781話 海域名称と鍛治のやりがい
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
そんな風に気楽にログインしてきたところに無機質な声のアナウンスが脳内に鳴り響き始めた。
【ワールドアナウンス】
【【トンカチ戦士】がエリア名称を確認しました】
【【金剛島海域エイプモンド】】
【【金剛海の輝虎魚】の特殊防御権限が1部解除されました】
おっ、あのダイヤモンドオコゼがいる場所のエリアの名前が分かったのか!
俺が未だに直接関り合いになったことの無い【トンカチ戦士】がまたもや活躍したようだ。
【金剛海の輝虎魚】への戦い方の一つは俺が実践して見せたし、放置していてもそのうちクリアしてくれそうな予感がするな。
もし俺がこれから海エリアをさらに探索するとしても、他の海域を探すことに専念した方が良さそうだ。
様子を見に行ってもいいが、それよりも優先してやりたいことは多いから【トンカチ戦士】たちのクラン【紅蓮砂漠隊】に任せよう。
というわけでやってきました新緑都市アネイブルの拡張領域!
ここにある【槌鍛冶士】の鍛治場へと俺は足を運んだのだ。
金属音が鳴り響き暑苦しい室内を歩いていくとそこにはガチムチのおっさんが鉄を叩いている場面が繰り広げられていた。
だが、そのガチムチのおっさん……【槌鍛冶士】は俺に気がつくと手を止めてこちらを振り返ってきた。
「ガハハ!!!
今回の次元戦争では城塞が半壊していたようだな!!!
ワシが作った城塞であれば【ガルザヴォーク】なんぞに遅れは取らなかっただろうに!!!
参戦出来なかったのは残念だ!!!」
相変わらず暑苦しい歓迎をありがとう、やっぱりお前と顔を合わせているとどことなく安心するぞ。
……まあ、それでも暑苦しくてうるさいのには変わらないが。
それはそれとして、【槌鍛冶士】が【上位権限】もフル稼働させて作った城塞なら信頼できそうだな。
そうなったら間違いなく【失伝秘具】と化しているだろうけど。
「ガハハ!!!
ワシが全力を込めたらそうなるだろうな!!!
もっとも、今のワシでは【上位権限】に制限がかけられておるから次元戦争では大層なことは出来ないのだがな!!!」
そういえばそうだった。
【槌鍛冶士】が神殿の効果で復活した時にかけられた制限は、この新緑都市アネイブルの拡張領域以外での【上位権限】やその他能力の行使に支障が出るものらしい。
復活してから色々と試してみたらしいが、やはり復活したエリアに縛られてしまっているのだろう。
エリアを跨ぐ移動自体は問題なく出来るらしいから、生活に不便はないらしいけどレイドバトルでは普通のプレイヤー規格の力しか行使出来ないようになっているようだ。
……まあ、復活する前からも【上位権限】を行使してなかったらあっさりキルされてたけどな。
「前はワシ自らプレイヤーとして違和感がないように力に制限をかけていたからな!!!
【菜刀天子】の目を盗んで行動するのには骨が折れたぞ!!!
あいつは何処か抜けているようで、その実多くのことを見抜いていたからな!!!
ワシが情報操作に長けたレイドボスではなかったら、正体が見抜かれてワシをレイドボスとして討伐するようなイベントを仕込まれていたはずだ!!!
今は力を隠しているわけじゃなくて、出そうとしても出せなくなっているがな!!!
ガハハ!!!」
【槌鍛冶士】は豪快に笑い飛ばしたが、それは笑って流していいことなのだろうか。
本来持っていた力を出せなくなるのは辛いことのはずだ。
「ガハハ!!!
ワシは【包丁戦士】……お前さえ居てくれたらそれで満足だ!!!
唯一無二の相棒であるお前がワシの作ったものを使い活動する……それがワシの生き甲斐になっているからな!!!
【上位権限】の有無はそれに関係していないぞ!!!
……ただ、やはり【失伝秘具】の作成に制限がかかるのは面倒なのも事実だがな!!!」
正直だな。
だが、それが好感を持てる。
俺がこのゲームを始めた時からずっと支え続けてくれている【槌鍛冶士】だが、今の関係はやはりあの時の出会いがあってこそだよな。
「ガハハ!!!
あの時はお前の勘違いだったが、それでもお前の行動そのものがワシへ大きく影響を与えた!!!
それまでのワシはただアイテムを作り続けるだけが生き甲斐だったが、【誰か】のために作るという感情を与えてくれたのは他でもない……お前だからな!!!
あの時はまるで灰色の世界に色がついたような感覚だったな!!!」
そこまで言われると流石の俺も照れるな……
俺は照れ隠しに腰に提げていた包丁を手に取り、【槌鍛冶士】の股下から首もとにかけて切り上げの斬撃である逆風をしていった。
そしてそのまま特別綺麗な粒子となり死に戻りしていった。
うん、やっぱり【槌鍛冶士】の死に際はいつ見ても綺麗だな!
俺は恍惚とした表情を浮かべながらそれを見つめるのだった……
ガハハ!!!
やはり【包丁戦士】はこうでなくてはな!!!
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