752話 バッティングコーチ
【バットシーフ】後輩や【メリケンサックボクサー】がゾンビを倒していっているが、これでも若干圧されている。
十字架次元の【綺羅星天奈】がいる方向はむしろ戦線を押し上げていっていることから、それぞれの次元の主力部隊かどうかが分かれ目だろうな。
今の包丁次元の主力部隊は東側に行った【風船飛行士】と【トランポリン守兵】お嬢様の集団だ。
だからこそ、俺たち西側に来たプレイヤーたちは苦戦を強いられているというわけさ。
「先輩ももうちょっとマジメに戦ってほしいッスよ!
俺っちはこれ以上相手を増やせないッス!」
「ちわッス!
俺のスタイルでもこれ以上は無理です!」
ゾンビ一体一体の強さはそこまででもないが、絶えることのない物量作戦に圧されつつあるので俺も本腰をいれてやるか!
スキル発動!【天元顕現権限】!
俺は黄金色の粒子を背中に発生させて、黄金色の片翼を生やしていく。
【バットシーフ】後輩も翼を顕現させているのでペアルックになっているが、【バットシーフ】後輩がこの翼を使うのは日常茶飯事なのでそんなに気にすることもないか。
「それにここでこの天子の翼を使ってるのは俺っちたち二人だけじゃないッス!
あっちでも使っている人がいるッスからね」
【バットシーフ】後輩がチラリと見た方向には風のバリアを展開する聖女……【綺羅星天奈】の姿があった。
お互いに会話はしていないが、意識はしていることだろう。
そんなことを考えながら、俺は翼を使い上空から滑空してゾンビに包丁で切りかかっていく。
首の付け根がグラグラしていたからか、工場の流れ作業のように一気に切り裂くことができた。
地上でやっていたら物量に圧されて切り込めなかったが、上からなら狙いやすいゾンビに直接攻撃できるから都合が良いぞ。
「先輩、やっぱり凄いッスね!?
俺っちと同じ翼を使っているとは思えないゾンビキル捌きッス……
空中で身体を制御するのって難しいんッスよ」
「そうなのか……
俺は空を飛ばないから分かりませんけど!!!」
メリケンサックをハメた上半身半裸のムキムキの男が黄金色の翼を生やしていたら目を見開いてしまうだろう。
異質というか、もはや見た目の暴力としか言いようがない姿だろう。
……普通に見たくない光景だな……
そんな【メリケンサックボクサー】だが、地道に攻撃しているので安心して見ていられる。
むしろ、ゾンビの撃破数が多いはずの【バットシーフ】後輩の方が危なっかしいぞ!
俺が直々に戦闘を教えてやっているのになんだその戦闘は!
もっと腰を使ってバットを振れ!!
力が足りてないからたまにゾンビを討ち漏らしているぞ!
俺はバットを振り続ける【バットシーフ】後輩に檄を入れていく。
前よりは幾分かマシになってきたものの、戦闘そのものに引け目を感じているのかバットへ力を伝えるはずの身体全体を使った動きが中途半端になるときがある。
あっ、ほらっ!
今も攻撃力が足りずにゾンビを倒しきれなかったようだ。
採点をするのなら、ゾンビの急所を外している点やバットでの殴打のための重心がブレている……のが減点かな?
「せ、先輩厳しいッスよ!!
なまじ先輩が出来ているから反論しにくいッス……」
まあ、理屈はどうでもいい。
今は敵がわんさかいるからな。
こいつらを相手に千本ノックをしてやるといい、素振りのいい練習になるぞ~!
お前が得意な野球の感覚でやっていけ!
「ゾンビで素振りの練習って発想は無かったッスね!?
でも、その感覚ならいけそうな気がするッス!」
【バットシーフ】後輩は先程までとフォームやタメを変えて、本格的に野球のバッティングフォームに寄せてゾンビへの攻撃を再開していた。
一度後方に重心を寄せたあと、解放するように一気に前へ踏み込む!
そんな単純な変化だったが、攻撃として現れた変化としては大きな違いが生まれていた。
「倒せるっ!
倒せるッスよこれっ!」
タメを充分に行うようになったからかバットを振る回数は僅かに減ってしまったが、それを補ってもまだプラスになるほどバットのコントロールが上手くなっていた。
今までよりもバットがゾンビの芯を捉えるようになり、重心も安定するようになったので一発一発の威力が目に見えて上がったのだ!
今まで討ち漏らしていたゾンビを確実に葬れるようになったのは大きな変化だろう。
「ふっふっふっ、どうッスかこのパワー!
これで俺っちもトッププレイヤーたちに勝てるッスよ!」
それとこれとは別だぞ?
確かに威力は上がったが、ゾンビに通用する攻撃とプレイヤーに通用する攻撃を同じと考えているようではまだ一人前とは言えないな~
「そ、そんな~ッス!?」
一人前だったり、じゃなかったりする……
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