78話 生まれ変わった幼女(挿絵あり)
対峙する【ペグ忍者】と俺【包丁戦士】。
お互いに相手の動きを牽制しているからか、じりじりと間合いをはかりながらの動きが繰り広げられる地味な立ち上がりである。
代表戦なのに地味な構図になってしまい申し訳ないが、それはやむを得ない。
【ペグ忍者】のチュートリアル武器のペグと【包丁戦士】である俺のチュートリアル武器の包丁はそれぞれリーチがかなり短い。
だからこそ迂闊に相手の間合いに入ってしまうと一瞬でけりがついてしまうのを恐れているからだ。
それにしても、【ペグ忍者】あいつはそれなりにやるやつだと思っていたが、こんな慎重な戦い方もできるのな。
もっと幼女っぽい思いきった戦い方が得意なのかと思ってたわ、新緑都市アネイブルレイドボス攻略のときはそんな感じだったし。
そうして互いにチュートリアル武器を持ったまま睨み合うこと約2分、【ペグ忍者】の目線が一瞬逸れた。
隙を見せたな【ペグ忍者】ぁ!
俺は自分が攻めやすいように待機していた体勢で、一気に包丁の間合いになるようにペド忍者へと突撃した。
「っ!?
しまったのら!?」
対峙するもの同士がある一定のレベルに達している場合、隙を一瞬でも見せてしまうと相手が得意な間合いになってしまう。
今回は俺が一歩上手だったようだな!
ペグより包丁の方が若干リーチが長いので、ペグの間合いに持ち込まれた場合と比べると安全圏内で戦うことができる。
突撃をキメたあと、身体をおもいっきり捻り得意の袈裟斬りを繰り出す。
この初擊は逆手に持っていたペグで受け流された、まあこれくらいはやってくれないと面白くないよな!
だが、これだけで済むとは思うなよ!
「そこで普通は軌道変えられないのら!?
人体構造を無視して動いているのら~!?」
受け流された包丁の軌道を無理やり変え、今度は横凪ぎでの斬擊を繰り出す。
タイミングとしては間違いなく決まるはずの攻撃。
だが、上半身を後ろに逸らし、横凪ぎを回避して見せられた。
そして、その上半身を逸らしている姿勢を活かして俺が想定していた以上の異常なスピードでバク天を連続できめて一旦距離を取られた。
そして、置き土産のようにバク天の一回目で蹴りを入れられてしまった。
ちっっっ、やるじゃないかぁ!
俺は蹴られた腕を擦りながらも【ペグ忍者】から目を離さないようにする。
さっきの攻防、明らかに俺に有利な局面だったのにも関わらずこの有り様。
最後のバク天後からの急加速はいったいなんだったんだ!?
それまでの行動とは明らかにスピードが違った。
「必殺の攻撃が決まりそうになって油断してたのら?
種族の壁を打ち破ったからには、そこまで甘くないのら!」
ほう、種族の壁を打ち破った……
……ふぅん?
「その顔はなんなのら!?
今度はこっちから攻めるのら!」
ペグ忍者はペグを俺に向けて投擲してきた。
そして、目の前の幼女は両手を地面につけた。
メインウェポンのチュートリアル武器を投げる……ということは!
飛んできたペグをあえて最小限の動きではなく、大幅に間隔を空けて回避する。
すると、ペグが通りすぎていった軌道上を先程と同じように異常な急加速で【ペグ忍者】が通り抜けていった。
通りすぎた後の風圧はまるで電車が通り抜けたかのようだった。
やはり、底辺種族である人間の動きではないなぁ~?
「この攻撃はレイドボスで使ってたからバレてたのら……?
迂闊だったのら……」
そう、新緑都市アネイブルレイドボス攻略で何度か使っていたワイヤーアクションだ。
ただ、あの時は空中回避のために使っていた印象があったのだが、今回は攻撃に使ってきた。
そのパターンの変化は多分……そいつに秘密があるんだろうなぁ?
俺は【ペグ忍者】の頭を指差してそう伝えた。
「そいつなのら?
