747話 共同軍
目と目が合ったら勝負、それがプレイヤーキラーの流儀だ!
俺は【ロイス=キャメル】に向かって包丁を突き出し、心臓に貫通させようとした。
だが、【ロイス=キャメル】はゆるりと……かつ無駄の無い動きで俺の包丁をステッキで捌き、一気に後退することで戦況を一度リセットしてきた。
「血気盛んなのは若者の特権だろうが、その判断は性急過ぎるのではないかね?
何せ、私は今この場で君と戦うつもりはないのだから」
【ロイス=キャメル】はステッキを手の中で回しながら俺へと忠言を飛ばしてきた。
……何?
戦う気はないだと?
それならどうして城塞から出てきて隠れていたんだ?
こんなところでコソコソとされていたら、俺じゃなくたって狙われてると思ってしまうはずだぞ!
俺は語気を強めながら【ロイス=キャメル】の忠言に対して苦言で返していった。
本当に戦う気が無いとしても……俺が言うのもなんだが【ロイス=キャメル】の初動が怪し過ぎるのが悪い。
「これは失礼した、君の言う通りでもある。
だがこれは次元戦争、私が怪しい行動をしていても咎められるのは不当ではないかね?
それに、攻撃してきたのは君からのはずだが」
ああ言えばこう言う……というのはこのことを言うのだろう。
俺が深く問い詰めるために、【ロイス=キャメル】の余裕という牙城を崩そうとしたのだが、まるで暖簾を手で押すかのように手応えがなく飄々と言葉巧みに逃げられる。
このまま【ロイス=キャメル】の思惑に乗るというのも癪だが、この紳士に俺が弁舌で勝てる気がしないのでここは大人しく退いてやろう。
意地を張っていても時間のロスにしかならなさそうだから仕方なくだぞ!
「やはり幼女というのは、こう……素直でなくてはな!」
俺はぞっと鳥肌が立った。
急にロリコン要素出してくるなよ……
お前がロリコンなのは知ってたけど、この話の流れで出てくるなんて思っても無かったぞ。
まあ、お前の目論みに乗ってやるからキリキリとどうするつもりだったのか吐いてくれ。
どうせ序盤なんだ、少しくらいは協力してやるよ。
俺が譲歩すると、【ロイス=キャメル】は少しだけ肩の力を抜いて話し始めた。
「君たちはこの暗闇の先に興味はあるかな?
実は私の助手を既に先行させているのだが、ただ待つだけなのも暇でね。
良かったら一緒に進むというのはどうだろうか」
助手を先行させている……か。
信憑性はあるが、この暗闇の先でその助手や仲間が待ち伏せをしていて、【ロイス=キャメル】についていった俺たちを一網打尽にしようと企んでいる可能性も否めない。
「そんなことはしないさ。
何せ、君を死に戻りさせたところでまだ最序盤だから私たちステッキ次元にとってはデメリットでしかない。
ここからもし包丁次元のプレイヤーに協力を求めようとしても、印象が悪ければ元も子もない」
……とステッキ次元のMVPプレイヤーである【ロイス=キャメル】は言っているが、これは勝手にそう思わせておこう。
実際は俺の信用をここで失ったとしても包丁次元のプレイヤーの半分以上は協力してくれる可能性がある。
俺はプレイヤーキラーだからな。
人望がないのだ。
そこからはお互いに深掘りすることもなく、【死屍累々城塞バンデット】から暗闇へと足を進めていく。
先頭は俺と【ロイス=キャメル】が担当する。
その後ろを【包丁戦士狂教団】のメンバーたちと、後から【ロイス=キャメル】が城塞の中から連れてきたステッキ次元のプレイヤー五人がついてきている。
【ロイス=キャメル】がステッキで地面を叩きながら進んでいるが、これは癖か何かだろうか?
こいつのことだから、多分違うだろうけど……
少し鬱陶しいが、我慢できないほどのものじゃないから放置しておこう。
「狂巫女様、この真っ暗闇の中の進軍は問題ないのでしょうか?」
「偉大なる【包丁戦士】様であるならばともかく、私たちには荷が重いのですが……」
【包丁戦士狂教団】のクランメンバーたちがボソボソと俺の耳元で自らの心配ごとを相談してきたが、そんなに心配ないだろう。
たとえ死んだとしても、今回の次元戦争は何度も死に戻りが許されている。
最悪、俺の肉壁になってくれたらそれだけで情報を一つ多く得られるはずだから安心して死ぬといいぞ!
「あぁ……っ!!
狂巫女様のために死ねるんですね!
なんと光栄なっ!?」
「ありがたき幸せ……」
こいつら……マジで大丈夫か?
絶対【黒杖魔導師】に魔法で洗脳とかされてるだろ……
滅私奉公とかそういうレベルまで俺への敬意が押し上げられている。
「うへぇ……包丁次元のプレイヤーってあんな感じなのか……」
「狂ってるな……」
「崇拝ってところだと十字架次元に近いけど、あっちはまだ清廉潔白な感じだったぞ!?」
「なんて混沌とした思考なんだ……」
ステッキ次元のモブプレイヤーが【包丁戦士狂教団】のモブプレイヤーに対して恐怖を感じたり、ドン引きしていたりする。
まあ仕方ないことではあるが、包丁次元のイメージがとんでもないことになりそうだな……
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