745話 そして少し残った
【ディメンションバトル】
【【1位 包丁次元】VS【3位 十字架次元】VS【4位 ステッキ次元】】
【終了条件 死屍累々城塞バンデッドの防衛もしくは破壊】
【異次元の風が吹き荒れている】
【包丁が血を求める】
【十字架が赦しを与える】
【ステッキが色を指し示す】
【Duel Start!】
【ゲーム運営からのアナウンス】
【今回の次元戦争で包丁次元が一位になった場合、十字架次元及びステッキ次元の世界からリソースが搾取されます】
やはり一位の次元が参加しているとリソースの搾取が毎回行われるらしい。
新緑都市アネイブルが拡張されたように既存エリアが拡張されるのかどうかは分からないが、遊べる場所が増えるのならやりがいはあるはずだ。
そして今回の相手は十字架次元とステッキ次元か……
両方とも一回しか戦ったことがないし、ステッキ次元なんて遺跡のシステムを使った非正規の次元戦争で戦っただけだからどちらも珍しいマッチングだ。
どちらも戦闘中に豹変するタイプのプレイヤーがMVPプレイヤーだったから、そういう意味では似た者同士だが豹変先が真逆だった気がする。
十字架次元のMVPプレイヤー【綺羅星天奈】ははじめ清楚そうな聖女で補助タンクプレイヤーとしての動きをするが、【虚飾】の大罪での豹変後はステゴロ聖女としてこっちの攻撃を拳で跳ね返してきていた。
レディースヤンキーって感じだったが、あれは大勢いる中では隠している本性だろうから今回はよほどのことがない限り清楚聖女として動くだろう。
そして、ステッキ次元のMVPプレイヤー【ロイス=キャメル】は英国風オジサン紳士で堅実な戦い方をする凄腕プレイヤーだったが、途中から【色欲】大罪で豹変してからはバ美肉したウサミミ魔法少女として戦ってきた。
近距離と中距離を切り替えて戦うタイプだが、あの時は他のプレイヤーが居なかったのでこの大人数の場合どのように動くのか全く読めない。
戦闘のプロみたいな雰囲気を出していたが、あれは俺のような個人でのことなのか、あるいは集団戦闘でも活かせるものなのかが勝負の分かれ目だな。
そんな風に他の次元のMVPプレイヤーたちに想いを馳せていると、俺の前に【風船飛行士】と【トランポリン守兵】お嬢様が現れてこれからの行動を伝えに来た。
「オレと【トランポリン守兵】は先に回らせてもらうンゴねぇwww
クラン【お屋敷】組と【冒険者の宴】のメンバーはついてこいwww
この城塞のマッピングを総当たりで終わらせるンゴwww」
「そういうことですので、【包丁戦士】様また後で合流することを楽しみにしておりますわ!
面白い情報を持参してくださいますことをお待ちしておりましてよ!」
そう言って東と南のトッププレイヤー一行が二方向に別れてこの【Battle field 死屍累々城塞バンデッド】のマッピングをしに行ったようだ。
その数約40人!
どうやら、あの2つのクランに参加していないメンバーもほとんどついていってしまったみたいだ。
MVPプレイヤーである俺を放置して何処かへ行くとはいい度胸だ……と思わないこともないが、俺はプレイヤーキラーだからな!
前の次元戦争の時もそうだったが、俺には絶望的に人望がない。
辻斬り紛いのことをしているプレイヤーの言うことなんて積極的に聞きたい奴はいないだろうから、こうなるのは自然の流れだ。
残っている10人はクラン【包丁戦士狂教団】で見たことあるようなやつや、【バットシーフ】後輩だ。
「クラン【裏の人脈】のメンバーもいるッスよ!
この人がクラン【裏の人脈】のクランリーダーの【メリケンサックボクサー】ッス!」
そう言われて紹介されたのは上半身半裸の筋肉ムキムキ男だ。
年齢は二十代半ばだろうか?
若さの中にも若干社会に呑まれたような気だるさのようなものを感じる。
拳にメリケンサックを装備しながらその半裸男が話しかけてきた。
「ちわッス【包丁戦士】さん!
【バットシーフ】がいつも世話になってるみたいでありがとうございます!」
声を張り上げて挨拶してきたのには好感を持てるが、その発言に俺は少し首をかしげた。
世話になっているというか【バットシーフ】後輩は俺のクランメンバーなんだがな……
「先輩、ここ【メリケンサックボクサー】に俺っちが【裏の人脈】に入っていないことを主張しても絶対聞いてくれないから無駄ッスよ!
この人、思い込んだら全く人の話を聞かなくなるッスから」
【バットシーフ】後輩がボソボソと俺に耳打ちしてきた。
多分だが、【バットシーフ】後輩は何度も説得……というか事実を伝えていたのだろう。
だが、何故か今もなお【バットシーフ】後輩が【裏の人脈】の幹部扱いされていることから上手く行かなかったというのは容易に想像できる。
まあ、クラン【コラテラルダメージ】はイベントごとの時以外はフリー行動だし掛け持ちしているのは全く構わないけどな。
それよりも、可憐な乙女の目の前で半裸っていうのはどうなんだ?
俺の目に毒だとは思わないのか?
「?
これが俺のスタイルなんで!
わざわざ変えないです!」
そういうものなのか……
いや、俺も半裸くらいでどうにかなるわけではないからそのままでいいけどさ。
「今回は【バットシーフ】共々【包丁戦士】さんのサポートをしますっ!
クラン【裏の人脈】の力で他の次元のプレイヤーたちから情報をすっぱ抜いてきますよ!」
ほう、そういえばクラン【裏の人脈】は情報系クランだったな。
クランリーダーが上半身半裸で筋肉ムキムキという力こそパワーを体現している見た目だから少し不安だが、【バットシーフ】後輩からこれまでの実績を何度も聞いているからそこは信頼してやろう。
「では、【バットシーフ】!
我らクラン【裏の人脈】の幹部出撃だ!」
「お、おーッス!
……先輩、というわけで後で戻ってくるッスよ」
そうして残っていた10人のうち五人ほどが離れていった。
クラン【裏の人脈】のメンバーが三人混ざっていたのか。
このランダム選出メンバーの中に関係者が合計五人いたってことは、思っていたよりも大規模クランなのか?
そして、【メリケンサックボクサー】と【バットシーフ】後輩にもついて行かなかったプレイヤーは五人だ。
……よし分かった。
お前たち、俺についてこーい!
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