……っっっつ!?
ああああっ、しまったのらぁ!?」
【ペグ忍者】は頭を両手で抑えて焦っている。
それに対して、俺の手にはさっきまで淫乱ペド忍者が被っていた猫耳頭巾がある。
急加速の攻撃をかわす際にパクっておいたのだ。
そして、猫耳頭巾の下から現れたのは……また猫耳だ。
ただ、頭巾についているような作り物ではない。
めっちゃピクピク動いている、そう、生きているのだ。
そして、生えている。
さぁて?それはいったいどういうことかなぁ?
説明してもらおうじゃないかぁ、検証班の【ペグ忍者】さんよぉ~!
完全に不良のカツアゲシーンである。
「この人がいっぱいいるなかで、詳しい情報は話せないのら……
だけど、1つだけ分かりやすく教えてあげるのら!
【ペグ忍者】は種族転生に成功したのら~!」
種族転生!?
そんなことがこのプレイヤーに人権のないどん底ゲームで可能なのか!?
俺は驚愕した。
つまり、底辺種族と呼ばれるプレイヤーのデフォルト種族から抜け出す方法があるということだ。
その情報に観客席がざわめく。
まあ、こんな大きい場面でそんな重要情報が公開されたんだ、無理もないだろう。
それにしても種族転生ね……
ちなみにお前はどんな種族になったんだ?
まあ、見ればなんとなく分かるが……
「これは【獣人】なのら~
【獣人】の中にも色々種類があるみたいだったでしゅが、【ペグ忍者】ではその中でも【猫獣人】しか選べそうに無かったのら……」
ほう、【獣人】ね。
これまたファンタジーものの定番中の定番だな。
人よりもパワーが強かったり、スピードがあったりするというのがよくある設定だな。
……まあ、このどん底ゲームでそんなメリットばかり提示してくるのはどう考えてもあり得ないから何かしら大きなデメリットが隠されているんだろうけど。
「……ううっ……ひ、秘密なのらぁ!
あっ、会場のプレイヤーしゃんたちに伝えておくのら~
この後検証班に聞きに来ても種族転生の情報は売れましゅが、情報料は法外に高いのら!
……それに、格段にプレイが上手いと自負できるプレイヤーじゃないと多分試練は乗り越えられないのら♪
それくらい難易度は高いのら!」
この動揺具合からすると、やはりデメリットはあるようだな。
……獣人の定番デメリットか。
ネタバレになるかもしれないが、多分いわゆる魔法が使えないあるいは魔法の弱体化みたいなものだろう。
多くの創作で獣人はフィジカルは強く、反面魔法関係に弱いということになっている場合が多い。
もしかすると【魚尾砲撃】はあまり警戒しなくてもいいのかもな。
……それと、種族転生のためには試練があるのか。
この淫乱ピンク髪猫耳頭巾ペド忍者からして高難易度ってことは現段階では、ほとんどのプレイヤーはクリアできないだろうな。
それにしても試練……なんだか聞き覚えが……
ああああ!ルル様相手に俺試練受けてたなぁ!
あれは種族転生のためのやつだったのか!
……たしかにルル様、「我ら深淵に潜むものは、冒険者に試練を課し、己の力を授ける」みたいなこと言ってたな。
あれ、【深淵細胞】を与えるみたいな意味合いだと思ってたけど、種族転生イベントだったのね!?
不完全に合格したから種族転生できなかったんだろう……
内容は多分違うんだろうけど、あのレベルで求められるならそりゃ種族転生は高難易度ってわけだ。
というかよくこの淫乱ピンク髪猫耳頭巾ペド忍者はクリアできたな。
「流石にバレたからには、ある程度情報公開しないと検証班が後から燃えそうだから説明したのら。
それも終わったから【包丁戦士】しゃん、戦闘続行なのら!」
地味に計算高い【ペグ忍者】との戦闘の本番はこれからだ!
情報が露見したからには本領を発揮してくるに違いない、気を引き締めなければ!
この次元唯一の底辺種族じゃないプレイヤーですね。
今後増えることを期待してますよ?
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