738話 結晶化毒
「これは……結晶化でして?」
【トランポリン守兵】お嬢様も困惑しているが、言っていることは間違いないだろう。
だが、じわじわとその範囲を広げていることから、この結晶化は毒の類いであると予想される。
【金剛海の輝虎魚】のモチーフになったであろうオコゼは、背ヒレを突き刺して毒を相手に注入することで知られているからな。
その性質がこのボトムダウンオンラインでも反映されているのだろう。
厄介なこと極まりないぞ……
こうなったなら仕方ない、この毒が身体に回りきる前に排除しないとな!
「【包丁戦士】様っ!?」
【トランポリン守兵】お嬢様が急に驚いていたが、俺はただ結晶化の毒によって使い物にならなくなった左腕を根本から包丁で切り落としただけだ。
そんなに驚かれるようなことはしていないと思うが?
「平然と自分の身体を切り落とす人を見て驚かない人がいると思いまして……?
淡々と自らの身体を切り捨てていく思考が狂人と呼ばれていらっしゃる理由でしてよ!」
俺は効率的に動くために切り捨てただけなんだがな……
まあ、【トランポリン守兵】お嬢様がどう思おうと俺は俺が思うように動くだけだがな!
「背ヒレの結晶化毒が危険ですわ!
今度は毒が無さそうな腹部を狙って攻撃してみますわよ!」
了解だ!
だが、【金剛海の輝虎魚】は海面にうつ伏せになっている。
うつ伏せの相手の腹部を攻撃するのは至難の技だぞ?
「そのためのワタクシですわ!
スキル【近所合壁】にはこのような使い方もありましてよ!」
【トランポリン守兵】お嬢様はそう言うと、【金剛海の輝虎魚】の真下にトランポリンを生成していた。
【金剛海の輝虎魚】は海面上にいたため、その揺れがトランポリンに乗ったときにも反映されて上下に跳ね始めたな。
「跳ねている相手であれば腹部も狙えましてよ!
さあ【包丁戦士】様、頼みましたわ!」
サンキュー【トランポリン守兵】お嬢様!
俺は【トランポリン守兵】お嬢様に感謝の言葉を飛ばしながら、トランポリンで跳ねている【金剛海の輝虎魚】に向かって駆けていく。
左腕を失っているので普段よりバランスは取りにくいが、俺はよく四肢を失うからな!
どこを失っても一定程度は動けるように訓練しているから、問題なく走り抜けていき【金剛海の輝虎魚】の腹部を包丁で切り裂こうとした。
……だが、腹部に包丁の刃先が当たると、まるで金属を切ろうとした時のような感触が手に伝わってきて刃が弾かれてしまった。
固すぎるだろっ!?
明らかに弱点だろうというポジションを狙ったのに、まさかガチガチに防御力が高い部位だとは思わなかったぞ……
「失敗しましたわね……
これは上手く行くと思いましたが、残念ですわ……」
トランポリンで浮かび上がった【金剛海の輝虎魚】は無防備だったから、いい線はいっていたと思う。
だが、俺の包丁による攻撃ではあの防御力は越えられなかった。
一撃の威力が高いプレイヤーの攻撃なら……効果的なパターンだっただろう。
俺の包丁は斬撃だが、チュートリアル武器が打撃系の武器ならなおのこと衝撃を与えられただろうし、今のパターンに俺が組み込まれたのはアンマッチとしか言いようがない。
「【包丁戦士】様は他の部位を攻撃した方が良さそうですわね。
折角ですので、色々と攻撃してみてくださいまし!」
戦闘開始早々に片腕を失っている時点で勝ち目は皆無だからな。
一種の検証だと思ってノビノビとやらせてもらおう。
俺はまず短めな尾びれを狙って袈裟斬りを放っていく。
さっきは失敗したが、俺の十八番である斬撃だ。
ここぞという時に頼っているせいか、無意識に袈裟斬りを選ぶことが多いのは自分でも気にしていたりはする。
そんな袈裟斬りが尾びれに当たると、少しだけ刃が通った感触が手に伝わってきた。
よしっ、ここならダメージが通るんだな!
全身ダイヤモンドみたいだったらどうしようかと思っていたが、僅かにだが勝機が見えたような気がした。
これなら勝てないこともないぞ、イケる!
思っていたよりもダメージを与えることが出来たので、俺は心のなかでガッツポーズをしていた。
だが、そんな俺に【トランポリン守兵】お嬢様は切羽詰まった声で叫んできた。
「【包丁戦士】様!
避けてくださいまし!」
へっ!?
急に何を言い出したんだ!?
【トランポリン守兵】お嬢様が見ていた方を見ると、そこでは【金剛海の輝虎魚】が背ヒレの棘から毒を分泌して俺に飛ばしてきている姿があった。
そして、その毒の塊が俺に降りかかり、目の前が真っ暗になってしまった……
そう、死に戻りさせられてしまったのだ……
楽しんでくれたようで何よりカニ!
【Bottom Down-Online Now loading……】
703話に挿し絵を追加しました。
興味があれば見てみてください。