742話 漆黒闇の急な杞憂
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
【大罪魔】がユニーククエストを出す準備を始めたので、俺も根回しに入ろうと思う。
前の沼地での抗争でもかなり準備して紙一重の勝利だったからな、今回準備を怠ったら敗けは濃厚だ。
だからこそ、やれることは少しでもやっておきたいところだ。
というわけでやってきました岩山エリア……【堅牢剣山ソイングレスト】。
ここにあるクラン【包丁戦士狂教団】のクランハウスへと突入していった。
他のクランハウスへの侵入は許可のあるプレイヤーしか出来ないが、このクランは言ってしまうのならば俺のファンクラブのようなものだからな。
俺が許可を得なくても勝手にクランの準最高権限を付与されていたから問題なく入ることができるのだ。
……クランに入ってもいないプレイヤーにそんな権限を与えるクランなんて全体を見てもごく少数しか無いだろう。
やろうとすれば内部崩壊みたいなことも出来るからな。
そんな権限をプレイヤーキラーである俺に与える奴らは中々見どころがあるから、実はこのクランのことはそこまで嫌いじゃないのだ。
「愚鈍混沌咎人【包丁戦士】。
我輩の崇高なる凶神神聖祭壇域へようこそ。
我輩たちが狂巫女を歓迎しよう」
俺を出迎えたのはファンタジー作品などで魔法使いが被る三角帽子と黒いローブを羽織った……いかにも怪しい魔法使いだ。
こいつは厨二病を患ってるability【現界超技術】の持ち主であり、異世界人の【黒杖魔導師】だ。
他のクランたちは立場が変われば俺にとって敵にも味方にもなったりするが、【黒杖魔導師】とこいつが率いるクラン【包丁戦士狂教団】は必ず味方になってくれるだろう。
だからこそ、俺は【大罪魔】との会話をそっくりそのまま【黒杖魔導師】に説明し次に発生するユニーククエストの内容をリークした。
この感じ……次元戦争やイベントの情報をリークしていた【菜刀天子】の立場を俺がやっているみたいな不思議な錯覚を覚えたが、デジャブのようなものだろうか。
「我輩は当然狂巫女と共に侵略に加担させてもらう。
ククク……この天貫く鋭利なる針山を我輩たちの漆黒闇で染め上げてやろうではないか!」
【黒杖魔導師】は高笑いをしながら俺に向かってそう語りかけてきた。
昔はこいつが何を言いたいのかさっぱり伝わってこなかったが、今はなんとなく分かるようになってきた。
今回の場合は、ただ「一緒に頑張ろう」という言葉を仰々しく言っているだけだ。
「大いなる罪が新たな領域を望むのであれば、我輩はそれに応えるのみ。
たとえ、異神に通ずるその道を閉ざすことになろうとも本望だ」
は?
何言っているんだこいつは……?
さっき【黒杖魔導師】のことが少し分かってきたとか生意気なことを言ってしまったが、全然そんなことはなかった。
やっぱりこいつの言葉は難解だぞ……
「我輩は早急にこの凶神神聖祭壇域の効果範囲を拡大させる儀式を執り行う準備をする。
ククク……漆黒闇を蔓延させることにより大いなる罪の制限を一時的に解除できるポイントを増やすのだ」
凶神神聖祭壇域は【大罪魔】が元々持っていた【失伝秘具】を改造して作成された祭壇だからな。
これの効果範囲を広げられるのなら【大罪魔】が【堅牢剣山ソイングレスト】侵攻作戦で大手を振って力を行使することが出来るようになるはずだ。
【無限湖沼ルルラシア】では【大罪魔】は戦闘途中でエネルギー切れしてしまったが、それを先延ばしに出来るのならやる価値は存分にある。
これで今度のユニーククエストは圧勝間違いなし!
俺たちの勝利は確実だ!
俺はニヤリと笑みを浮かべて勝利宣言をしたが、そんな俺を見た【黒杖魔導師】は少し心配そうな表情を浮かべていた。
「そんなお約束なセリフを使ってしまうとは……
露骨なフラグを今立ててしまって、我輩も流石に心配になってきた。
ククク……狂巫女なら大丈夫だと信じたいが、これは漆黒闇でも対処が出来ないのだ」
なーに心配ないだろ!
【上位権限】レイドボスが思いっきり暴れたら勝てるプレイヤーなんていないだろ!
杞憂だ杞憂!
……。
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