758話 フィレオクロス
お前ら!
とりあえず近づけるだけ近づけ!
そうしたら……あとは分かるな?
「御心のままに!
狂巫女様、やらせていただきます!」
「【包丁戦士】様、先陣は私たちにお任せを!」
「【包丁戦士狂教団】についていくのも気が引けるが、とりあえず行くか……」
「クラン【裏の人脈】の力を見せるとき!」
包丁次元のプレイヤーは俺よりも先に怠惰の権能によって支配された円陣の中に入り込んでいった。
そして、ゆっくりと……攻撃行動をとらないように気をつけながらソロリソロリと【マキ】ゾンビを取り囲んでいっている。
端から見ると幼女をよってかかって囲い込んでいるようにしか見えないので、こちらが悪者に思えてきてしまうがあっちはモンスターだ!
容赦はいらないぞ!
「「「「「「「スキル発動!【魚尾砲撃】!!!!!」」」」」」」
【マキ】ゾンビを取り囲んだ包丁次元のプレイヤーたちはスキルの発動によって体内で急速にエネルギーを貯えていっている。
だが、そのエネルギーの貯蓄は勢いが衰えることを知らず、プレイヤーたちの身体が張りつめるように膨れ上がりながらも更にエネルギーは集まっていっている。
「うおおおおおおお!!!???」
そして、そのエネルギーの蓄積が出来なくなったプレイヤーの身体はまるで風船が割れるかのように破裂して爆発を起こした。
その爆発が原因で周囲にいたプレイヤーたちの体内エネルギーのバランスが急に崩れ、次から次へと爆発の余波が広がっていく。
そして、崩れたバランスの中でエネルギーが貯めておくことが出来るわけもなく……
「うわわわわわわわ!?」
「んんんんんんっ!!!」
抑えきれない声を上げながら連鎖的に爆発していった!
これぞまさに底辺種族爆弾!
どん底にいる種族にお似合いの超火力戦術だ!
【……っ!】
おっ、流石に全方向を囲まれて爆発されたらスローになってもかわせなかったようだな!
防御の要になっている巨大蛇腹剣を怠惰の権能によって支配された円陣の維持に使っていなかったら、もしかしたらダメージが半減くらいしていたかもしれないが……もはや後の祭りだ!
爆発の後煙が晴れると、そこにはボロボロになった【マキ】ゾンビがいた。
「ちっ、仕留めきれなかったじゃねぇかァ!?
イベント限定のボスなだけあって、プレイヤー相手よりもタフなこった」
いちいち俺の側でぼやくなよ【綺羅星天奈】……
ちゃっかり十字架を地面から抜き放ち俺に並走してきていたようだ。
お前は風の結界を維持してくれていたらそれでよかったのに、わざわざ来てくれるとは勇ましいな。
「アァン?
結界で守る味方がさっきの爆発で壊滅してんだから、ここから結界を維持する必要もねぇだろォ……
随分派手にやってくれたじゃねぇか」
ほぼ全員が【マキ】ゾンビを取り囲んでいたので、爆発で全滅してしまったからな。
でも、お陰でお前が自由に動けるだろ?
周りの目を気にせず暴れられる状況を作ってやったんだから、最後の一撃くらい目一杯ぶっぱなしてくれてもいいんじゃないか?
「アァン?
オメェ……そんなことまで考えて味方を爆発させたのかよ!?
頭おかしいんじゃねぇの?」
二重人格並みに態度をコロコロと変えるお前には言われたくないセリフだ。
「ちっ、それならお互い様っつーことにしておくかァ!
あのゾンビはもう死にかけのボロ雑巾だ、次の一撃で仕留める!」
そうこなくちゃな!
わざわざここまでお膳立てしてやったんだから、ノッてくれなかったら俺が泣いてたぞ……
「最後はアタイたちのカタカナスキルで決めるぜェ!
スキル発動!【サザンクロス】!」
【綺羅星天奈】は十字架を回転させてそのまま【マキ】ゾンビに向かって殴りかかっていく。
あの押せ押せヤンキーモードかつ大罪スキルを介していない【綺羅星天奈】の攻撃といえば、前もこのスキルを使っていたんだったな。
あの時は【ギアフリィ】のカタカナスキルである【イグニッション】を相殺していた。
そんな回転する十字架を持ったまま攻撃しようとしている【綺羅星天奈】は何故か怠惰の権能の空間に入ってもスローモーションにならなかった。
なんだか知らんがチャンスだな!
俺もカタカナスキルで続くぞ!
スキル発動!【フィレオ】!
俺は包丁を振りかぶり、【マキ】ゾンビに向かって振り下ろした。
すると、包丁の軌道を延伸するかのように飛翔する斬撃が生み出され【マキ】ゾンビを刈り取ろうと飛んでいった。
スキルのデメリットとして俺の左腕があらぬ方向へとぶっ飛んでいったが、左腕くらい今さら些細な問題にもならない。
これもまた【サザンクロス】のように怠惰の権能の空間の影響を受けずに進行していっている。
「「オラァァァァ!!!!
食らいやがれぇぇぇぇ!!!」」
俺と【綺羅星天奈】の声がハモりながら【マキ】ゾンビに攻撃が命中し、じわりじわりとその幼い身体が軋み始めた。
【……っ!?
……ァ……ァァ……】
そうして【怠惰なる咎死人】は断末魔を響かせながらひび割れゆくように身体が瓦解し、地に落ちていき、そして粒子へとかわっていったのだった。
ゾンビが消えた証拠に、俺たちの脳内に無機質なアナウンスが鳴り響いた。
……とりあえずこれで安心して一息つけるってもんだな!
【ワールドアナウンス】
【【怠惰なる咎死人】が撃破されました】
【【咎死人】のGK個体が一体消失しました(2/7)】
【西方向の【怠惰なる咎死人】が率いるモンスターの襲来が止みました】
【荒野の自由】……許せなかったり、諦めたりする……
【Bottom Down-Online Now loading……】