766話 試合と勝負
竜人の力を引き出しているならまずはあのスキルで下準備するのが定石だ!
スキル発動!【波状風流】!
俺は風を生み出すスプリンクラーを地面に設置し、そのスプリンクラーから流れ出た風に乗って【ロイス=キャメル】へ攻撃するために飛行しながら空へと浮かび上がった。
俺は【風船飛行士】のように完全に風を読みきるなんて芸当は出来ないが、それでも流れる方向に合わせて後から身体を合わせることは可能だ!
風の勢いで超スピードのまま上空へと飛翔していき、風の影響が届かなくなったところで包丁を構え直した。
「その空中での機動力……鳥獣人では真似できないだろうな。
実に興味深い挙動だが、それで私に攻撃を入れられるかは別だ」
そりゃそうだ。
ここまで見ても分からないだろうから、この風を活用した攻撃を見せてやる!
俺は滑空するように一気に上空から落下し、一直線で【ロイス=キャメル】に包丁を突き立てるために包丁を地面に垂直になるようにして振り下ろした。
「おお……
この手に伝わってくる強烈な力の感触……っ!
上空から落下することで位置エネルギーを利用したというわけか。
完全に攻撃の勢いを消すつもりで受け流したのだが、それでも手が痺れてしまったよ」
どうやら【ロイス=キャメル】に一泡吹かせてやれたようだな。
【ロイス=キャメル】は恍惚とした表情を浮かべながらも、一方でしてやられたという苦しい表情も同時に浮かべていたからな!
「だが、そのような強烈な攻撃の後にこれを凌ぐ術はあるのかね?
スキル発動!【以心相馬】!」
【ロイス=キャメル】は先ほどから何度か使ってきている【伝播】の力を持つ馬のスキルを起動してきた。
そして、痺れる手で握るステッキで放ってきたのは下方からの振り上げだった。
棒術は突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀と言われるほど応用が利きやすいとされている。
今回の場合薙刀のような使い方だと言えるだろう。
俺はそれを翼と流れる風を利用して回避していく。
悪竜翼と風の力があれば、スキル【以心相馬】による認識の誤認を無視して一瞬のうちに大幅に回避することが可能だからな!
相手に追撃を許してしまう完全防御体勢を取らなくても良いのは俺の心労的にも助かるぞ。
そしてやはり、ステッキから距離さえとってしまえば認識をズラされたとしても当たることはなかった。
そうして安心していた俺だったが、【ロイス=キャメル】の顔には落ち着きがあった。
……まさか!?
「そう、君がこれをかわすことは読んでいたさ。
だからこそ次の一撃はどうだろうか?
スキル発動!【猿炎之勢】!」
【ロイス=キャメル】は振り上げの攻撃が終わった瞬間にスキルの発動を宣言してきた。
するとどうだろうか、完全に攻撃を回避したはずの俺の腰から胸元にかけて炎の亀裂が浮かび上がり身体を焼き始めた。
熱い熱い熱い!!!
どうしてこうなった!?
攻撃の動作は見えなかったのに、俺に炎の斬痕が刻み込まれているなんて想定外にもほどがある。
……そんな混乱の中にあっても俺は身を焼く斬痕から溢れ出る光の粒子を見ながら、自分の敗北を悟った。
今の俺の回避行動は完全に誘導されていたように思える。
もし、あそこで追撃を恐れずに完全防御体勢を取っていたら?そう考えずにはいられない。
結果はどうなるにせよ、後味の悪い負け方だった……
でも、試合に負けて勝負には勝ったようだぞ!
お前を引き留めておくという目的を果たしたという点では俺の勝ちだ!
ざまーみろ!
俺は胸を抑えつつも、脳内に鳴り響いてきた無機質な声による宣言によって自身の戦いが勝利に終わったことを実感できた。
【ワールドアナウンス】
【包丁次元のプレイヤーによって【憤怒するアンカーの石像】が破壊されました】
【【咎死人】たちへのバフ供給の一部が停止しました】
【【咎死人】のGK個体が一体消失しました(4/7)】
どうやら破壊できた石像は【憤怒するアンカーの石像】のようだ。
つまり、【夢魔たこす】ゾンビと戦うことは避けられたということだ。
あいつは包丁次元では全く攻略の進んでいない海の力を使うから、どんなスキルでも俺にとっては初見になり得る相手だった。
そう考えると戦う前に潰せたのは幸運だったかもしれない。
「ふむ、思わず戦闘で舞い上がってしまっていたようだ。
君との戦闘が私をあまりにも興奮させてしまうので、次元戦争という大局を見ることを失念してしまっていた。
やれやれ、年甲斐もなくはしゃいでしまうのも考えものだな」
そう言いつつも満足げな【ロイス=キャメル】を最後に視界に映しながら、俺は光の粒子となって死に戻りすることとなった……
最終的に勝てば問題ない!!!
経過はあくまでも経過なのだ!!!
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