733話 【包丁戦士】の実力
前日は2話更新しています。
前の話を読んでいないかたは前からどうぞ!
ちなみに、ロープ使いのモブプレイヤーは回復効果のある【花上楼閣】を設置しているが、少し離れたところでソロキャンプをしているのでこっちには全く干渉してきてないな。
「キャンプとは言っても見ての通り設営は終わってるわよ!
これからやることと言えば焚き火を囲むくらいだけど」
「あら、肝心なことを忘れているねぇ~
キャンプといえばキャンプ飯だよ。
ここからお嬢ちゃんの出番だねぇ」
あーはいはい。
そういうことね?
俺は料理系生産プレイヤーだからな。
わざわざキャンプにお呼ばれして俺がやることと言えば料理だろう。
「えっ、【包丁戦士】って料理できるの!?
てっきりプレイヤーを切ることしか楽しみを感じられない人種だと思ってたわ……
狂人とか蛮族とか言われてるし、料理なんて繊細なものが得意なんて信じられないよ~」
リデちゃんは俺に心ない言葉を浴びせてきたが、こういった反応をされることはよくあるので特段落ち込むようなことはしなかったが、やっぱりそう思われていたのか……という諦念を感じてしまった。
……というか、【短弓射手】は俺が料理系生産プレイヤーってことを知っていたんだな。
てっきり【短弓射手】から俺はプレイヤーキラーっていう認識しか持たれていないと思っていたぞ。
意外に思った俺は【短弓射手】にそう問いかけると、【短弓射手】はいつも顔に浮かべている不機嫌そうな表情を少しだけ崩して俺の質問に答えてきた。
「オジサン、こう見えてもお嬢ちゃんのことは色々と調べさせてもらっているからねぇ。
【荒野の自由】のユニーククエストを達成するためにプレイヤーキラーを一定回数倒さないといけなかったから、その有力候補の情報を集めるのは定石だよねぇ?」
なるほどな?
俺はプレイヤーに関する情報を事前に集めてから戦うタイプじゃないから頭から抜けていたが、データを活用するのも戦い方のうちの一つだからな。
【短弓射手】は歳を重ねているだけあって、より効率的な行動のために俺の情報を集めていたのだろう。
……可憐な乙女の情報を秘密裏に集めるオジサンって犯罪臭が凄いな!?
もはやストーカーか何かだろ……
「あらら、人聞きが悪いことを言わないで欲しいねぇ……
オジサン、本当にストーカーでアカウントが消されるかもしれないから勘弁して欲しいよ」
「えっ、オジチャンそんなことしてたんだ……」
まあ、俺はストーカーされててもそんなに気にしないけどほどほどにしておけよ……
ボマードちゃんや【ペグ忍者】、【トランポリン守兵】お嬢様辺りにやってたら本当に通報しかねないだろうし。
「それは安心してほしいねぇ。
プレイヤーキラーでお嬢ちゃん以上に警戒しないといけないプレイヤーなんていないからさ」
ま、そういうことにしておいてやるよ。
これ以上追及しても誰の利益にもならない話しか続かないだろうし……
はい、というわけでキャンプ飯だ!
「はい、【包丁戦士】に料理を任せるのは癪だけどこれが食材だよ。
何を作るのかは任せるから頑張ってね」
リデちゃんに社交辞令のような激励をもらったので、頑張るとしよう。
貰ったのは……肉、たまねぎ、ニンジン、じゃがいもか。
調味料は一式揃えているようだが、これで作るなら炒め物か?
「あっ、米がもう炊いてあるからね~」
リデちゃんが付け足すように言ってきた。
米があるならおかずとして炒め物でもいい気がするが、折角ここに呼ばれたのだ。
少し食材を追加して予想を覆してやろう!
そう考えた俺は包丁を自分に突き刺して死に戻りしていった。
【Raid Battle!】
【包丁戦士】
【包丁を冠する君主】
【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】
【サブ】ー【次元天子】【上位権限】
【聖獣を担うが故に】
【深淵へ誘い】
【聖邪の境界を流転させる】
【会うは別れの始め】
【合わせ物は離れ物】
【産声は死の始まり】
【この世の栄誉は去ってゆく】
【故に永遠なるものなど存在しない】
【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】
【ああ……この世は無情である】
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】
【レイドバトルを開始します】
はい、天子王宮の礼拝所に置いてあるスパイスをかき集めてきました。
「急に包丁で自害するのには度肝を抜かれたねぇ……」
「これが狂人……」
別にいいだろ、これが最速なんだし。
わざわざ徒歩で往復するのは馬鹿らしい。
……そうして持ってきたスパイスを掛け合わせてあるものを作っていく。
そして、そこから【短弓射手】たちが用意した食材を刻んだあと、フライパンに油をひいてスパイスを掛け合わせたものを投入していく。
そうしてフライパン全体に広がった後に、刻んだ食材を入れていく。
そして、皿に盛りつけられたお米の上にフライパンの中身をかけていくと出来上がったのは……
「カレーライスじゃん!
すごーい!」
「しかも本格的なカレーだねぇ……
わざわざ死んでまで持ってきたのには驚いたけど、嬉しいサプライズだ」
「おっ、カレーじゃん!
俺も貰っていい?」
匂いに誘われたのか、少し離れたところでソロキャンプをしていたロープ使いのモブプレイヤーも寄ってきた。
安心しろ、お前の分もちゃっかり作っておいたからな。
「くぅ~、この心遣いが身に染みるぅ!
俺も【包丁戦士狂教団】の奴らの気持ちがちょっと分かった気がするわ」
待て待て慌てるな!
それはちゃんと出来上がったカレーを食べてから言ってくれたほうが嬉しいんだが?
冷める前に食べてくれよ?
「そうよね、じゃあさっそくいただくわよ!」
「「「いただきます!」」」
三人はスプーンでライスを掬い、その後にカレーをライスに絡ませていく。
そして、そのまま口の中に運び入れた。
すると、三人は同時に目を見開き……
「「「凄く美味しい!!」」」
第一声はシンプルだが、素直な賞賛の言葉だった。
こういう感想が一番に出てくるのは嬉しいもんだな。
料理プレイヤー冥利に尽きるってもんだ。
「スパイシーで美味しいよ~!
【包丁戦士】が料理得意って本当だったんだ!」
「スパイシーだけど味が喧嘩してなくてオジサンでも食べやすいねぇ~
健康になれそうな味だよ」
「うはっ、美味すぎるんだが!
くぅ~最高じゃん!」
ふははは!!!
もっと誉めていいぞ!
食後のデザートにフルーツも切っておいたから、食べ終わったら教えてくれよな?
「いつの間に用意してたのか気になるねぇ……」
「て、手際が良すぎるわね!?」
「フルーツもいいけど、カレーのおかわりが欲しいぞ!」
そんな賑やかな様子で焚き火を囲みながら、ログアウトの時間までゆったりと過ごしたのだった……
飯テロカニ……
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