「ぐぬぬなのら~!!」
届ききる前に包丁の腹で受け流すことができる。
ジェーとの戦闘を重ねて磨きあげた、俺のもっとも得意な防御方法だからな。
種族転生をして基本スペックが上がったからって流石にレイドボスほどじゃない、凌ぐだけなら全く問題ない。
まあ、凌ぐだけならな。
「【包丁戦士】しゃんっ、こっちの攻撃も届かないでしゅがっ!
そっちからの攻撃も無いのはどうなのら?」
いや、お前が速いからだよ!
そう、凌ぐことしかできてない。
底辺種族と猫獣人との格の違いをリアルタイムで見せつけられてるのだ。
俺の包丁の腹で受け流すガードは半分オートガードに近い感じで出来るから、攻めていなければダメージはほとんど受けない。
逆に攻め始めるとそうはいかなくなるんだよなぁ。
ほれ、望みの攻撃だ!
埒が明かないので、致命傷を避けれそうな肩への攻撃を敢えてうけて、カウンターで太もも辺りを狙っていく。
潰すならその厄介な足だ。
「ふにゃん!
痛み分けって感じなのら……
太ももを狙うなんて【包丁戦士】しゃんは変態しゃんなのら?」
お前にだけは一番言われたくないフレーズだなそれ!
変態なのはお前だけで充分!
今の痛み分けで互いにダメージを受けたが、部位的には俺が一歩リードってところか。
スキルを使おうか非常に悩んだが、こいつの隠し玉がある可能性を考えるとこの盤面で使うのはリスキーだったからな。
戦っている感想だと、この猫獣人という種族は素早さを引き上げる種族のようだ、つまり隠し玉も何かしらの素早いモーションの可能性が高い。
それが回避技だった場合俺はその時点で負けだからなぁ……
「ちょっとここからは趣向を変えてみるのら!
ペグ投擲で雨を降らせるのら!」
淫乱ピンクペド忍者はどこから取り出したのか分からない大量のペグを指に挟み、俺を追い込みつつも闘技フィールドの端々に刺していく。
ちっ、チュートリアル武器以外でもペグを準備していたか……
落ち着いて考えてみれば分かったことだが、ペグは本来複数本を準備して一緒に使うものだし、何本も持っていても何らおかしいことはない。
だが、戦闘中でその事まで頭が回っていなかった俺はそのうちの一本を脇腹に受けてしまった。
迂闊すぎたな。
それを確認したペグ忍者は両手を地面につき、何かを固定している。
あれは……不味い!?
完全に場を支配されてるじゃないか。
「これがワイヤー猫ハウスってやつなのら!
この猫の家から【包丁戦士】しゃんは逃れることができるのら~?」
さっき投擲したペグ一本一本にワイヤーがつけられており、縦横無尽にワイヤーが仕掛けられたフィールドがそこには完成していた。
そして、そのワイヤーの上に軽々乗って、次々と飛び回る【ペグ忍者】の姿があった。
普通の人間なら体重とかの関係であんな芸当はできないはずだが、そこは獣人としての能力なんだろう。
体重が軽くなってるとか脚力強化とかその部類って予想だ。
あの急加速もその内の1つか?
あれ以降使ってきてないし、何か使用条件とかあるんだろうな。
いや、考察は後だ後!
それよりもまずは、このワイヤー猫ハウスを縦横無尽に飛び回る【ペグ忍者】をなんとかして捕らえないとな。
とりあえず……ワイヤー切るか!
最低出力の【フィレオ】!
……うん、切れるな!
動かないものに対してならほぼノーリスクで【フィレオ】が使えるのは大きい。
こういったトラップとかには案外強いのだ。
「んにゃ!?
せっかく設置したのにすぐ壊すなんてズルいのら~!!」
そう言ってワイヤーを駆け回るのを止めて、攻撃姿勢に入る【ペグ忍者】。
くっ、もっと切れたらよかったが、そんなに甘くなかったか。
残ったワイヤーを伝って、上からも横からも攻撃が飛んでくるのは中々ハードだな……
弾丸のように飛んでくる幼女がすれ違い様に切り込んでくるから、少しずつ少しずつダメージが蓄積してきている。
あの異常な急加速も混じってきてるからなおさら厄介な感じになっている。
両手をワイヤーにつけて、その後別のワイヤーへ急加速で飛び移る。
その動作を繰り返し、フェイクを混ぜつつ攻めてきているのがこれまた厭らしい!
ん?両手をワイヤーにつける必要ってあるか?
あいつは足だけでも充分バランス取れているし、無駄な動作じゃないのか……!?
あの動作にいったいなんの意味が……
いや、待てよ。
はじめにバク天したときも両手が地面についてたなっ!
その後急加速したってとこはもしや……
移動前に両手が地面と……じゃなく、足と同じ土台に触れているのが急加速の条件か!
現実の猫を参照するならその制限も納得できる。
獣人にそれが当てはまるかは別だが、注意するに越したことはないな。
とりあえず急加速については見切ったぞ!
さあ、こいペド忍者!
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