763話 除け者の流儀
というわけで、俺たちは前に城塞の外に脱出した抜け穴から【死屍累々城塞バンデット】の外へと這い出ていった。
ゾンビが攻めてきている時には正規の出入口があるんだが、今のタイミングで出られるのはこのような抜け穴しかない。
外に留まり続けたプレイヤーもいたようだが【強欲なる咎死人】を倒した後、一定時間が過ぎたら城塞内部に無理矢理転送させられたらしい。
だからこそこの抜け穴はかなりの価値がある。
これを見つけたクラン【包丁戦士狂教団】のモブプレイヤーは本当にお手柄だったってわけだ!
そうして抜け出した俺たちは城塞から漏れ出る微かな光を頼りに先へと進み始めた。
「ゾンビたちと戦っていた場所付近はまだ見えるが、そこから先に進むとこんなに暗いンゴねぇwww
ヤバスギワロタwww」
この辺の暗さは不親切仕様だよな。
俺はプレイヤーキラーだから足音の反響でなんとなく地形が分かるので躓いたりすることはないが、それでも歩きにくいことこの上ない。
「先輩、ここからどこに向かっているんッスか?
結局さっき教えてくれなかったッスよね」
「それならオレが説明してやろうwww
お前たちは強欲と怠惰のゾンビを倒す前に、釣竿の石像を破壊しただろwww
それでゲートキーパーが一体減ったってアナウンスが流れたからなwww
つまりあらかじめ武器の形をした石像さえ破壊出来たら戦う回数を減らせるンゴねぇwww」
「あーそういうことだったッスか……
寝不足ッスから、頭が回ってなかったッスね……
普通に考えたら思いつきそうだったのに」
寝不足の【バットシーフ】後輩に【風船飛行士】が俺の目的を説明してくれているようだ。
手間が省けて助かる。
そう、これから探しに行くのはMVPプレイヤーたちが使っていたチュートリアル武器の形をした石像だ。
分母が7だったということは、この次元戦争に参加している包丁、ステッキ、十字架は除外されている……と思う。
完全にランダム選出で3つ除外されたのもランダムだったら知らないがな。
そして、釣竿の石像を破壊して、ピッケルと蛇腹剣を使うゾンビを倒した。
だから残っているのは望遠鏡、アンカー、パイルバンカー、聖剣だ。
この中でも一番破壊したいのは聖剣、次点でパイルバンカーだが、どの方角にどの石像があるのかは一切不明である。
だからこそ、どれでも見つけ次第破壊するつもりだ。
釣竿の石像を破壊した時のことを参考にするのなら、どうせ俺たちに与えられている猶予期間は石像一個分の時間だ。
見つけたらラッキーくらいで考えておこう。
石像の破壊はおそらくゲートキーパーの【咎死人】討伐よりは低いと思うが、それなりに最終評価でプラスに働くだろうからな。
「……そう考えているのはオレたちだけじゃなかったようだぞwww
石像までたどり着いてないのにさっそくハプニング発生でワロタwww」
「えっ、何ッスか!?
何ッスか!?」
【風船飛行士】が少し慌てた様子で何処か遠いところを見つめていた。
そういえば【風船飛行士】は風の流れが読めるんだったな。
俺にはまだ感じ取れていない範囲の場所で何かが起こっているのだろう。
このタイミングでこの辺りに来る連中には心当たりがある。
どうやらもたもたしている時間は残されていないらしい。
俺たちの獲物を先取りされてしまったらせっかくのアドバンテージがイーブンな状態に戻されてしまうからなな。
暗闇の中で不安なやつもとりあえず急げ!!!
とりあえず全速全開!直進だ!!!
まっすぐ進めば迷うことはないはずだからな!
やつらに先を越される前に石像までたどり着くぞ!
俺は柄でもないが、ここにいる包丁次元のプレイヤーたちを鼓舞して全体の士気を上げようとした。
俺にいい感情を持っているやつは少ないだろうが、それでもトッププレイヤーとしての実績がある俺の言葉を多少なりとも信用してくれるプレイヤーは多かった。
これまでの散歩のようなペースから一転して、俺たちは暗闇のなかへと駆け出していくことになった。
「ここから間に合えばいいがなwww
包丁次元のプレイヤーよりもあっちの方が進むペースは早いぞwww」
「こっちも全力で走ってるのに何でこっちよりも速い相手がいるッスか!?
なんでそんなことが起きるッスか!?」
それはまぁ、あいつらの持っている特性を考えたら十分に考えられる結果だから想定内だ。
【バットシーフ】後輩は動揺しているようだったが、俺には当然のことのように捉えられた。
向こうが速かろうと、今先行しているのは俺たちだ!
このまま逃げ切ってしまえばいい!
「そういうことなら……
俺っちがクラン【紅蓮砂漠隊】から盗んできたトラバサミとか設置しておくッスよ!
引っ掛かってくれるか知らないッスけど、警戒してくれるなら儲けものッス!
だから先輩たちは俺っちを置いて先に進んで欲しいッス!」
【バットシーフ】後輩……お前……っ!!
【バットシーフ】後輩は自分を囮に俺たちの後ろをついてきている連中を足止めするつもりのようだ。
ここで一人置いていくというのは死に戻りが許されているこの次元戦争なら有効な戦術だ。
だが、任せていいのか?
お前一人には荷が重いと思うが……
「任せて欲しいッス!
別に無理して勝つつもりはないッスからね。
先輩たちが石像を見つけるまでの時間を少しでも作れるなら俺っちの犠牲は安いものッスよ!」
そう言い切った【バットシーフ】後輩は眠そうな目を擦りながらも、その目の奥には決意に燃えた熱い炎が宿っていた。
……これなら任せられそうだな。
頼んだぞ、【バットシーフ】後輩!!!!
精一杯嫌がらせしてやってくれ、それが俺たちクラン【コラテラルダメージ】の流儀だ!
迷惑な流儀カニね……
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