765話 干支ワール
「小手調べはこのくらいにしておこう。
君の実力を侮っているわけではないからね。
これはただ、私の調整に付き合ってもらっただけだ」
そう易々と言ってのけた【ロイス=キャメル】。
あの一撃が調整のためのものだって?
底知れない実力を隠しているのは知っていたが、俺が対応しきれない攻撃をこれから連打されたらたまったものじゃない。
「君の身長に攻撃を補正させてもらったよ。
君ほどの実力者で、君のような幼い者は少ないからね。
私としても感覚にズレがあったわけだ。
だが、これからは鋭くいかせてもらうとしよう。
スキル発動!【以心相馬】!」
【ロイス=キャメル】は全く聞き覚えのないスキルを発動させながら俺にステッキで突きを繰り出してきた。
これまでのものと比べると単調な突きだったが、スキルを発動させてきたからには何かがある。
そう思いつつも、俺は包丁でステッキ振り払おうとした。
んんっ!?
なんだこれは!?
だが、【ロイス=キャメル】のステッキに俺の包丁が当たったと思った場面で、全く手応えがないことに気がついた。
そして、次の瞬間には俺の脇腹にステッキが直撃していた。
感覚がズラされたような感じだった。
スキルの名前は【以心相馬】というものだが、これは以毛相馬という四字熟語の変形だろう。
意味は外見で人を判断することはできないということ、馬の毛の色ですぐれた馬を見分けようとするということだがこれが感覚のズレに影響していたのか?
スキルの名前からして多分【伝播】の力が関わっているはずだが……馬の文字が入っているのが気になる。
馬のレイドボスがいたってことなんだろうが、包丁次元ではそんな話が一切出てないからどんな特性なのか分析する材料がないのだ。
「おや、その様子からしてこのスキルは初見だったようだ。
私の次元では干支聖獣が多く生存していたのでアドバンテージが取りやすいな。
獣人のバリエーションも君が思っているよりもおおいはずだ」
そんなことだろうと思ったぞ。
干支聖獣という括りははじめて聞いたが、馬が聖獣扱いされてるならジャンルとしては一番に干支が思いつくからな。
狐とか猫とか亀は干支に含まれていないから、聖獣と一口で言っても母数の関係で様々な言われ方をしたんだろうな……
流石に馬関係で予測するのは止めるが、【伝播】の力という想定で動いてみるしかない。
「ではもう一度いかせてもらおう。
スキル発動!【以心相馬】!」
【ロイス=キャメル】は先ほどと同じスキルを使ってきた。
だが、今度は突きではなく上段からの振り下ろしだった。
鋭い軌道を描きながら俺の頭部を捉えようとしたステッキを俺はかわす……のではなく、包丁を横にして頭の上で構えて左手を添えて完全防御姿勢に入った。
俺がプレイヤー相手にこんな防御姿勢を取らされたのは数えるられるほど少ないが、攻撃場所の認識をズラされるのならある程度ズレても対応できる方法で凌いで様子を見るしかない。
屈辱だがそう考えたからこその対応だ。
そうしてステッキを受け止めてみると、やはり俺が想定していた場所よりもやや右側にステッキが振り下ろされていた。
包丁の中心で受け止めたつもりが、柄に近いところでステッキがぶつかってきたから間違いないだろう。
効果範囲を抑えているのか、完全に使いこなせていないのか不明だがそんなに派手な効果じゃないがその分連発できるようだし非常に厄介だな……
デメリットがあるならそこにつけ入れそうだが……
「そう簡単には探らせんよ」
俺が思考を巡らせている一瞬にも【ロイス=キャメル】は技巧を凝らした棒術を披露して、絶え間なく攻撃を続けてきている。
あえてスキルを使わず俺と打ち合ってきているからこそ、ヒントが増えず疑心暗鬼を誘ってきているのが鬱陶しいな。
スキルを使ってこないのなら、今度はこっちからいくぞ!
スキル発動!【竜鱗図冊】!
俺は仕舞っていた巻物を取り出し、それを一気に広げて漆黒の竜鱗を巻物から発生させた。
それを包丁に纏わせていくのと同時に、漆黒の竜翼を生やしていく。
これが俺の悪竜モード!
邪悪竜人にさえ種族転生可能なパワーを秘めた姿だ!
「それが君の次の一手というわけか。
先ほど君の次元では竜人が主流と言っていたが、君もその力を振るえるようだ。
面白い、是非ともその力を見せてくれたまえ!」
俺よりも戦闘経験が豊富なのは認めるが、一々俺を試すような言いぶりなのは気にくわないな!
わかった、そんなに力を見せてほしいなら見せてやる!
その天狗のように伸びた鼻……この悪竜の力でへし折ってやるよ!
その深淵に染まった翼の力を見せつけてやるのだ!
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